小説 愛するということ 63

連載小説
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恵は正樹と一緒に居た施設内でのクリスマス祝賀会の事も思い出した。正樹が隣に居て、そして全てを一緒に楽しんだ。どんなに行事ごとで施設側が盛り上げようとも、恵を含む児童らの心から寂しさは絶対に拭えなかったが、それでも恵は寒さの中にも幸せを感じた。

恵はふと思い出から我に返った。滾々と積もり行く雪を眺めながら、なんだか胸がとても切なくなった。

こなせばこなすほど、売れれば売れるほどに正樹の存在は遠のくだけ。

気が付けば東京へ来てから五年以上が経った。しかし、恵からすればまだ三年ほどしか経過していないと感じさせるほどに時間はとにかくあっという間。

今年、島の成人式へは出席できず、聡子との約束は守れなかった。そして何と言っても正樹の居場所へいまだ行けずに居る事が恵はとてもやるせなかった。

恵はもはや精神的に限界。初の主演となる今度のテレビドラマの撮影が終わり次第、彼女は休みを取りたいと申し出た。だいぶ業界でも成長した彼女だ。いつになるかはスケジュール次第だが、二、三日程度ならば流石にもう断られる事はなかった。

そしてその時は訪れた。

恵は最近から一人暮らしをして居るマンションで心が高鳴った。

正樹がいる場所の住所と道筋は既に電話と地図で手に入れている。今日こそ本当に久しぶりに正樹に会えると思うと恵は一人宙に浮いてしまう。

――服はどれを着ようか? いや、電車なのだから山本レナである自分を隠す様に目立たなくしなければならない。とにかく地味な格好をし、ニットキャップとマフラーで顔あたりは隠そう。化粧はかなり薄めが良い。その方が正樹は自分だと気付きやすいはずだ。話はまず何からしようか? 正樹の姓も自分の名前も一応芸名だが変わった。その事に関してからにしようか。それとも正樹が言うまではそれには触れない方が良いのか? 顔も体も大人に成長しあの頃よりも大分変わったかもしれない。でも、大人になった正樹、そして大人になった自分をお互いに見せて驚こう。

そんな事を色々と考えていた。

恵は人の目が少ない夜に行動した。彼女の思惑通りに誰もが山本レナの存在に気付かなかった。いや、気付いては居たが、まさかと言う気持ちの方が大きかったのだろう。意外にも誰一人として声をかける者は居なかった。

下赤塚のホームに下りる。足早に正樹の住む寮へと向おうとした。そしてそれは、改札口を通り抜ける手前。彼女は偶然にも正樹らしき男をみつけた。恵は思わずハッとした。

正樹!?

前を歩いているカップルの男の横顔を一瞬見てそう察した。昔の正樹と同じ髪型と背丈ではないが、輪郭等が恵をそう思わせた。向こうはコチラに気付いていない。

恵の直感は寮へ近付いてゆくほど確信へと変っていった。前を歩くカップルは、まるで恵を案内するかの様に同じ方向へと歩いてゆく。自分と同じ髪型の女性が、正樹にとても似ている男にしがみ付いたり何かを訊いたりしているのが少し離れて見えた。恵は急に嫉妬心が湧いてきた。

やがて寮に着いた。恵は思わず二つ三つ手前にある民家に入る振りをして隠れた。二人が寮の入り口の前で止まり向かい合ったからだ。

二人は何か会話をしている。

女性が正樹の胸元にそっと額を持たせて何かを言っているがよく聞えない。

恵は密かに耳を立てた。

女性が男の胸元から離れた後に発した声がはっきりとこちらまで届いた――。

「今日はわがままばっかり言ってごめんなさい。それじゃあ、おやすみなさい。正樹さん」

恵は思わず口を手で隠した。男はやはり正樹。

女性は顔を上げた。正樹と女性は温もりを感じるキスを交わした。

其処はまるで二人だけの世界だった。恵は気が動転した。少ししてからだ。

「おやすみ」

正樹がそう発したのがかすかに聞えた。彼は寮の中へと入り、女性は駐車場へと消えた。恵の視界が少しだけ朦朧とした。辺りがぼんやりとかすんで見える。恵は小さく呟いた。

「どうして、どうしてなの?」

それは恵にとってあまりにも残酷。

恵は手を口に当てたまま屈みこんだ。彼女は、時は常に動いているという事を忘れていた。いや、見ない様にしていただけかも知れない。今、恵の目に入った正樹は、新しい運命を手に入れている。少なくとも彼女はそう思った。

施設で最後に正樹と会ったあの時、確かに別れを口にしたのは自分だ。だから正樹がとやかく言われる筋合いは無い。それなのに、何時までも自分の事を正樹が思っている訳が、そんな事があるはずがないではないか。

――嗚呼、自分はなんて勝手なんだろう。

恵は自分自身に涙目で叱責した。しかし、誰も恵を責められない。彼女は正樹の事を本当に運命と心から信じていた。また、母にもそう言われていた。

別れた後、正樹は施設に会いに来ていた。それはきっと恵が願っていた事を彼は言いに来たに違いなかった。恵は遅れすぎてしまった自分に対して、ただ悔しくて悔しくてとてもやりきれない気持ちになった。

「正樹、正樹……」

とうとう恵は、その場で泣き崩れてしまった。

 

後日から恵は正樹の事を忘れようと仕事だけに打ち込んだ。それは毎日、心が晴れたようにすっきりとした気持ち。そうではなかった。

恵が仕事から帰ると、突然、襲い掛かるように正樹が脳裏に浮かんでは彼女を攻撃した。恵はたまらず一人しくしくと寂しく泣く。それはもう何日も終わる事無く続いた。

そう言えば恵は最近、霊的なものや奇妙な世界を見ていない。それに関して彼女は正樹との事が完全に終わったからだと決め付けた。運命は時と共に変わり、世界は色を変えた。只それだけだと考えた。勿論、恵はまだ心の片隅では完全に納得したわけではなかった。

仕事は恵が望むとおり更に多忙を極めた。もはや山本レナを知らない人間はごくわずかだろう。彼女は日夜問わず良く働きそして寝る前に泣いた。それは決められた工程のようにずっと続いた。

やがて一年後、恵は過労と治る事の無い精神的な病によって、都内のロケ現場で遂に倒れた。そのロケ現場は、たまたま都立病院に隣接する公園だった為、スタッフは何も迷う事無く恵をその病院へと直ちに運んだ。彼女は緊急入院しなければならないほど様態はと

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