小説 運タマギルー 5

連載小説
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滝川寛之の無料連載小説

十八世紀初頭の西暦一七〇九年。

わんねぇ、うんたまぎるーやいびん。あまかい、くまかい、ぬするそんどぅ。やしがて、わんにもちむぐくるあいさ。たーやてぃんしむんあらんどぅ。わんねーめあてぃがぁわ、じんむちゃーやいびん。あちゃーもてぃ、よこくじょうぐぁおくいーねーからてぃ、ぬするすんどぅ。わんねー、うんたまぎるーやいびんどー。

 

”以下、翻訳にて話を進めたい。”

 

時代は琉球王朝までさかのぼる。

俺の名前は運玉ギルー。あそこの家にここの家に盗みを働いている盗賊さ。いいかい? だけども誰だっていいわけではない。そこら辺は誤解しないでくれ。俺にだって人並みの心というものはある。俺の目当ては富裕層の倉だ。あしたも盗みの予告状を差し出して盗みを働くつもりだ。俺の名前は運玉ギルー。

 

それは昔々の話です。昔と言っても何千年も過去の出来事ではありませんでした。深い谷に囲まれた藁ぶき屋根の下で、どうやら元気な男児が誕生したようですよ。豪雨の中での出産劇でした。それは相当難産でしてね。母親のツルはたいそう痛がっていましたよ。

それにゲキを飛ばす父親はいませんでした。彼はうみんちゅ(海人)で漁師だったものだから毎日サメとの戦いに疲れてしまったようです。いつしか帰らぬ人となってしまいました。ツルはたった一人でうんうんぎゃーぎゃー叫びながらこの子を産んだのですよ。

「ぎ、ぎるー、あんたの名前は前々から決めて居ることさ。あんたの名前はギルーだよ」

大粒の涙を流してはにかむその笑みは、産まれたばかりのギルーには鬼のように見えたのかもしれませんね。彼は産まれてこのかた一向に泣き止みませんでした。

「どれどれ、おっぱいから乳が出るかわからんけどもね。ほうれ、乳首をおしゃぶりよ」

真っ黒色した乳首の先からは濃厚なミルクセーキが飛び出しましたよ。それをギルーはちゅうちゅうと美味しそうに飲むのでした。ようやく泣き止んだ。めでたしめでたし。

いやいや、まだまだこの物語は始まったばかりです。今終わってはもったいない。もう少し話を進めてまいりましょうか? そうしましょう、そうしましょう。

はてさて、どこまで話していたんでしたっけねぇ? そうそう、豪雨の夜というところまででした。豪雨と言えば家の中はやぶ蚊だらけで、どうにもこうにも三日はしかが心配です。この時代に予防接種などありませんから、麻疹と言えば、そりゃ生きるか死ぬかの問題でした。やぶ蚊のサイズもビー玉みたいにとても大きくて、刺されるとたちまちたんこぶほどのささぶくれができますよぅ。それが皮膚全体に広がると大変です。ツルはギルーに乳をあげては艾を焼いて煙を家じゅうに撒きました。蚊取り線香が高価で庶民の手に届かない時代ですからね、そりゃあ大変です。

ギルーは、ふんぎゃあ! ふんふゃあ! と泣き始めましたよ。それそれ、どうやら水状のうんちを布のおむつに漏らしたようですね。替えはありません。暫くちんちんぶらりんで放っておきます。さあさあ、おむつをたらいで洗わなければなるまいて。ついでにわたしの赤いふんどしも洗っておこうか? なあに、ギルーのうんこ臭なら構いやしないさ。どうせ誰これにあうわけじゃないからねぇ。よしよし、と。

連日の豪雨ですから、水に困ることなどありやしませんでした。藁の屋根からくる雨水をためる井戸が軒先直ぐにあるのです。この井戸は水が地下よりあふれ出てくるというものではありませんでした。本当に雨水専用の掘りものだったのですよ。ですからそんなにたいそう深いものではありません。せいぜい二メートルほどでしょうか? まあ、沖縄の井戸と言えば一メートルほどで水脈にありつける場所もあるのですが、そこまで行くのには手桶を担いで少しばかり歩かねばなりません。帰りは水が入っていますから片棒は酷く重いですよ。はあはあ、ぜいぜい、吐きながら命からがら戻ってくるのです。この時代は何をやるにしても命がけでした。それが”一生懸命”という言葉なのです。

果たして現代人で”一生懸命”の日本人はいるでしょうか? 幸いなことに一人とていませんでした。皆、近代の道具で楽をしてもらえているのです。生きることの楽しさというものは、”いかにして楽をするか?”これがテーマとしてありますが、まさにその通りで、昔々の人たちは常日頃から夢見ていたことでありますよ。

さあさあ、余談はこの辺にしておいて、ギルー家の話でもしましょうかな?

母の黒い乳首から出るミルクセーキは本物そっくりで淡いアイボリー色でした。アイボリー色とはクリーム色ということですよ。よくトイレのタイルにある色ですねぇ? そうそう、それですよ。便器の色と言ってもいいくらいよく見かける色です。便器ではあまりにも品が無かったですねぇ? これまた失礼いたしましたよ。

やれやれ、ようやくギルーはすやすやと寝てしまったようです。それを見計らって母親は、まだ取っていない夕食を食べてしまおうと炊事場へ向かいました。炊き出しは囲炉裏で行っているのですが、炊事場にも釜床と洗い場がありましてね。そこで自前の畑から掘ってきた紅イモを洗っては口にほおばれる大きさに包丁で切ったりするのです。

この時代に米などという高価なものは庶民の暮らしにはなくて、それらは全部官民どもの食事でした。憎き憎き官民ども! この恨みはらせておくべきか! 農民は皆思っていたことです。

この梅雨時期は火を起こすのが億劫でしてね、それはとてもとても時間を必要としたものだから、ギルーの母親おろか庶民は皆、生で紅イモに噛り付いて食事をとっていましたよ。それはそれは獣のようでした。官民からすれば農民など家畜みたいなものでしかなかったのです。そうとしか観ていませんでした。考えていませんでした。

「いいかい? ギルーよ。この恨み辛みをいつか晴らしておくれよ」

子守歌は即興で考えます。今夜はもう寝てしまっているために歌いませんが、心の中で子守唄を作っていました。いつかこの歌を唄って踊ってめでたしめでたししたいものじゃて。さあて、わしもそろそろ寝ようか。こんな糞くらえな人生なんか寝てしまった方が極楽というやつじゃて。なあ、ギルーよ。

やれギルー。いいかい? 逞しく生きるんだよ。負けたらあかん。戦う力を振り絞れ。さあさあ、寝てしまおうか。寝てしまおう。おやすみよ、ギルー。おっぱいが欲しくなったら泣きじゃくるんだよ。泣いて起こしておくんなまし。

陽はめくりゆく、めくりゆく。おっかさんはギルーを背中にしょいこんで畑仕事の毎日ですよ。そりゃあ大そうな力仕事はできませんが、だがしかし、生きるか死ぬかの問題でもありますのでね、畑を耕さないわけにもいかず、肥やしを撒かないわけにもいかず、水

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