
滝川寛之の無料連載小説
目次
からなのね……。そう、あれはすべて夢の中の出来事だったのよ。だって、そうでしょう? わたしは、わたしは、ここに、この場所にいるのですものね。当然だわ。
「まなぶ、まなぶ、唸ってたぞ。また、あの夢を見たのか?」
そう、やっぱり夢だったのね。少し安心したわ。それならよかった。学君なんて人物は、きっとこの世にいないのよ。わたしったらどうかしているわね。夢に翻弄されるなんて。さあ、しっかりしなきゃ。
「中学の事は早く思い出にしなよ。いつまでもやってられんだろう?」
えっ――? 今、何と言った? なんと? 気が動転する。
ねえ、浩二君。いったいどういうことなの? これじゃ、あんまりじゃない。わたしが何をしたっていうの? どうしてわたしを責めるの? ねえ、どうして学君は居なくなっちゃったの? 引越しですって? そんなのは許しません。そんなことを許した覚えはありませんよ。嗚呼、マリヤ様。どうか学君を連れ戻してください。これではわたしが浮かばれません。
「あれっきり学とは会ってないんだったよな? 何故だ? 遠いからか?」
なによ! あなたが言いたいことはお見通しよ。愛があれば遠距離なんてちょちょいのチョイだとでも言いたいのでしょう? これには複雑な事情があるってものなのよ。第三者のあなたが何を言ってもわたしは動じませんからね。所詮そんなものだったのだろうとでもいうつもりかしら? 浩二君。わたし、あなたをぜったに許しませんからね! 生意気なあなたなんか地獄へ落っこちちゃいなさい。
「そう言えば、もうじきクリスマスだな。なんか予定あんのか?」
教会へ行きますよぅだ! 言いかけてやめる。今年のクリスマスは、丁度、日曜日に当たった。土曜日のイヴから教会で祝賀会がある。”教会”というのも久しい。おもう。最近では、全然、礼拝へ行っていなかった。今でも熱心に通っているのは、父親と母親だけになっている。お姉ちゃんは大学から一人暮らししているし、何より沖縄にいなかった。東京の大学へ進学したっきり、居心地よさを感じているのか、帰ってこない。きっと大都会が肌にあった人なのね。そう感じた。
「クリスマスの前の週はあいているか? イルミネーション観に行こうぜ!」
あなたと? そんなのもっぱらごめんよ。昔はあなたのこと好きだったけれど、今は学君の事しか考えられないの。離れていても、別れてしまっても、わたしの思いは変わらないわ。ごめんね、浩二君。あなた一人でお行きなさいな。けれど、イルミネーションを男一人で行くと言うのもおかしな話よね。うふふ♪
なんだか今日のところは気が腫れた。浩二君は途端に機嫌がよくなるベッキーを見つめつつも、何だか困惑しているようにも思えた。
まあ、でも構いやしないわ。私の心中など、どうして男のあなたなんかにわかるっていうのよ? ちゃんちゃらおかしくってよ。
「なあ、おねがいだよ。俺一人で観に行くものでもないし、女の連れが必要なんだ」
仕方のない人ね。じゃあ、こうしましょう。手は結ばない。キスなどもってのほか。半径一メートル以内に近づかないで歩くの。あなたとわたしは、あくまでも友達。それが周囲にわかるくらいに気を使ってほしいわ。その約束守れる? なら、行っても良いわよ。
「ほんとうかよ! よかったぁ!」
うふふ♪ 本当に馬鹿な人なんだから♪
「ああ! 浩二君、またベッキーにちょっかい出してるの?」
親友の梓も同じ高校。同じ普通科のB組だ。それについて何だか運命的な結びつきを感じずにはいられない。とはいえ小さな学校でもあるし、同じ高校でクラスも同じというのは、なんだか当たり前のようにも思えた。
「ベッキーはわたしの親友なんだからね! 浩二君て本当に最低!」
「これのどこが最低なんだよぅ? 起こしてやっただけじゃねえか!」
あわよくばって思ってたのでしょう? 残念ね。そんな気持ちはみじんもないから。だって、わたしはいまでも学君を愛しているのだもの。当然だわ。浩二君、貴方はしょせんレッドホットペッバーピクルスが乗っかったジャンクハンバーグでしかないの。じゃんくじゃんくじゃんくってリンボーダンスを踊ってなさいな。チャンチャラ可笑しくってよ。
それでね、あなたは言うの。オウ! ヘルシー♪ ってね。うふふ♪
教室の大きな窓を目視する。外界は澄んでいて秋晴れだ。窓はしめられているものの、咽る暑さというものはない。教室の中は非常に快適そのものである。
浩二君はクリスマスクリスマス言うけれど、外はほら、冬なんてきてはいないのよ。凄く秋晴れで気持ちよさそう。今年は暖冬って聞いたけれどほんとうね。まるで十二月じゃないみたいに暖かいわ。クリスマスのミサは長袖のワイシャツくらいで、ほかに上から羽織るものは必要ないかもしれない。ましてや、沖縄地方でしょう? コートなんか必要ないくらいに、冬でも寒くないもの。
中学の時に通っていたあの懐かしいパーラーへは、今現在、行っていない。高校進学と共に通学路が変わったことと、学君の事を思い出す場所へはどうしても行き足が重たかったからだ。必ずと言ってよいほど泣き出してしまう。それはつまり、連れ添う梓へダイレクトに迷惑だと思ったし、自分自身、こんなんじゃ駄目だと感じていた。いまは高校の近所にあるタイ焼き屋がメインである。今川焼もあるし、各種みたらし団子もそろっていた。ぜんざいは黒糖の味がして上品に美味い。それからそれから特製ダレのジーマーミー豆腐。一見、おふくろの味だが、意外にもパーラーメニューにマッチングしていた。そしてなんといっても安いのである。手ごろ感があった。
そういえば”運タマギルー”の話題もなくなっちゃったな……。おしゃべりなひげ親父の事を思い出すと、少しさびしい気がする。それからそれから、コニードック。あの店一番の自慢の品だったものね。本当に美味しかった……。人知れず学君と居たあのパーラーを思い出しているベッキーをよそに、梓は「はふはふ♪」と、とても熱いたい焼きを頂戴していた。
「ねえ、ベッキー。たべないの? もしかして、また内緒であのパーラー思い出してる? もうやめてよ! いつも泣き出すんだから。ほら、今はタイ焼き早く食べることだけに集中しなさいな♪ なんならわたしがすぐにとっちゃってぺろりんこしちゃうぞぅ♪」
そんなんじゃない。返しかけて止めた。この”行くのと考えるだけのことの区別”くらいはできているつもり。だと言う事を説明するのが億劫だと思った。
今日も疲れているわね、わたし。なんだか年取っちゃったのかなぁ……? いえ、きっと中学からの疲れがいまごろになって出始めているのよ。いくら高校生で若いからって哀しみが大きすぎた分、わたしのパイではどうにかなっちゃうというか消沈するのだわ。
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