小説 運タマギルー 8

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ちそうしてやるぞ。

白い飯だって?

そうだ。

あんたら白い飯食えるのに油揚げ屋の代金ちょろまかそうとしたのかい?

そう言われちゃ敵わんな。わっはっはっ!

番人連中に気に入られたギルーは、彼らの言う道場の話を夢中で聞きましたよ。憧れの白い飯と空手について詳しく知りたかったからです。少林流空手に上地流空手。それはとてもとても興味深い話ばかりでした。

「小僧、空手を学んで番人になれば首里へも上京しやすい。そこでは学問とやらも教えている。番人から役人にもなれるってことさ。どうだい? 良い話だろう?」

番人と役人の区別などつかないギルーにとって少々難しい話でしたが、彼にだってなんとなしにわかります。番人は守り神で役人はその上をゆくのだと。果たして番人よりもお上方とはどんな白い飯を食っているのだろう? 興味は増してゆくばかりです。

会話を交わした後、ギルーは油揚げを買いわすれたまま家路へ向かいますが、道中、手荷物の紅イモで買い忘れたことに気づき、踵を返して港町へ戻ったのだけども、油揚げ屋はもうどこにもいませんでした。落陽は沈み、あたりは暗くなり始めておりましたよ。さあさあ、急いで帰らなければ、ハブがギルーの足めがけて飛んできますよぅ。いそいだ、いそいだ。

「おっかあ、いろいろあってなぁ、油揚げ買い損ねた。すまん!」

「なんだって? 油揚げが無かったのかい? なんなら、はんぺんでもよかったんだぞい? 同じくらいの価値だから、持たした紅イモの数で交換できたのに」

「そうじゃねえだ。きょう、番人とやらに出くわしてよぅ。いっちょ力比べしたんだ」

「それで、勝ったんだろう?」

「なんでわかるだ?」

「あんたが五体満足と言う事が何よりの証拠だ。投げ飛ばしたのかい?」

「んだ」

途端、はっはっはっ! と、おっかさんは腹を抱えて笑いましたよ。よほど愉快だったのでしょうね。暫くのあいだその光景は止むことがありませんでした。

いいかい? ギルーよ! ほんとうに、はっはっはっ! 本当におまえが、はっはっはっ! 番人連中を投げ飛ばして、はっはっはっ! やったのかい? はっはっはっ! こいつは愉快だわさ! はっはっはっ!

ギルーは正直、こんなに笑い転げるおっかさんを観たことがありませんでしたから、それはそれは、大そう、うれしくなりましたよ。番人を投げ飛ばしたらおっかさんは笑って喜んでくれるんだな? それなら毎日、港町行って投げ飛ばしてこようか? そう真剣に頭をよぎったほどです。

「大したもんだ。ギルーよ、いいかい? 森の仕掛けにおおきな野ネズミが一匹捕まっていたからよう、今夜の汁は肉汁だぞよ。うれしいか? 嬉しいだろう? そいつは全部あんたが食べな。それでなぁ、もっともっと悪い奴らを投げ飛ばしてあたしを喜ばしておくれよぅ」

見ると、それはそれは紅イモ二つ分ほどある大きな野鼠です。ギルーはおもわずつばを飲み込みました。肉なんてろくすっぽ食べたことが無い。確かまえに食べたのはもう何年か前の話でした。この先でありつくには再び何年後かもわからない中で、それはそれはたいそう貴重な食料に感じていましたよ。

おっかさんは手慣れた様子で野ネズミの皮をはぎ取り腸をえぐっては、丸ごと鍋の中へほっぽりました。さあ、ぐつぐつ煮込みますよぅ。汁があふれ出ないように息吹きは慎重にです。

ほうれ、ギルーや。少しだけ味見してみるかい? おっかさんが言うと彼は飛び起きるようにして跳ね上がりました。それから木製のお玉で、黄金色に染まった透明の汁を一口すすります。

うんめぇ!

そうだろう、そうだろう。これになぁ、へそくりの手前味噌を入れるだ。尚更、美味いはずだぞい。

味噌まだあっただ?

うむ。

やったぁ! こりゃいいや!

さてさて、いよいよ夕食ですよ。食卓のない家庭ですから、木製の食器は居間の床に置きます。食器と言っても汁だけですからね。鍋とお椀のひとつあれば済むわけです。

ギルーは食事をしながら番人の道場についてだとかいろいろ詳しく話をしました。おっかさんは何にも答えません。黙って聞いているだけです。彼はもしかしたら話してはいけないことを喋っているのかな? と段々思い始めましたが、喋らずにはいられないために今日あった出来事をすべて話してしまいます。

「ギルーや、どうしても道場へ行きたいか?」

「そりゃあ、白い飯が食えるだど? 行きたくない方がおかしいっちゃろ?」

おっかさんは再び黙りこくります。一体何をそんなに考えこんでいるのだろうか? ギルーには理解できませんでした。

ギルーや、うちらは農家だ。大人はおっかさんの一人で、力仕事には当然あんたの力も必要だ。でもなぁ、もしあんたがお京へいくなら、おっかさんは何にも言わねえ。行きたきゃ行けばいい。おっかさんはな、あたし一人食う分だけなら自分一人で何とかなる物じゃてのう。だからなぁ、ギルーよ。くれぐれも中途半端な行動は許されねえだぞ。道場へ行くなら、夕方、畑仕事終わってから行け。それでなぁ、行くからにはてっぺんめざしんしゃい。おっかあの心配はいらねえよ。

ギルーは最後の最後に取って置いた野ネズミの肉を大切に噛み砕きました。肉質はやわらかくて、それでいて噛めば噛むほどに味がある野ネズミの肉は本当にたまらないものがありましたが、何せ独り占めしているような気がしてよい気がしません。彼は何度もおっかさんに”おっかあもたべるだか?”とは訊くものの、おっかさんは”ぜんぶあんたがたべんしゃい”と返してきてラチがあきません。そうこうしているうちに気がつけば野ネズミの丸ごと煮は骨だけになってしまいました。

「骨だけになっちまった……」

「いいんだよ。おっかさんは紅イモだけでいいんじゃ。気にしなさんな。ギルーよ、全部食ったからには明日から尚更仕事を頑張るだぞ。それから道場。負けたらあかんよ」

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