小説 運タマギルー 18

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なる。なあ、おっかあ……。明日はちゃんと起きてくれよな。起きてくれるだろうよ? ええ? どうなんだい?

ぎ、ギルーや。おっかあはな……、おっかさんはあんたが大きくなる姿を観れてほんとうによかっただ……。せめてな、せめて、いっちょ前のあんたを見届けたかったぜよ……。ごほう! ごほう!ごほう!

今宵は長い長い夜になりました。月明かりが窓辺から木漏れ日のようにして炊事場を、弱々しくも僅かながら照らしておりますよ。

とうとうおっかさんの声は聞こえなくなった中で、ギルーとボージャーは呆然として、只々、老婆の表情を目視するだけです。

嗚呼、終わったのだな。ひとつの時代が終わったんだな。

ギルーは、精根、疲れ果てた全身で、”だけど、明日も俺は、生きなければ……。”自身の心へそう檄を飛ばしたのです。

 

 

一番星の金星である暮れ明星と満月がランデブーするころあい、学君とベッキーは梓を取り残して公園のベンチにいた。梓とは先ほど今日のさよならをしたばかりである。

秋分の日に近い秋彼岸は数日前に越えたばかりだが、表面的な暑さをそのままにして、秋の気配があまり感じられない今年の十五夜。

ベッキーは今夜、帰宅が遅いことで両親に叱られることを覚悟していたし、それでも構いやしないと思っていた。

わたしが今すぐに帰りたくないのだからそれでいいのよ。だって、学君と幸せを感じている最中なのだし。それにね、わたしはまだ中学生だけれど、からだはどんどん大人へ変貌していっているの。ええ、そうよ。欲しているのよ、学君を。学君の汗のにおいを。欲しているの……。

今夜のキスはロッテのブルーベリー。接吻をする前には必ずガムを噛んで匂いを付けた。昨夜はフェリックスのチューインガムだった。それを学君はベッキーの口内で膨らましたものだから、割れた後の咽かえるような彼の臭いはたまらなく官能的に脳を刺激したものだ。

嗚呼、大人ってこんなにもいやらしくて生々しい恋愛をしているのね……。

真似事でしかない二人の恋は常に手探り状態。誰もしたことが無い新しいことをしようと思っていても、それは結局、先行する掘削者がいて、只の後追いでしかないことなど教えられなくとも悟っている。それは遺伝子からなのだろうか? 分からなかった。だが、とにかく完全に真新しいとまでは思えなかった。だから余計に掘削したくなる。次なる欲求に駆り立てられるのだ。あたかも人類進化論のごとく、駆り立てられた。

今夜はとても良い。

この時期も悪くはないわね、ねえ? そうでしょう? 学君。

さりげなく聞いてみる。

気持ちがたまらなく幸福感に満たされている。学君は最近、遠目で何かを見つめるそぶりをする。ベッキーはそんなことなど気にしてなどいない。彼女はそのままキスの夢心地からさめやらぬ状態でうつろに甘く学君の横顔を見つめた。

「なあ、今度の休みどこ行く?」

え? 何処でもよいけれど、そうね……。考えてみると、最近、この場所へ来てばかりだったね。だってお金がかからないじゃない? いちゃいちゃするのもちょうどいい場所だし。ねえ? それだけじゃつまらなかったりするの?

ちがうさ、そうじゃない。

「なあ、ベッキー。冷静と情熱のあいだってなんだと思う?」

おかしなことを言う人ね。困惑する。しかし答えねばならないのかと思うと辛い。

だってそうでしょう? そんな馬鹿な答えだなんてこの場にふさわしくないじゃない。わたしはね、もっとメルヘンチックに酔いたいの。それなのに学君たら……。

「答えなんてエンドレスだ。無限ループと言ってもいいかもしれない……」

またおかしなことを言う。彼の話など、もう、うんざり。何だか今すぐに帰りたくなる気分へと落ち込む。

学君たら、学君たら……。

だんだん腹が立ってくる。

何故だろう? わたしはむかついているのかしら? ちがう、そうではない。少しだけジェラシーの様ななんだか特別な思いなのよ。けれどもそれって劣等感に近いものがあるわ。決して悦びの思いではないの。ねえ、学君。おねがい、しっかりして。しっかりとわたしをリードしてくださいな。

「いつか、いつか終わりが来るんだろうか……?」

え――? 小さく風が吹く。たぶんそれは北風だろう。冷たい風。

秋はもうすぐそこまで来ているのだろうか? 満月と金星は二人の表情を照らし続けている。足らない分は近くの夜光灯が手助けしてくれていた。

「御免、何でもない。忘れてくれ。今日はそろそろ帰ろう。 もうこんな時間だしな」

うん……。

なんだか歯切れが悪い。うやむやにされた気持ちが大きいけれども、それでもベッキーは堪えて何も追求しなかった。

今夜は最後まで行くかもしれない――。そんな気持ちさえあった。

ペッティングの先にザナドゥ―が待ち受けていることなど、この年にしても誰もが知っていること。溢れ出る泉を観ておきたかった。確認しておきたかった。その世界は、一体、どんな夢心地なのだろう? と。

ベンチを去り際に気が付いたことなのだが、どうやら自分らのほかにもう一組カップルがいたようで、良く確認はしていないのだが、高校生らしかった。恵。正樹。と互いを呼び合っている声が耳を掠める。嗚呼、わたし達と同じように仲の良いカップルね。これからペッティングかしら? 年上先輩のカップルだからどうせ最後まで経験済みなのでしょうね? こんなだだっ広い公園で、ベンチの上で交尾するだなんて、なんていやらしいのかしら? 本当にうらやましい限りだわ。

「今日も暗いから玄関先まで送ってゆくよ」

ううん、いつものように一軒手前でさよならしましょう。お父さんがあなたへ説教しちゃったら困るし。

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