小説 愛するということ 36

連載小説
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れはびっくりしたよ。なんせおじさんはあの頃から今みたいにぶくぶく太ってからね。いや、本当に祈りは毎日しておくもんだなって思ったもんさ」

「あ、あの――」

正樹は良く分からないと言おうとしたが、ちょっと待てと、店主が人差し指を立ててそれを阻止した。

「何故かは分からないが、先生は君がここに辿り着く事を、私と会う前から既に知っていた。神の導きである光がそれを教えたと先生は言っていたが、多分それは本当だろう」

正樹は驚愕した。――光? それは、恵や正樹のみならず智彦の前にも現れたあの不思議な現象と同じ物なのか? もしそうだとしたら、この先回りに見せるように訪れる世界、いや、この先の運命には、一体どれだけの意味が隠されていて、自身にどう関係していると言うのか? しかし、この時の正樹には、やはり何も見えては来なかった。

「実はおじさんもね、昔、君の居る施設に大分世話になってた事があるんだよ。作間源吉先生とはその時知り合った」

「作間先生……。恩師って、園長先生の事だったんですか!」

「おじさんもね、君達兄弟と同じ様に両親を幼い時に亡くしていてね。まあ、私の場合は一人っ子だった訳だが、そのおかげで施設では慣れるまで寂しい思いをしたもんさ。でもそんな時、何時でもとはいかないが、時間があれば必ず優しく遊び相手をしてくれたのが、あの頃は事務の方で勤務していた作間源吉先生なんだ。荘へ配属されている先生達は今もそうかもしれないがとても厳しくてね。そんな事もあってか作間先生はどの園児からも好かれていたな……。そうそう、それでね、おじさんがここにこうして居るのも、作間先生が関係していてね。実は言うとおじさんはここに養子として来て後々この店を継いでいるんだが、その養子となる前の話しだけどね、自分が高校生の頃、施設に養子を探してる夫婦が訪れて来た事があってね。その時にね、作間先生が本当に幼い時から両親が居なかった自分をその夫婦に薦めてくれてたんだ。そしてね、そんなこんなでこの上間家に養子として来た後、この店の後を継いで今の自分がある。いや、養子として来た最初の頃は色々大変だった。作間先生が「この子は勤勉で頭も良い」なんて事を大げさに話していたみたいでね。その話に合わせる為にそりゃ大変だった。この話はね、今でも嫁と笑い話しで時々しているよ」

ここで一つ呼吸を置いてから店主は調子を変える様に笑顔から真剣な表情へ静かに変化させた。

「その嫁はさっき逆に告白されたって話していた一つ下の彼女でね。彼女が高校を卒業し卒園してからおじさん達はすぐに結婚した。ここの両親もとても優しくその事に対して理解してくれてね……。全ては作間先生のおかげだと思ってる」

話を言い終えて店主は再び笑顔で正樹を見つめた。

「君とおじさんは本当によく似ている。お腹、空いているだろう?」

店主はガラスケースの食品棚に置いてあった菓子パンを一つ取り出し、それを正樹の胸元へと優しく差し出した。

「何も遠慮する事はない。食べなさい。後の話はそれからだ」

正樹は、突然とも言える久しぶりの優しさにたまらず泣き拭いながら、手にしたパンへがむしゃらに食らい付いた。あの日、兄弟で分け合い食べた時と同じ様に、パンはとても美味しかった。店主は飲料水も正樹に渡した。彼がそれを飲むと体内は一気にそれを吸い上げては全身を潤した。

その後、少し落ち着いたとき、店主は何があったのかを本人から直接確認すべく詳細に尋ねた。正樹は全てを話した。もう施設には二度と戻りたくはない。店主は正樹の胸の内をとても理解してくれた。それから数日後、児童相談所と店主は正樹と共に話し合いをし、そして養子として正樹の面倒を店主がこれから見てくれる事になった。それは夢のように話は進んだ。

「気にしなくていいんだよ。ここからね、君が好きな彼女にいつでも会いに行くと良い。私の時と同じ様に、彼女はきっと待っている」

これから養子として正樹の世話をする上間良晴は言った。だが、正樹の表情は暗かった。

「彼女は絶対に自分とは会ってくれないと思います」

正樹は俯いてそう言った。しかし、それを払拭するかのように良晴は返した。

「いや、それは分からないぞ。多分、その子は今頃とても寂しい思いをしているはずだ」

言って、彼は正樹の肩に手を置いた。

「良晴おじさん、やっぱり自分は間違っていたんでしょうか?」

「そうじゃない。君のやった事やこれまでの成り行きも、また運命の一つなんだ。もし君が災いをかわす事無く施設に残ったとしても、やはり運命は同じか、もっと酷い結末を迎えたかもしれない……。とにかく気持ちが落ち着いてから、バスに乗って一度会いに行きなさい。それで何か新しい希望の光が見えてくるかもしれない」

「でも、恵はもう完全に許してくれないと思います……。これで本当に、自分は恵を残して逃げたんです……」

「大丈夫、次に逢う時には全てが解決するはずだ。多分、きっとね」

言って、義父となった上間良晴はにこやかな表情で正樹にウィンクして見せた。正樹は義父のその言葉に何かとてつもなく大きな深い意味を感じた。

養子となってから何ヶ月か経過し、学校も私生活も少し落ち着いた頃、正樹は路線バスに乗り込み恵に会いに施設へ向かった。中学卒業はもうすぐ其処まで来ていた。健二等に遭わずに恵と会う方法はこの状況からなら幾らでもある。正樹はまず事務所へと尋ねて、そこから放送マイクで彼女を呼び出してもらい、応接室で彼女と再会した後、外出許可を取ってから外でじっくりと話すつもりで居た。

「おお、正樹久しぶりだな。どうだ、元気でやってるか?」

児童らから『鬼』と呼ばれ最も恐れられていた職員が、彼をまずは気持ちよく出迎えた。と、その時、「正樹君」と背後から声が聞こえた。正樹は事務所の出入り口方向へ振り返り見た。牧師姿の園長先生の姿が其処にはあった。どうやらたった今、礼拝を終えたばかりらしい。正樹は園長先生と挨拶を交わした後、今日は恵に会いに来たのだと言う旨を話した。

「そうか……。彼女に会いに来たのか」

園長先生は正樹の話しを聞いた途端、急に暗い顔になった。

「……正樹君、実は言うとね」

正樹が施設へ会いに来る直前、恵は彼と同じ様に其処から姿を消してしまっていた。里親に出たと言うこと。正樹が十代の内に恵に会う事は、この世界ではもう二度と無かった。

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