小説 運タマギルー 7

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さあさあ、生の紅イモを食べた後は少しばかり横になりますよ。季節は日向ぼっこに丁度良い時期。腹は満たされていなかったけれども、それでも若い幼児のギルーには深い睡魔が襲ってきましたよ。

一体どれくらい寝ただろうか? それは目を覚ましてみれば太陽の位置で分かりました。時刻は今の時代で言うところの十四時半頃です。おっかさんは既に起きて畑をせっせと耕していましたよ。ギルーは慌てふためいておっかさんの隣に行って真似事のように鍬を振りかざしては土を起こします。時折ある小石などは取っ払ってむこうのガジュマルあたりにポーンと投げつけました。おしいっ! 木に当たらなかった。

夕刻がもうすぐと言うところで畑仕事を終了します。これから向かう先は井戸ですよ。水をくむのと体を洗うことを目的として毎夕通っています。夕闇あたりは猛毒のハブが多数出没しますのでね、ことは明るいうちに起こさなければなりません。

「おっかあ! 背中流すよ!」

「その前にギルー、おまえの身体からだよ」

火照った汚れ汗でかゆい身体をお互いに露出させて、濡らした布で磨きます。ギルーは時折、おっかさんのおっぱいをさわり、きゅんと心を打たせました。お母さんのおっぱいというものは誰にだって特別なのです。ギルーは本当のところ甘えたかった。子供らしく甘えたくて仕方がなかった。苦労しかないこのご時世。せめておっぱいぐらいはちゅくちゅくとして母乳にありつきたかった。言えやしなかった。

ギルーはおもわず周囲の木々に目をやった。刻々と暗くなってゆく景色に今日も夜が来るのだなと感じましたよ。なんでもない、なんてことのないことだけれども、彼にとって母との戯れは一時一時がとても新鮮に感じたし、なによりも格別だったのです。

今夜の夕食も紅イモのふかしと田舎汁のみ。ときどきそこら辺に茂っている野ねぎを入れてから食します。野ねぎの香りはとても芳ばしく感じました。

「ギルーや、米が無くてごめんよ。あんたが生まれてからこのかたお米など見たことが無かったねぇ。ごめんよう。長い間、凶作が続いているものじゃて、しかたのないこともあろうもん。だけどなぁ、ギルーよ。あんたがもっと大きくなって京の首里へ上京した時は、あんたもいよいよお米をごちそうになる時が来るかもわからねえ。そのときは一粒一粒かみしめて米の甘さを味わってくれよう」

ギルーはこのかた甘いものを食べたことがありませんでした。凶作で取れた紅イモなど糖質が無いに等しかったのです。味はまるでジャガイモのようでした。おっかさんはせめてサトウキビをこしらえたかったのですが、それらは京へ納める税として上納される品です。とてもとても庶民の口に入ることなどありませんでした。許される行為ではなかったのです。万が一、口の中に入れてみろ。役人の手下、番人の空手家にカマで首をギッチョンされてしまうぞう。おそろしい恐ろしい噂が付きまとったほどです。

「おっかあ、空手家ってなんだ?」

「空ティー(空手)のことかい?」

「んだ。からてぃーのことだ。教えてけろ――!」

空手とは、琉球がいまだに三山(さんざんじだいのこと)で戦が絶えない時代に作られた唐手(からてぃー、トゥーティーとも呼ぶ)であり、中国が唐の時代もしくは唐船(とうしん。中国との貿易で黒砂糖や赤サンゴなどを運んでいた貿易船)の番人として少林寺拳法を習得すべく中国へ渡った部族がやがて独自の型を用意て誕生させた琉球武術のことである。

「武器を持たないで戦う武術の事さぁ」

「武術って?」

「あぎじゃばよ(なんだかな)。 あまり深いことは考えなくていい」

「おっかあもあまり良く知らないんだね?」

「うるさい。 怒ったら晩飯ぬきじゃぞ」

ギルーはこの話を境に空手のことが頭から離れなくなりましたよ。

それから京へのあこがれも芽生え始めて来たころの話です。いつかは京へ行って空手と言うやつを見物してみたい。これまで夢のなかったギルーはひとつの光を観たような気がしました。それはとてもまぶしくて、だけども星のようにどこか遠くに存在しているような、そんな感覚でした。季節はめくりめくりますよ。

ギルーが十歳になるころ、彼に一つの転機が訪れました。この村は港町で、森の中核にあるギルーの家から海岸へ下れば、京ほどではありませんが人口の数もそこそこで栄えていました。ギルーは時々、おっかさんの手伝いで豆腐の油揚げを買いに出かけたりするのですが、どうやら今日はそう簡単にはいかないようでしたよ。

この時代にもヤクザ者はいましてね、まだ組織と言う立派なものではありませんが、腕っ節のある問屋の番人連中が油揚げ屋の売り上げをカツアゲしていたのです。それはいけませんねぇ。ギルーはとても親孝行で人がいいです。そしてなによりも日頃の畑仕事で筋肉のコブは人一倍ありました。

「やい、お兄さんたちよ。見逃してやんなよ」

誰だ、小僧。

おいらかい? おいらはギルーってんだ。百姓の息子だ。

百姓の息子だって? わっはっはっは! ここに貧乏百姓の買える代物は無いぞ。さあ帰んな。

まて、おいらはあんたらのやり方が気に入らないんだ。おいらはこうしてちゃんと紅イモと油揚げを交換しに来ているのに、あんたらは天引きと来た。そりゃあ、やり方が汚いってもんだろう? ちがうかい?

何を言うか! ここは俺たちの島なんだよ。俺たちが掟だ。それとも小僧、一発げんこつ食らいたいのか?

ちょっと待っとくれよ。おいらは喧嘩しに来たんじゃねえ。でも仕方ないこともある。いっちょ力勝負しようじゃないか。

生意気な小僧だ。それっ――!

番人の一人がギルーの頭へ握りこぶしのげんこつを食らわそうとしましたよ。すると、どうでしょう? ギルーは素早くそいつの腕っ節をつかんで、図体もろとも軽くひょいっと向こう側へ投げ飛ばしました。それを観た番人連中はおもわず身を引きます。

「小僧、おぬし只者ではないな?」

「なんだったらあんたら全員投げ飛ばして恥かかせてもいいんだぜ」

まあ、まちねえ。小僧、気に入った。今日のところは勘弁してやる。今度会うときは問屋の敷地にある道場で、だ。俺が師範に話しつけといてやるから絶対に来い。白い飯をご

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