連載小説 愛するということ 4

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した様に外へと一目散に逃げ出す。逃げる方向が学と同じだと言う事を確認した店主は、店に戻って黒電話の受話器を耳に当て直し、電話向こうに居る警察官へぼやいた。

「まったく、またグループでの万引きでしたよ。これで今年に入って四件目だ」

秘密基地に戻った兄弟は皆、笑顔。それはまるで昨日の悪夢が存在しなかった様に土色の表情はとても明るかった。

大分温くなった缶ジュースの蓋を学が開けた。飲み物が窮屈な入れ物から爆発するように学の顔面目掛けて噴出した。兄弟は皆、思い切り良く笑い転げた。

パンは豊の命令により、一回の食事辺り一つだけを四つに割って食べた。勿論、それだけで空腹は満たされない。水に関しては、まるで土地を持余した様な公園が幸運にもあった為、そこで喉の渇きは数回癒された。

そろそろ時刻は夕方を指している。

皆が唾を飲み込んでいる前で残る最後の菓子パンの袋を豊が開けた。その時。

「おい、君達。ここで何をやってるのかな?」

濃い青色の制服と帽子をまとった大人二名がこちらへ歩み寄ってきた。警察だ。

もう既に逃げ切れる距離ではなかった。兄弟は瞬時に硬直し微動たりとも動けなくなる。いや、空腹と昨夜からの絶望感から動けなかった。

「その菓子パン……。今日、上間商店で盗みを働いたのは君達だね?」

兄弟は口を割らなかった。

「怒ったりしないから。君達、名前はなんていうのかな?」

一人の警察官が優しく訊いてきた。途端、静けさだけが辺りに漂う。

沈黙を解く様に、豊が小声で名乗った。

「まつだ、ゆたか……」

「松田! まさかこの子達は事件のあった松田さんの子供じゃないですか?」

「多分そうだろう。可哀想に……」

「君達。ここは汚いから、オジサンたちが働いている所に行こうね」

兄弟は警察車両の後部座席へギュウギュウに詰め込まれた。が、しかし、兄弟の間に窮屈感と不安などは不思議と無く、逆に開放感に似た幸福が支配していた。

助かった、生き長らえた――。

その気持ちの方がとても大きく心の中に響いていた。

兄弟は警察所の留置所へ一旦入れられた。しかしながら兄弟にとって、取調室で食べた弁当と綺麗なタオルケットが現実とはかけ離れた天国を思わせた。

彼らを署まで迎えに来たのは隣近所に住む老夫婦であった。靖子は、夫である次郎を殺害後、家を放火し、松の枝で首つり自殺を図っていた。彼らは一夜にして両親を失ったのである。

兄弟は何時までも待っていた。全焼し潰れた家の焼け跡で立ちすくみ、亡き両親の帰りを待っていた。未だに“あの事件は夢だった”と信じて疑わなかったのである。

今夜も訳の分からぬままに精神が混乱した。現実との境界線上で泣き崩れていた。

正樹は大人になってそれを思い出し、誰かに呟いた。

「あの日が自分の人生で最初に失った愛だった――」

 

愛すると言う事~第二章

 

一九七七年

恵は正樹が誕生した年から一年後となる昭和五十二年十一月七日に生まれた。

彼女の家系はとても複雑で、特に母に関しての職業は神秘性があった。

恵の母、上村倫子は霊媒師で、沖縄では”ユタ”と方言で呼ばれる存在。彼女は一度、職に関する問題から離婚の経験があり、今回授かったこの子の父の場合、妊娠が発覚してから突如蒸発し行方をくらませていた。この時、父親こそ違うが、恵にとって姉の存在といえる五歳の愛娘が居た。

姉妹には母譲りの天性なる特別な能力が備わっていた。二人は除霊所などに隣接された母屋の広い敷地内に聳え立つガジュマルの森で遊ぶのが昔から好き。理由は、彼女らにしか見えない特別な動物が居るかららしい。聞く所によるとその奇妙な動物は頭髪が濃い赤色で肌が全身土色、背丈は彼女らと同じ位。樹齢百年以上ある大きなガジュマルにのみ生息すると言われている悪戯好きの“キジムナー”であろう事は間違いない。倫子はその動物の話を晩御飯の時間にうんざりするほど聞かされていた。姉妹はそろってその動物の名前を「チャッピー」と呼んでいたが、母はそれがガジュマルの妖精でありちゃんとした呼び名がある事を知っていたが、二人を気遣ってか、その話をしばらくの間伏せていた。

倫子は火炎放射器や毒ガスの煙幕によって黒く焦げ付いた鍾乳洞、いわゆる沖縄の方言で言う“ガマ”へ弟子と共に巡礼していた。彼女の除霊所である神社のような大きな建物の奥方には、最も悲惨で悪霊の数と力が最大。よって、もはや除霊は困難とされるガマの入り口が潜めてあった。このガマの存在を娘二人へ絶対に話す事はしない。

このガマの入り口には大きくがっしりとした鉄の門扉があり、その扉には鍵が二重三重に掛けられ、そして門の存在を隠すように大きな神棚などがその手前に奉られていた。その神棚からは左右に白い綱が建物の外へとずっと伸びており、そこからガマの上にある森すべてを一周して囲っていた。とても巨大な結界である。

非常に強力なる結界は、実はそこだけではなく、万一に備え、姉妹が遊ぶもう一つの森や母屋一帯にも別の手法を用いて張り巡らされていた。幸いな事に、白い砂利道を挟んである二つの森の内、一つ目の結界が張ってある森には、白ペンキに塗られた塀が行く手の侵入を阻んでおり、また、その森は戦時中、アメリカ軍によるガマ包囲網の際、極めて局地的に緑が消された状態から甦生させたものなので、古い大木などは一切無く、よって二人の好きな妖精は居ない事から、倫子が注意するまでも無く、姉妹はもう一方の森には興味など持たずに立ち入る事はなかった。

上村姉妹は親も違い年齢も五歳離れていたが、それらを感じさせる事が無い位に、当然の如く毎日とても仲が良かった。母の職業柄、周囲から気味悪がられていた為、地元の友達には恵まれていない。日曜は決まって部屋で読書や勉強する姉、知子。恵はその後ろで落書き風に絵を描いたりするのが常であった。晴れて気持ちの良い日は森へ出て妖精と共にくつろいだり花を摘んだりして楽しんだ。

倫子は、沖縄で「ユタ」と呼ばれる霊媒師の中でも特に権威のある立場で、依頼の電話が引切り無しに鳴るほどに、とても多忙な日々を過ごしていた。その為、強力な結界が張られた神社のような造りの大きな除霊所や母屋などに居る事がほとんど無く、特に最近で

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