小説 愛するということ 42

連載小説
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恵は部屋の天井をベッドから身を乗り出す様にして見た。空間はもう無かった。

「今のは、やっぱり夢……だったの?」

でもそれは違うと言う事に彼女は直に気付いた。身の回りにはあの空間の匂いがほんの少しだが漂い残されている。

「違うわ。あれは夢じゃない……」

思考へ心の目の焦点を当てた。

「でも、どうして? どうして、みんな居なくなっちゃうの?」

酷い頭痛が襲い来たかの様に思わずこめかみに両手を当てて目蓋をきつく閉じ俯いた。もう自分は一生このまま一人で凍え死ぬんだわ。誰も助けてくれない。運命? 何の為? どうせ最後に苦しむのはあたしだけじゃない。怒りの後から来る悲しみに満ちた思いが心底から込上げた。途端、たまらず号泣した。

少し時間が経過してからだろうか? ふと、自身の手に目をやった。恵は祈る様に重ねた両手を胸元に当てた。彼女の両手には今もまだはっきりと母の温もりが確かに残っていた。

 

 

恵は南西諸島の南端近くに位置する小さな島へ、今、石垣島で乗り換えた船で向かっていた。隣には園長先生が居る。彼女は園長の提案で里親へと出たのだ。

「綺麗……」

恵はとても透き通る海を見て、思わず口にした。

「そうだね。本当にこの辺りは何時来ても素晴らしい」

園長が遠くに見える島の影に気付いた。

「ほら、あそこに島が見えてきた。あれが今向かっている鳩間島だよ」

「小さいんですね」

「うん、さっき見えた竹富島や小浜島なんかと比べても、本当に小さな島だ」

少しだけ間が空いた。

「恵君」

園長は遠目に向こうの島を見つめたまま、側に立つ恵を呼んだ。

「はい?」

恵は手摺に腕を乗せたまま、隣に立つ園長へ顔を向けた。園長はそのまま鳩間島を見つめた状態で続けた。

「本当は何があったのかを言える時が来たら、何時でも良い。私に話しなさい」

「はい、園長先生」

恵は健二らの暴行のことを誰にも相談出来ず、あれから毎日を苦しんでいた。それはあからさまに第三者の目から伺えた。彼女は学校へ行かなかった。部屋に閉じこもりで動こうとしなかったのだ。

毎日行われる職員会議にて事情を察した園長は、直接、訳を訊くことにした。正樹の脱走の件もあり、事は迅速に進んだ。今回ばかりは荘を担当する職員の対応も最初から最後までとにかく早かった。女子と言う事もあった。男子ならば集団暴行でさえ担当の職員から見て事が非常に大きいと判断できない限り一々園長の耳に届くことはなかった。恵は本当の事を隠しながらも施設にいることがこの上なく辛いと話した。里親の話しが出たのはその為。

「とにかくあの島では少しばかり休暇をとる気持ちで過ごすと良い。君にはそれが今必要だからね。勿論、里親と君がお互いに気に入れば、養子縁組としてまた新しく話を進める用意もあるが、まあ、今は其処まで考える必要はありません」

「園長先生」

「ん、何かね?」

「この前、梅雨の時期に、私と正樹と園長先生三人で話した時の事なんですけど」

「さて、そんな事があったかな?」

園長は、記憶に無いと首を傾げる様にして発した。

「『主はこう仰せられる、見よ、わたしはヤコブの天幕を再び栄えさせ、そのすまいにあわれみを施す。町は、その丘に建てなおされ、宮殿はもと立っていた所に立つ。感謝の歌と喜ぶ者の声とが、その中から出る。』」

「エレミヤ書第三十章、シオンの運命とヤコブの天幕が再生する話だね。確か今年の……そうだ、六月か七月に入った頃だったかな? 礼拝で取り上げた書の言葉だね。それがどうかしたのかな?」

「いえ、あの、やっぱり解決は直にはないのかなと思って……」

確かに園長の記憶からは、あの日の出来事が始めから無かった様に消えている事を、顔の様子から感じ取れた。恵は再びあの少し遠くに見える島の方へ顔を戻した。園長は困りながらも発した。

「まあ正直、この時私が君に何を話したのか全く覚えが無いんだが、でもね、恵君。運命にはいつか必ず答えが見つかるものだよ。人生とは――」

「“人生とはある意味を探す旅。結果ではないその答えを導き出す事が、人に与えられた使命”」

「その通り。恵君、君は本当に賢い」

「園長先生が教えてくれた言葉ですよ。私はそれをそのまま暗記しただけです」

「いや、本当に最近物忘れが酷くなったようだ」

園長が苦笑いを浮かべた。それを横目に見た恵も少しだけ微笑んで見せた。

恵は健二の話が気掛かり。本当はそれまで話したかったが、彼女はタイミングを逃した様にそれを止めた。はっきりとは言わなかったが、多分あの話は、彼の姉が暴行に遭ったと言うもの。恵の心の中に先ほどまで隠れていた小さな不安が完全に姿を見せた。彼女は自身の手が微かに震えだした事に気が付いた。

島に段々近づいてきた。それと同時に彼女の不安も段々大きくなってくる。いよいよ浜辺から沖へ一つ突き出した突堤から成る船着場に二人が乗る郵便船は着岸した。

「ああ、金城さん」

船から降りた園長が、出迎えに来た里親の存在に気付いて発した。園長は続けた。

「こんにちは。お久しぶりです」

「こんにちは。お待ちしておりましたよ」

いかにも人の良さそうな顔をした金城実という男がそう言葉を返した。彼は背が園長と

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