小説 運タマギルー 4

連載小説
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滝川寛之の無料連載小説

な。と考え始めていた。梓がベッキーの耳元に唇を当ててささやいた。浩二君のことが好きなの? と。赤面したベッキーは、おもわず口を両手で隠した。こうなった以上、いつまでも親友の梓に恋の隠し事はできない。観念したベッキーは放課後、彼女へ相談することにした。わたしね、二人の男子のことが好きなの。

「へぇ。でも、そんな恋もあるんじゃない? なんだか不思議ね♪」

「わたしって、浮気性か何かなのかな?」

「そうじゃないと思う。だってわたしたち女の子なんだもん」

オナニーをしているといったら? 言いかけてやめた。話すべきではない。そう思った。今日の放課後はあの公園へ来ている。お姉ちゃんとよく来る場所のことだ。芝生の上にスカートを敷いて座っていた。沖縄の四月は初夏前の梅雨時である。だがしかし、今日は澄んだ心のようによく晴れていた。授業は六時間だったものだから今時間帯はオレンジ色へ変わりゆく夕刻である。幾分だが、冷たい夜風がさらりと軽く二人の体を吹き抜けて行った。

「ベッキーは学君から告白するつもりなんでしょう?」

「うん……。でも、駄目かもしれない。声が掛けつらいの……」

それじゃあ、わたしと一緒に学君のクラスへ遊びに行く手があるわ。休み時間に彼へ会いに行くのよ。ねえ、これって名案じゃない? うん……。元気出して♪ 大丈夫だよ、きっと。それとも振られるつもりでいるの? それは無いと思う。ベッキーは可愛いのだから男がほっとかないでしょう? そうかな? そうよ。うん……。

翌日、学校の昼休み時間のことである。ベッキーは梓に連れられて初夏の廊下を歩いた。学校の建物は新しく建て替えられたばかりで新品の空調設備が整っていたものだから、大よそ暑さには耐えることができた。しかしながら大きな窓からくる日差しは強烈で、ダイレクトに肌へ太陽光を翳せば冷房機も太刀打ちできないほど。学君のいる教室へ入る。美女の2pairで知られる二人のことだ。違う教室へ入るなり否応なしに男子生徒らの目を引いた。少しだけざわつきのようなものが起こる。ベッキーと梓はもう慣れっこだ。中学一年に上がってから毎日のように噂の種なのである。それが窮屈で仕方なかった。常に何かしら視線を感じる。女子トイレでさえそう思うのだ。誰か覗いていないかしら? 隣から耳をあててないかしら? といった具合に。

学君の机へ向かうのに相当時間が経過したような錯覚に陥ったベッキーは何だか嗚咽のような症状に見舞われてしまい、梓に”だいじょうぶ?”と両肩の真ん中を摩ってもらった。それがなんだかたまらなく温かくてうれしかった。しかし、居るはずの学君は机に居ない。はて、何処へ行ったのだろうか? トイレだろうか? ぼそぼそと梓がつぶやく。それなら音楽室と校舎のあいだにある広場でプーカー野球をしているよ。誰かが言った。”プーカー野球”とは、軟式テニスボールと似て柔らかいボールで野球をすることを意味する。女子でもそれは分かっていた。小さいころは男子児童に紛れてよくしたっけ。懐かしい記憶がよみがえる。そう、それじゃあこの教室には用が無いわね。ベッキー、行きましょう♪

広場へついた。確かに学君が友達と野球を楽しんでいる。しかしながら試合中で声が掛けられる状況ではなかった。仕方なしに傍で野球が終わるのを待つ。ねえ、なかなか終わらないね……。ベッキーはその言葉を聞いて更に不安になった。ピッチャーの学君はすごいカーブの変化球を投げていて、その曲がり具合に”プーカーボウルって、こんなにすごくカーブするんだ?”と感心しきりなのだが、どうにもこうにも二進も三進もいかない。終いには昼休み終了の鐘が鳴るではないか。嗚呼、今日も声が掛けられなかったわね。落ち込んでばかりもいられない。勉強も大事ですもの。今日は桃色の乳首にイヤリングをしていなかったものだから楽ではあるのだが、学君のことを思うとおもわず体毛のない恥部がうっすらと濡れた。

家へ帰ってからはいつものようにオナニーで締めくくりだ。最近分かったことなのだが、家の薬箱から頂戴したメンソレータムを桃色に勃起したクリトリスへ塗りたくるとヒリヒリとして気持ちよい。今夜もそいつをしたのちにホールの中へ指を手繰り寄せるつもりでいた。それから思うことと言えば、やっぱりベッキーはマゾヒストだということ。だって、ヒリヒリとしたクリトリスが馬鹿みたいに気持ちよいの! 嗚呼――!

学君と会話が交わせたのは、あれから三日後。気の遠くなるような日数。だけどもベッキーはそれをおあずけプレイに見立てて想像していた。妄想していた。オナニーはどんどんどんどん激しく淫乱になってゆく。そうでもなかった。浩二君への想いというものがそれを邪魔したのだ。振られたとしても浩二君がいるんですものね。全然平気よ。ちがう。本当は怖くて怖くて仕方なかった。学君に振られることが恐ろしいことだと思った。未知の領域ではあるのだが、だいたい見当は付く。だけれど、それ以上に弾けちゃったらわたし可笑しくなるかもしれないじゃない?

学君は三人でするデートを承知してくれた。今度の日曜に海辺のパーラーへ行く。その店はコニードックが美味しいことで有名。店主のひげ親父は町で評判のほら吹きである。いつもジョークで”ほら”を吹くひげ親父は、ときどき本当の話もしてくれた。その話のひとつとして”真玉橋(まだんばし)幽霊”が挙げられる。そりゃぁとってもとっても怖いはなしですよぅ。三人とも、いいかい? あの橋を越えたものは首をギッチョンされてしまうのさ。こりゃあ、おそろしいおそろしい――! それはむかしむかしのはなしじゃて、琉球時代までさかのぼりますよぅ。首里の麓に大河が流れておりましたとさ。はるかかなたの東町、東風平(こちんだ)方面から訪れた献上者たちは首里城へあがるのに、この川を渡らなければなりません。皆は頭上に土産をよいこらしょよいこらしょ、与那国馬の肩によいこらしょ重ね重ね載せまして、いざゆかん! 川辺の向こうへ。そんなとき役人が思い付きましたよ。首里の独房にほうってある悪党どもを人柱にして橋を作ってしまおうと。すると、どうでしょう? まあ、なんということでしょう! こうしてできたのが真玉橋だったのです。めでたしめでたし♪

「ふんぎゃー!」

ひげ親父は最後にそう叫んで三人を脅かした。

「今日のひげ親父、最高だったな!」

学君がそう発するのも無理はない。実際におもしろかったのだから。どうもひげ親父は話術が巧みであり、聞き手の好奇心をこちょこちょと刺激するのが上手かった。来週も来ような! ベッキー、梓、いいだろ? うん……。ベッキーは思った。今日もみんなのおかげで学君と仲良くすることができた。ありがたいありがたい。今度来る時はもっといっぱいコニードックを注文して食べなきゃ♪ お姉ちゃんとの早朝マラソンは必須だわ♪

 

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