小説 運タマギルー 37

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ベッキーは目を覚ました。あの井戸端。ススキ群のたどり着く先。頭を撫でてみる。頭髪は元に戻っていた。それだけではない。帯は相変わらずなくなっているのだが、浴衣もこうしてつけているではないか。声が届く。もっと近くに、すぐそばに、感じた。思う。少年探偵団とは何者?

「運玉ギルーなんか怖くもなんともないぜ! だろう?」

「ああ、そうさ! 大鎌持っていたとしてもこっちが先にぎっちょんだ!」

きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――!

ま、まさかっ? うんたまぎるぅ? で! でたあっ……! ひえぇぇぇっ――!

「み、みんなぁ! ひ、ひんぎれぇっ(逃げろ)――!」

秋の彼岸はもうすぐそこでした。先に奇声をあげたのはベッキー。少年探偵団の一味はびっくらぽん。恐ろしくて恐ろしくて小便を漏らしてしまいましたよ。それもそうでしょう、髪の毛はロングのボサボサで、なんといっても満子さんから鮮血がただれ落ちているのですからたまりません。これではまるで井戸から出てきた貞子さんではありませんか。おそろしいおそろしい。

彼女は彼女で、目の前で腰を抜かしている少年探偵団が怖くて怖くて仕方ありませんでした。わたし、もしかしたら少年たちにレイプされるのではないの? そんなことが頭をよぎっていたのです。ぷらんぷらんに揺れている乳房がなんとも生々しい限りではありませんか。むごたらしいむごたらしい。

「きえ! きえ! きえぇぇぇ――!」

「ふ、ふんぎゃあ……!」

しばらくそのやり取りだけで時間が過ぎてゆきますよ。ベッキーは非常に焦りました。

もう! どうして言葉を発せないの? 神様、これじゃあんまりじゃない! 彼らへ話をつけないと事が収まりそうにないのよ? 一体全体、わたしが教会へ通ったのって何の意味があったっていうのかしらね? こんな時に神様が助けてくれるためでしょう? なによ! もう信仰なんてうんざりだわ! 今に見てなさい! わたしはもうぐれてやるんだから! きえぇぇ! きえぇぇ! ってね! それでいいのでしょう? わたしの人生なんて、それでよかったのでしょう? 嗚呼、悲しくなっちゃう。涙が止まらないわ。こんなに悲しいことばかりが続くなんて、もううんざりしちゃう。

ベッキーは奇声を上げながら突進し少年探偵団を払いのけてこの場から立ち去りましたよ。まったくどこへ向かえばよいのか? 見当もつきませんが、とにかく、とにかく、人目のないところを目指して走り続けます。凹凸の激しい山道ですから、素足の彼女にとって痛くてなれないものがありましたが、それでも飛び跳ねるようにして藪の中へと消えていったのです。

もう、わたし、元の世界へは戻れないのね……。

そうおもうと哀しくなってきます。

でも、元の世界って、わたしったら、いったいどこのことかしら? ご主人様のいた世界? それとも元の世界のことかしら? たしか……。

まるで思い出せません。神隠しか記憶喪失か? 思い出そうとすればするほどにうやむやになって訳が分からなくなるのです。それから頭がズシリと重い。この感覚は先ほどからずっと続いていたことでした。

わたしの、わたしのお父さんは、誰だっけ……? それからお母さんは? 姉妹はいたのかしらね? でも、なんとなく思い出せそう。そう、きっと、幸せな毎日を送っていたのだわ。ご主人様との生活もよかったけれど、でも、それ以上に便が良かったろうな……。嗚呼! そうだった! お姉ちゃんは確かにいたわね? 素敵な美人さんで、たしか芸能人の誰かに似ているのだっけ? それからわたしもハーフ娘。アメリカ人と日本人の間に生まれたのよ。そうだった、そうだった……。

突然、心が空っぽになって空白になりましたよ。極度の喪失感というやつです。何もかも失ってしまったのね。そう悟ってのことでした。

なんだかひどく眠いわ。思います。

でもどうしてこんなに眠いのだろう? わたしったら、もしかしてひどいうつ病? いいえ、さっきだって眠ったじゃない? それと同じ理由よ、きっと。頭の中が整理できずにミックスジュースなものだから、それを整えようと神経が命令しているの。恐らくそういうことだわ。

再び考えます。そう言えばお腹がすいたわね。どうしよう……。藪の中に何かあるわけでもないし、いったんここから出て畑を探さなきゃ。もしくはご主人様のおうちよ。ああ、ちがう。そうじゃない。この世界は異なるのだったわね。ご主人様の家はここにないのだわ。それにあったとしても、すべて灰になっているはず。全焼したのでしょう? わたしは途中で死んでしまったけれど、あの燃え方はひどかったもの。

はたけ……。はたけ……。はたけ……。

きえぇぇぇ。きえぇぇぇ。きえぇぇぇ。

少しばかり運玉森を下りますと、何やらブルーシートでもって造られた人工沼がありましたよ。それからその周辺で中学生らしき男子児童らが、アンマヨー!(なんてこった!)空き缶でもってシンナーを吸っているではありませんか。ベッキーはその光景を目の当たりにして、腹が煮えくり返る思いがします。

こっちは死活問題なのに、なによ! 平和そうにシンナーなんか吸っちゃって! みてなさい! 石ころぶつけてやるんだから!

彼女は近くに転がっている礫を数個ほど拾いまして、連中の空っぽな脳みそへ向けて、ほうれっ! と、投げつけてやりましたよ。それから見事に命中すると、はにかみながら隠れてしまうのです。少年探偵団にあれほど恐れられたベッキーが隠れるとは、これもまた変な話ですねぇ。しかし、事実は事実なのです。

いけない! こんなことをしている場合ではなかったわ! おいも、おいも! 早く紅芋を探さなきゃ! 畑から掘って皮についた土ごと召し上がれしなきゃ! わたし、わたし、それくらいに腹をすかしているの! マリヤ様! おねがい! わたしを芋畑へいざなっておくんなまし。さあ! さあ!

あたりを見回しますと、あった、あった! 紅芋畑が一つありますよ。しかし、どうやら時期外れのようでして、紅芋の青々とした葉が畑いっぱいに広がっております。ベッキーはイモについて詳しくは知りません。まさか時期外れだなんて知る由もないのです。彼女は、はだけた浴衣が邪魔なので、そいつを脱ぎ去り、素っ裸で畑へ駆け寄りましたよ。あたりには誰もいませんでした。イモ泥棒としてはしめたものです。

はあはあはあ……。いもを、いもを、腹いっぱい食べてやるんだから♪ ああん♪ お芋

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