小説 愛するということ 34

連載小説
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っきまでの光景は何処にも見当たらなかった。あれは、幻じゃない……。あれがもう一つある現実の世界……きっとそうだ。でも、どうして……どうして、またここに戻されたんだ? 正樹は光について再度振り返るように、これまでの事を思い出した。

光を初めて見たのは、弟が死んだ頃……。それからテニスコート側にある恵と座った木陰にあるベンチで……。あっ――!

そうだ。確かにそう言えば、光に恵が出たあの日、彼女がこんな事を話していた。

「――世界はDNA細胞のように並行して螺旋状に進む二つの世界があるの。そして、その間にある二つを支える道から互いの人生を行き来できる道がある……人生の分かれ道もそれよ。でも、それはそのまま跳ね返されたり、すり抜ける様にすぐ向こうの世界を通り越して元の世界へ戻されることもあるわ――」

この時初めて恵の話の意味を理解できた正樹は、深いため息をつき下を向いた。

――やっぱり恵の言ってた通り、二つは一つにはならないのか。でも、あの時、絶対に二つは一つになったはず。それなのに、どうして……。

「どうして此処の世界なんだよ!」

正樹は思わず、どうにもならない苛立ちを地面へ叩きつけるかのように、顔を下へと向けたまま叫んだ。

少し気持ちが落ち着いた頃、正樹の全身から疲れがどっと沸いてきた。彼は仰向けで横になった。もう一度あの日の事を思い出す。

恵はあの時、姉が消える前に言った言葉も正樹に話していた。

「生きて、そして幸せになるの。これから本当に死ぬほど辛い事があっても、そこに隠された答えの意味が分かるまで――」

「俺も恵と同じ様に、ここで答えを見つけなきゃいけないのか……」

正樹は仰向けに寝そべったままそう呟いた後、極度の疲労から何時の間にか眠りへついていた。眠りの途中、正樹は現実と区別が付かない夢を見た。それはとても信じられない出来事。

「智彦……。どうしてお前が恵と――」

「違うんだ! 神様……お願いだから訊いてくれ! 違うんだよ――」

「何でこんな暗い所に、ずっと閉じ込められなきゃいけないんだ?」

「寒くて死にそうだ。誰か出してくれ!」

「お願いだ。もう一つの世界でも何でも良い。だから戻してくれ! お願いだから――」

「嫌だ、まだ行きたくない。恵と智彦に……ちょっと待て。や、やめろ……やめてくれ!」

うわっ! と夢の中で叫び声をあげた瞬間、飛び起きる様にして正樹は目を覚ます。

「なんだ、夢か……」

額に残る汗を服の袖で拭いながら、辺りが明るくなり始めているのを正樹は確認した。正樹が次に行く先は決まっていた。彼は目を擦った後、空腹だけを寝かせたままに自分の生まれた町へと歩き出した。砂利道の私道が公道へと繋がる時、正樹は後ろを振り返り、智彦の居た空き家のある方向を眺めた。もう空き家は此処からは見えない。しかし正樹は、その方向へと思い切りに手を振って見せた。

――また会える。きっと、また会える。

彼はこの時、そう確信していた。

 

 

正樹は日中、水の飲める適当な所で休息をとりながら両親が居た地へと向かっていた。考えてみると、昨日から何も食べていない。しかし、この時の正樹は神経が麻痺したように空腹など感じては居なかった。

かなりの時間が経過した頃、いよいよ目的の場所へと辿り着いた。自分の生まれた場所だ。あの日消失し空き地となったこの場所に、誰の物か分からない立派な二階建ての家が建っていた。正樹は、もしや? と思い表札を見てみたが、やはり刻まれている字は『松田』ではなかった。両親が死んだ事実を、彼も智彦と同じくここで完全に認めるしかない。

やっぱり現実は夢にはならないのか。そう思い、正樹はまた一つ深いため息をこぼした。しかし、気落ちばかりしていられない。彼の目的は老夫婦に会う事だ。我に返った正樹は、隣に住んでいる老夫婦の家へ訪ねに行った。が、其処に老夫婦の姿は無かった。代わりに正樹を迎えたのは、この時初めて存在を知った四十五歳位になる息子の方。

「去年の春先に、親父の後を追う様にして逝っちゃってね」

「そうだったんですか……」

正樹は気落ちした様子で言った。

「正樹君、だったかい? 君は僕の両親に何か話したい事があって来たんだろ? おじさんで良ければその話を聞かせてくれないか?」

「はい。でも、あの……」

「何も恥ずかしがる事はない。話しなさい」

正樹は脱走した事実だけは伏せてこれまでの事を話し、その理由から助けて欲しいと老夫婦へお願いしに来たのだという事をおじさんへ打ち明けた。しかし

「正樹君。悪いが、その話は聞けない。……いや、君が悪いと言うわけじゃない。でも、突然じゃ無理なんだよ。分かるだろ? 物事には順序って物がある。本当に悪いんだが、僕一人では、短い期間とはいえ君を世話することは出来ない。僕の親父とお袋が生きていれば、話は違ってたかもしれないが……。助けてあげたいのは山々なんだけどね」

と、申し訳なさそうに返された。正樹はとても動揺していたが、あえて平然を装った。

「いえ、いいんです。こちらこそ突然失礼しました。それじゃ――」

お辞儀をしてその場を離れようとしたその時だった。

「ちょっと待ちなさい。施設へ戻るなら車で送っていこう」

家主である老夫婦の息子は、正樹が脱走して此処に来たという事に薄々気が付いている様子。

「いえ、もう一つ寄りたい所があるので。そこでお願いして送ってもらうから大丈夫です」

「それじゃ、送る途中で其処に寄って、それから――」

「いや、本当に大丈夫ですから。ちゃんと施設には帰ります」

「そうか……。それなら良いんだが。君は年頃にしっかりしているみたいだし、大丈夫だとは思うんだが、いいかい? 絶対に変な気だけは起しちゃ駄目だぞ。そこへ寄ったら、そのままちゃんと施設に戻るんだ。いいね?」

「はい。それじゃ帰ります。どうもすみませんでした」

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