小説 愛するということ 45

連載小説
連載小説

て良いほどその側に広がる海で、恵は時々その子供らの馴れ合いを眺めるのが好き。

この日、恵が海を眺めていると、そっと来る潮風から、横に人の存在を感じた。同級生の聡子。

「今日も海、濁ってなくて綺麗だね」

「あっ! 聡子――」

恵が気が付いたと同時に、聡子は彼女の隣に座り込んだ。

「最近さ、恵が来た時くらいから海が荒れて無いってば。あっ! 最近って言っても恵が来る少し前だけど、台風とか来てた訳さ。それで、しょっちゅう海荒れてから濁ってたわけ。ほんとにデージ(※とっても)濁ってたよ」

「へえ、そうなんだ」

恵は島独特の訛りにまだ慣れておらず、圧倒されたままの様子で言葉を返した。たくましさを感じるこの島の言葉だったが、それは他に無い優しさまでも感じられて、恵は最初からとても好感を持てていた。

「そういえば明日休みさーね。恵もウチと泳ぎに行かんね?」

「うん、良いよ」

恵はそう発してから、再び海の方向へ顔を向けた。目中に広がる癒しの光景は、恵にこれからの生活の平安を伝えた。しかし、それとは裏腹に、ある不吉なる気配に対して薄々気が付いていた。それは三日ほど前からだ。風呂場だけではない。家の中で時々実や恵美と言った里親とはまったく関係のない、とにかくこちらが知らないもう一人の人間に密かに覗かれている気が恵はしていた。それは気のせいではなく、紛れもない事実だと確信がもてたのは、それから更に一ヶ月が過ぎた頃。

「誰?」

恵が部屋の窓を思い切りに開けて発した。

「恵、どうしたの?」

居間の方から恵美の声が届いた。実が恵の部屋へ来た。

「何でね? なんかあったの?」

「実おじさん、今、誰か外に居たみたいな気がしたんだけど」

「は? 本当にね?」

「うん、誰かが覗いてた」

「あんた、気味悪いから見てきてちょうだい」

後から来た恵美が言った。

「だあるや(※そおだな)。ちょっと外見てこようね。ハッシャビヨーナ、ターヤガヤ(※本当に誰かな? )」

「隣の仲泊さんの所にも訊いて来てよ」

「ヤッサーヤ。(※そうだな)一応、用心する様に言ってくるさ。今度はこっちに『覗き』が来てるって話しとくよ。やっぱり他から来た人は物珍しいのかも知れないね。恵ちゃん、ごめんね」

「前、隣の仲泊さんはね、里親で二人の児童の面倒見てたんだけど、その時も『覗き』があってさ、向こうでは大騒ぎだったね」

恵美が言った。

「だったな。恵ちゃんと同じ施設から来た子達だったけど……」

「え? まさか、名前は――」

恵は恐れが頭の中を過ぎりながらも訊いた。

「中田健二君って言う子と、そのお姉ちゃんの小百合ちゃんよ。恵ちゃん、知ってるんじゃないの?」

恵美の問い掛けに恵はわずかに震えながら、黙ってそっと頷いた。

「まあ、とにかく、この島は狭いし話題もなく平和だからね。ちょっとした事でも大騒ぎになるわけさ。恵、大丈夫?」

実が恵の急変に気が付いた。

「うん、大丈夫。あの、健二って人は知っているんだけど、小百合さんって人は知らなくて……、その人は今何処にいるの?」

今度は実の顔に変化が見られた。実は思わず恵美と顔を見合わせてから恵へ口を開いた。

「何があったか詳しくは知らないけど、あの姉弟はちょっとしてから急に反抗的になってね。特に健二がね、手に負えないくらいだったわけさ。元々はネエネエ(※お姉ちゃん)の小百合ちゃんがなんかあってからみたいなんだけど、仲泊さんに小百合ちゃんは、ただ泣いて何も話さなくてね。それからさ。仲泊さん夫婦が何回もこっちに相談しに来る様になったんだけど、だけどこっちも何も分からなくてね。その後一ヶ月くらいした頃だったかな? 小百合ちゃんがね、鳩間灯台の近くで首を吊って自殺したわけさ。いや、あれは本当に「デージナッテル(※大変な事になってる)」ってね、島のみんなで大変な騒ぎになったよ」

「自殺?」

恵は健二の言葉を思い出した。姉は欲求で飢えた人間の為に犠牲にされた。確かにそう話していた。誰なのかはまだ分からないが、健二の姉、小百合は、自分と同じ様に婦女暴行に遭った。そして自殺した。恐らくはそう言う事だろう。健二は「何回も見た」と言っていた。それは、悔しさと絶望に満ち溢れた小百合の姿だったに違いない。健二の姉、小百合は、弟の彼を一人残し、自らこの世を去った。それは、彼自身のこれまでの人格を滅ぼすほどに、破壊的な出来事。恵は悲しくなって思わず涙がこぼれた。

「なんて可哀想な人なの」

もはや感情を抑える事が出来ず、恵は激しく泣いた。

「壊されて、盗まれて、無くして……、幸せが見えなくなって……、過ちが間違いじゃないだなんて……。辛かったのよ。そうよ、健二のせいなんかじゃない……」

恵は号泣しながら何時の間にか独り言で懸命に言葉を発していた。見かねた恵美が恵をそっと抱き寄せた。

「大丈夫、大丈夫よ。恵ちゃん、だから落ち着いて。ね?」

恵の独り言に発した言葉の意味が分からず困惑した恵美だったが、何とか落ち着かせようとそう言った。が、しかし、恵美の優しい言葉が尚更に、恵に涙を誘った。恵はしばらく泣き続けた。

やがて落ち着きを取り戻した時、恵はきいた。

「恵美おばさん、もう一つの姉弟は幸せに生きてると思う?」

恵美は再び困惑した。が、言った。

無料連載カテゴリ

小説 愛するということ

小説 運タマギルー

自由詩 詩情

随筆 エッセイ

小説群

詩集群

 

占い相談記事 不倫占い記事 願いを叶える

電話占い 婚活出会い 開運グッズ

カウンセリング English Version

マインド 日記 小説 詩集 無料連載

パワーストーンジュエリー
御守ジュエリー

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA