小説 運タマギルー 22

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え――? 思う。

今夜ではないの? この場所で今すぐにやると言う事ではなかったの? ちがう……。やだ! わたしったら本当に頭がどうかしちゃってたのだわ。反省しなきゃ。反省するのよ。ごめんなさいマリヤ様! ごめんなさい学君!

「どうなんだ? 来てくれるのか? 来てくれないのか? おしえてくれ」

勿論、答えはイエス。ベッキーは一心に思う。

少しふらふらする。この場に酔ってきたのだろう。感情が高ぶりすぎて眩暈がするのだ。こんなことは生まれて初めての経験。オナニーで感情を高ぶらせるのとは少しだけ異なる。あれは孤独感があり惨めに敗北宣言するのだが、こちらといえば歓喜と至福による極まりが満ちている。

英語でそれをベリーベリーハッピーというのでしょうね。わたし、とっても幸せよ。

学君がキスを迫る。ソフトのほうなのか、リープのほうなのか、そんな事はどうでもいいと思った。逞しさの中にある柔らかい唇と完全に火照ってしまった熱い唇がひとつになるとき、果たして夢の中ではどんな心地よさなのだろうか? ザナドゥ―とはいったい――? 真っ白になる。むしろ、桃色の薄紅。闇夜が明るい。此処だけ明るいのだ。眩しく光っている、交わしている唇より、ハイビスカスのように真っ赤な舌の中から、暖かい光を発している。ベッキーは思う。それはどういうことなの――?

まぶたを閉じて、鼻で息をして、無我夢中に舌を絡めた。やがて喉を通ることのないふたりの唾液が唇の端からそそる。かまいやしない。構わないとさえ思った。

嗚呼、学君の舌って、ブルーベリーのような味がしてすごく美味しい……。彼はもしかしたらガムを噛んでいるのかも? それについては先ほどから二人で噛んできたことではないか。なにをいまさら。そう、そうよ。わたしだって学君からいただいたチューインガムを噛んでいるのだものね。ほんとうに、ほんとうに、おいしい……。

ふたりは横倒しの状態になる。若い男女の事だ、あす明後日まで我慢できるわけがなかった。今すぐにしてしまおう、ここで。この場所で。このベンチの上で、しよう。

嗚呼、わたし、わたしはとうとうたどり着いてしまうのね。こうして、こうやってブラから桃色の、学君だけの乳首を覗かせてしまうのだわ。それから、そこのシルクのパンティー色に彼は果たして気が付いたかしら? そう、そうよ。わたしのきもち、その色にはわたしの純粋な気持ちが込められているの。さあ、学君。共にザナドゥ―の泉を泳ぎましょう♪

しかしどうしてだろうか? どうしたものか、行為の一つ一つに鞭打ちの様に痛みをなす。

痛い、痛いわ。学君。いくら慣れていないからって、そんなに乱暴にしないで。おねがい、もっとやさしくして……。

突然、涙が溢れてきた。何故だろう? わからない。全く分からないのだ。

これは歓喜の涙かしら? それとも痛みに耐える涙なのかしら――?

身も心も揉みくちゃになる。

一瞬、白熱球が光を弾くようにして世界が真っ白になった。

こ、これは――!

嗚呼、聖母マリヤ様。わたし、わたしは、とうとうなってしまったのですね。そう、わたしは到底たどり着けないと思っていた極みに満ちた大人の女になりました。マリヤ様、それからイエスキリストさま。あなたがたに心から感謝します。それから! それから、ありがとう。学君……。

「今週の土曜日に、だいぶ遠く離れた中部へ引っ越すんだ」

え――? 何をいきなり。おもう。一体、この人は何を発しているのだろうと。そう思った。続きがある。

もう少し早く話しておきたかったんだけれど……。中々な、話せなくて……。でも、思い出が作れて本当に良かったと思っている。おれは、俺はお前の事、一生忘れないからな。ほんとうに、本当にありがとう。

夢心地から鍼山の崖下へ叩き落された心境だ。我に返る。

ちょっと、ちょっとまって! どういうこと? それってどういうことなの? 嫌よ、そんなのぜったいにいやぁ――! そうか、あの時流れた涙は、この瞬間を察知していたということだったのね? そう、そういうことなんだ……。

山間から冷たい北風が舞い込む。とても信じられないほどに凍てついた。寒かった。哀しかった。突然、急激な睡魔に襲われる症状を覚えた。どうしてだろう? こんなところで気を失ってしまうだなんて。ベッキーはまるで冬眠する野兎のように、心を寂しくしながらスッと呼吸をやめ、遂には息絶えてしまった。

 

 

ベッキーはこの世界を生きていた。冷たい秋風がそよぐ大地の真正面で、まっただ中で、息をなして存在していた。運玉森にそびえる杉の木と、ガジュマルの木陰が、真っ赤な太陽の日差しをもろに受けて微笑んでいるよう。逞しいと思った。とても頼りがいがあった。

はて、わたしは一体何をしているのだろうか? ここにいてはだめ。駄目なの。はやく目を覚まして。覚ますのよ。何故かしら? とても皮肉なものね。わたしはこうして寝て居る。それは分かっていることよ。分かりきっているじゃない。さあ、ようやく起きる支度が整ったわ。

おい! おい!

うるさいわね。さっきから何かしら? わたしを誰だと思っているの? そうよ、わたしは学君に捨てられたシンデレラ。とっても惨めなお姫様なの。まあ、なんてことなんでしょう! それでも夢から覚めてと言うのね? からっきしおかしくってよ。ええ、いいわ。起きてやろうじゃない。さあ、いいかげん……。

「おい! おい! ベッキー! いい加減、起きろよ!」

浩二君の声だ――。思った時にはドパーミンの作用によって脳が覚醒していた。目を覚ます。ここは、いったい……。どうやら学校の教室らしいことは黒板を確認して分かることなのだが、それもちがう。この教室へはまだ入室したことがない。記憶にないのである。それについてベッキーは、怪奇現象のように妙な不自然さを肌で感じた。ねえ、浩二君。此処は一体どこなの?

「何言ってんだよ! 西原高校の二年B組だろ? 寝ぼけてんのか?」

あ、ああ……。頭痛がする、なぜだろうか? 考えた。きっと長い長い夢幻を観ていた

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