小説 運タマギルー 32

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ぱり赤ちゃんを出すところですものね。開発すれば開くものなのだわ。けれどもこれでわたしはもう二度と一般常識的な大きさは適さなくなった。でもでも、ご主人様はわたしにずっとご褒美を与えてくれるだろうから心配はしてないの。だってそうでしょう? わたしはもうぞっこんなのだから。

嗚呼、マリヤ様。わたしに真の悦びを――。

仰、仏よ。ワシに漲る魂を――。

獣同士の交尾はまるで歯を食いしばった我慢比べのようなもの。どちらかが敗北を屈しなければならない。そうでなければ腰砕けに陥ってしまう。セックスとはまさに命がけのようなもの。

ほら、むこうにザナドゥ―の泉があるでしょう? でもでも、あそこの水は飲めないの。一口でも飲み干してみなさいな。あなたの生気はすべて吸いとられてしまうのよ。死んでしまうの。それってごめんあそばせでしょう?

互いのエクスタシーが激しくぶつかり合う。もう何も見えない。獣の世界はまさに真っ白そのものだった。

いくいくいく!

ゆくぞゆくぞゆくぞ!

嗚呼――!

仰――!

精子を子宮にぶちまける。子宮に精子が突き刺さる。脳天はハンマーで破壊されたようにして崩れ落ちている。いや、もろくもすべては崩れ落ちた。それは唯々、破壊の狂騒曲だったにすぎない。けれども、これはあまりにも多量のザーメン。

すべてを受け止めるにはお腹いっぱい破裂しそうだわ。それからお掃除フェラチオをして差し上げるの。ご主人様はたいそう喜んでくれたわ。

「ベッキーよ。今夜からワシの嫁じゃけのう。ワシの妻じゃ」

「はい、ご主人様……」

翌日は二人ともに全裸のまま昼前まで寝ていた。疲れ切っていた。精魂尽きてしまったかのように全身は筋肉痛。ひどくだるかった。こんな時に栄養ドリンクでもあったらよかったのに。けれどもそんな時代の話ではないことを、この藁ぶきの屋敷から再認識したベッキーは、とりあえず力を出そうと、取り置きしている紅芋を焚いて差し上げることにした。

今日からわたしは妻ですもの。しっかりしなきゃ。たくましく生きなきゃ。

「ベッキーよ。ワシは水くみに行ってくるでのう」

「それならわたしも一緒に!」

いや、それには及ばん。逆に邪魔となるだけだしのう。水を汲んで運ぶには、お前の身体は細すぎるのじゃよ。肩の血肉が噴き出すばかりか、骨まで折れてしまう。なあに、力仕事はワシに任せて、おまえは芋を拾って飯の支度をしてくれるだけでいい。

で、でも!

でもでもなんでも亭主の言う事を聞かんといかんぞ、ベッキー。さもなくば、痛い痛いお尻ぺんぺんのお仕置きじゃてな。わっはっはっ!

わ、わたし! 痛いの平気です!

なんだと? ならば肛門に親指じゃぞ? 石の礫でもいい。それでも聞かんか?

「わたし、マゾヒストなんです」

マゾヒスト? これまたけったいな言葉を使うものだな。今度はなんじゃ? 何の意味合いなのじゃ? ゆうてみよ!

おしおき、お仕置きが好きということです。性的にすきなんです。

性的とは? まさか官能的にということか?

はい。

とぼけた顔して痴態なおなごじゃのう。もうよい、わかった。ともに水くみへ行こうではないか。あとで泣いても知らんぞ!

ありがとうございます! ご主人様!

しかし困ったおなごじゃのう。拾うたのを少し後悔……。いや、そんなこともなかろうもん。これほどの美女はめったにおらんきにのう。実にもったいない話じゃ。仏さんは本当にワシなんかでよかったのかのう? いくら世捨て人とはいえ、上出来すぎるぞよ。こいつは天に向かって足を向けられんというやつじゃな。それからそれからおっかさんの墓場にもだ。若しかしたらおっかさんの化身かもわからん。用心に越したことはないが、一度身を合わせておるきにのう。呪いなんぞとやらはないだろう。しかしなあ、本当にもったいない話じゃ。

ベッキーにとって、天秤棒は少々重いと感じた。まだ水が入ってないのに、だ。水分を吸い込んでいる木製の桶はズシリとしていて、おまけに金型で形を整えられている。縄で円形を模っているのとは違うのだ。このころの時代には鉄が普及しており、農具の鍬も鋼鉄製である。そうでなければサトウキビなどを栽培できない。黒砂糖だって作れないのだ。

井戸は藁ぶき屋から少々離れており、道中は狭い道幅。片側斜面になっている個所だってあった。水こそ入ってないものの、とにかく肩が痛い。ギルーに見てもらうと赤と青の混じった痰ができていた。しかもげんこつみたいに膨らんでいるではないか。

「やはりお前には無理だ。天秤棒と樽は置いて先に帰っておれ」

はい……。すみません……。

ベッキーは泣く。くやしくて、情けなくて。それからご主人様のやさしさに、泣いた。やがて、とぼとぼ帰宅する。すると、一人の来客者の姿があった。アンダーの件もあったことでもあるが、またもやこの時代の男に襲われてしまいか心配だ。頭をよぎっただけでぞっとする。しかしながら成りがいい。これがこの時代でいう紳士的というやつか? ベッキーは思ったけれども、そのとおりで、言葉遣いも流暢で達者。

「今日の昼さがり、奴が斬首されてさらし者になる――」

さらし者? さらし首ってこと? 奴とは? まさかご主人様のことですか? そんな! ご主人様はそんなことをされる人ではありません! 本当に良い方なんです!

違う。斬首はアンダクエーボージャーのことをいう。

え? ほんとう、ですか……?

本当だ。それを伝えに来ただけのこと。それではさらばするよ。あ! それと、お嬢ちゃん。もしやギルーの旦那の女房かい?

え? 女房?

そうだ。

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