小説 運タマギルー 25

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じた。

食事は済ませていない。イルミネーション会場の大きな公園でとるつもりでいた。そこにはパーラーが幾つか出ているはずだ。それと心配なのは何と言ってもトイレである。長蛇の順番待ちで混みやしないか懸念材料はあるのだけれども、昔、家族と行ったときは仮設トイレが連なっていたものだから、たぶん今夜も大丈夫よ。とはベッキーのお母さんが話していた。

「名前はベッキーっていうの? ねえ、ベッキーちゃん。今夜は御免なさいね、わたしたち親が同伴しちゃって。でもあまり気を遣わなくていいからね。向こうではわたしたち別行動する予定でいるから」

「いえ、そんな気を遣わなくても大丈夫です! わたしと浩二君は付き合っているわけではないので。でも、ありがとうございます。あ、あの……。夫婦仲がいいんですね? なんだか憧れちゃいます」

「うふふ♪ そうね、わたしたち夫婦は特別かもしれないわ。ご近所さんでこれだけ仲がいいのは一組も居ないもの。でも、結婚てそんなものでしょう? 好きだから、ずっとそばに居たいから結婚するわけだし。だから何も特別に感じたことはないのよ♪」

浩二君は一人息子である。きっと溺愛されているのでしょうね。おおむね予想できる。

だってそうでしょう? この夫婦はこんなにも愛が溢れているんですもの。浩二君はその溢れる泉の湖に浸って、いつだって自身の裸体を癒している。綺麗にしているのよ。すてきね。とっても素敵なことだわ。

今頃、学君は何をしているのだろうか? 車窓から望める夜景色をぼんやり眺めながら考えてみる。とても濃厚だった思い出は、いつか、いつの日頃から薄れゆくのだろうか? 分からない。けれども、こうして時間は無残にも流れている。

無残? そう、わたしは幸せの一本道を行っているのではないのだわ。きっとこの先、学君以上の味が濃い男性なんて一人たりとも見つかりやしないのよ。あの痛々しくも、くすぐったくて、官能的に気持ちの良かった噴水場でのセックスは、今となればパンドラの箱のよう。決して思い出してはいけない。だめなの。狂おしいほど愛し合った獣の性は、記憶をたどっただけで失神してしまいそうなほどに破壊的。色彩が極まった真っ白。

もう居ないのよ?

誰が?

学君のこと。彼のことを本当に心から愛していました。わたし、学君のためなら何でもできるとさえ錯覚したほどに、ほんとうにほんとうに大好きだったの。

泣いてみても仕方がないわね。

どうして?

だって、彼は今頃、新しい彼女と上手い事やってるのかもしれないじゃない?

そうね。

そうよ。

「それじゃあ、ここで二手に分かれましょう。集合は車で二時間後ね♪」

イルミネーション会場へ着いた時の話だ。入り口となるゲート前でチケット代を払うと、そこから二組に分かれた。

門をくぐって中へ入ると、まずは白テントからなる屋台村のお出ましだ。ずっと奥の方まで軒を連ね居ている。チャーハン、チャーシュー、焼売から肉まんじゅうと、おおよそ庶民的な中華には困らない。その中に、コーンバター、わたあめにみずあめ、それからそれから定番のイカバターときたもんだ。思わず口の中が唾液で一杯になるのを覚える。

「何か食べてから行こうぜ!」

「うん、そのほうがいいかも♪」

浩二君のおごりで、紙コップに入ったタレ味の焼き鳥を二人前購入した。作り立てなので、なおさら美味しい。勿論、それだけでは足らないのでチャーハン二人前とペプシコーラ二缶もチョイスして支払う。それについては割り勘。

まだまだ足らないなぁ。なんか他にも食べようぜ!

うん、そうだね――♪

そうこうしているうちに屋台村で一時間をつぶしてしまった。けれども、それでいいのだ。イルミネーションを二時間も眺められない。外は極寒なのである。

敷地内は圧倒的に子供の数よりも大人が多い事は当然の事。それでも家族連れで楽しんでいるグループはあたりに散見された。構外に何基か設置されている、巨大なディーゼルエンジンの発電機は、こちら側まで色薄く音が響いており、しかしながら、それがまたこの会場に情緒の温もりさを与えていて、決して悪くはないと感じた。イルミネーションが施されている入場口からライトなどは無いものだから、浩二君が何気なく手をつないでこないか不安だったけれども、彼は一度たりともそんな事をしてくれなかった。

してくれなかった? やだ! わたし、本当は期待しちゃってたのかしら?

まるでシャンパンタワーの様な美しさが滲むシャンデリアツリー。それからそれから、プラネタリウムのように星々が望めるトンネルイルミネーション。ワザとくねくねにされている通路の端には仮設の花壇が設けられており、蛍が群れているかのように装飾されている。とても綺麗だと思った。中に裸電気が埋められているプラスチック製の人形たちもアクセントになって素晴らしいものがあった。

嗚呼、たまらない。とてもメルヘンチックな世界だわ。

途中、木製のベンチが連なっている。そこでカップルらは愛を語り合うのだ。

ベッキーは思う。

この場所こそ告白のステージなのだわ。けれども、それについては拒絶反応というものもある。わたしはまだ学君のことを忘れたわけではないのだものね。今夜はどんなことがあっても振るつもりよ。ごめんなさいね、浩二君。

しかし彼と言えば、一向にその気配を見せず、ありきたりの友達としての会話で弾んでいた。彼女は困惑する。

もしかしてホモセクシャルなのかしら?

そんなことはないだろう。だってわたしをこうして誘ったのだから。

じゃあ、なぜ?

やがて二時間が経過する。そろそろ時間だ、

戻ろう。

ええ、そうね。戻りましょう。

手をつなぐこともせずに駐車場へ向かうと浩二君の両親は既に車内へ戻っており、その中で濃厚なキスを交わしていた。とてもうらやましいことだわね、こんなにも愛し合って

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