小説 運タマギルー 10

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じるほど熱気も伴なってとにかく暑かった。

牧志(まきし:国際通りがある地名)の上空へ突き刺す白い那覇タワーは三越に隣接してあって、いつだって牧志中央の目印変わりだ。なので、三越を訪れるのに道を迷うことはなかった。そのタワーの土台である雑居ビルは、通称”マキシ―”と呼ばれている。ふたりは三越についた。

しごく高級で上等な気品あるエントランスには、ライオンの置物が二体、入り口を案内するようにして両サイドにある。それを通り抜けると煌びやかな都市型デパートの世界だ。ふたりは失礼の無いように、いったん立ち止まってから、お互いの身なりをチェックしあった。よし、だいじょうぶ♪ さあ、おとぎの国へはいりましょう♪

一階のエントランス内側からエレベーターに乗り込まなかったのには訳がある。ベッキーと梓のふたりは中の世界をゆっくり練り歩きながらエスカレーターで上階へ進みたかった。案の定、エスカレーターも訪問客でごった返している。しかし、それがまたウキウキと心を弾ませて楽しく感じさせた。

四階の婦人服売り場に漂う衣類の香りは、様々な女性が芳香する化粧や香水に紛れて鼻息の中へ入る。ベッキーと梓はときどき口を開いて歓喜の声を上げたりしたけれど、なるべくおしとやかなお嬢様を演じてみせた。水着コーナーにつく。

「ねえねえ、ベッキーってやっぱりトップスはDカップなの?」

「そんなことない。大体、Cくらいかなぁ? 去年はBだったけれど……」

「うらやましい! わたしなんか万年Aだよ? もうやんなっちゃう!」

胸が大きければ大きいで肩こりだとか苦労があるのよ。言いたい。しかしやめた。今はなすべきことではない。必要のない説教みたいなものだ。分かっている。それよりも選んだ水着のフィッティングをして見なければ。ベッキーは選んだオフショルビキニを手に持ち試着室へ入って下着の上からフィッティングを済ませた。

三越での水着購入が終わるころには正午をゆうに越えていたものだから、ベッキーと梓は建物内の飲食店が立ち並ぶテナント群へ足を向けた。そして着くと店々のショーウィンドゥを眺めて色々相談しあう。お腹はペコペコだ。

「うーん、食べたいのがいまいち決まらないわね。この店ではないんだよなぁ。ベッキーどうする? 喫茶店にしよっか? かき氷とかあるでしょ? ミルク金時なんかどう?」

「でもちゃんとしたお昼ご飯が食べたいし、いったん街に出てみようよ」

そうだね♪ うん、そうしましょう♪ そうしましょう♪ うふふ♪ それでは三越さん、さよならいつか♪ ごきげんよう♪ また来ますね♪ メルヘンな世界をどうもありがとう♪ さあ、いきましょう♪

今日は本当に楽しかった。結局、昼食は国際通り沿いのカフェで取ったのだが、とにかくレモネードが美味しくて何杯でもおかわりしたいほどだったけれど、財布と相談して予算がオーバーしてしまうからとなんとか我慢した。白身魚フライ定食は自家製タルタルソースと相まってとても美味しかった。また来ましょうね♪ うん♪ また来ましょう♪

夏の土用入りから大暑となる週末、いよいよ一学期の修了式だ。ベッキーは夏休みの宿題を片手に家路へ着く。今日は手提げかばんも何も用意しないで登校していた。持ち帰るのは宿題だけだったからだ。昨日までに教科書などは片づけている。とりあえずとても暑いので早く帰りたかったことと宿題を片手に寄り道もなにね、と、学君たちとは一緒に帰らなかった。それに皆、まっすぐ帰る予定でいたし、異議を申し出るものもいなかった。

運玉森からは春先よりも野鳥の大合唱が響きわたってくる。その代わりとして真夏の街中では電線のスズメさえ神隠しがあったようにして一匹たりともいなくなってしまう。皆さん酷い暑さにやられて森の木陰へ涼しみにいっているのね♪ 門扉をくくった玄関先でベッキーは思う。秋になったらまた来てちょうだいな♪ 雀さん♪

今夜の夕食はお母さんお手製のハンバーグカレー。とても美味だったし、献立的に丁度食べたい頃合。ベッキーの家ではカレーライスにジャガイモを使わずに紅イモを使用する。しかし今回はハンバーグカレーと言う事で芋は一切入ってなかった。あっても邪魔になるだけなのである。ルーはククレカレーの甘口でお決まりだ。蜂蜜と林檎がたくさん入っているからと母は力説していた。実際にどの口(辛口と中辛)よりも美味しかった。

一夜を通り越した今年の夏休み初日。ベッキーとしてはゆっくり過ごしたかったけれど、日曜日なので教会へ家族と行かねばならず、その支度を朝からしていた。今日は花柄のワンピース。一見ありきたりだけれども、革のベルトを通せばハリウッドスターへ変身だ。ベッキーは美人ハーフなのでよく似合う。

早朝から突き刺す太陽で外界はとても暑い。今日はとても徒歩で教会へはいけそうもなかったものだから、一家はワゴンの自家用車を使って教会へと向かった。車内はエアコンが利いておりとても快適だが、それでも車窓から光来る日差しは火傷するようにして暑く感じた。教会へ着く。

アンダーソン牧師が教壇に立つ礼拝はいつも楽しみにしている。とても解釈しやすいスピーチ術で皆に人気だ。礼拝の合間合間に歌う讃美歌はいつだって心が洗われた。

礼拝の終わった正午は牧師家族らとの会食はせず、同町にある都ホテルへ向かう。目的はランチバイキングだ。幻想的な菊栽培の電気蛍で有名な土地の一角にぽつんと存在するこのホテルはリゾートホテルと言うよりもシティーホテルタイプのもので、実際にリゾートホテルと呼ぶには相応しくない造りになっていた。このあたりは宴会や結婚式場となるホテルが無い。それを狙っての建造物である。

ベッキーはこのホテルのクラムチャウダースープがお気に入りだ。それと点心。中華と洋食を一度に楽しめるなんてのもバイキングならではで好感を持てた。このレストランには国境がないのである。それからそれから肉厚のローストビーフはメインディッシュだ。その前ににぎり寿司も何貫か頂戴した。今日の昼食は腹の中満杯である。満腹。

食事を済ませ、帰りの車内会話でのことだ。

今日はおいしかったね。ところで、ベッキーは好きな人できた――?

「やだ! おねえちゃん、急に何?」

正直、ここで話すようなことではないと思った。素直に困惑する。

もう、本当に困ったお姉ちゃん。でも、わざとかしら? これって公開処刑みたいなものよね。だって両親が聞耳たてているんですもの。好きな人が居るって言ったらお父さん怒るかしら? お母さんはどうなの?

エアコンは相変わらず快適だが、なんだか冷や汗みたいなものをベッキーは肌に感じた。車内が無口に染まる。すると、母親の大好きなカントリーが大きく聞こえてきた。意識していなかったので気が付かなかったが、どうやらアバのチキチータらしい。このグループのダンシングクイーンもよく知っている。

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