小説 愛するということ 30

連載小説
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そんな事望んでないだろ? それに違う世界の智彦は居て、未来の俺は生きてる」

「恵だってそうだよ。きっと正樹の運命にも大切な答えがあるんだと思うし、死ぬとかって、そんな事正樹に望む人なんて居ない。ねえ、正樹。辛いのは正樹だけじゃないんだよ」

「そうだな。“結果ではない答えを導き出す事が使命“か……。園長先生も言ってたな、解決は今じゃない、だから少しずつ悟り行けば良い」

「“現実は未来における感謝として生きることで光の全てを報いる“」

恵が正樹の後から付け加えた。しかし、正樹にはどうしてもそこにある『感謝』と言う言葉が、将来大人になっても理解出来ないで居た。それはまた、口に出しては言わなかったが、正直、恵も同じ気持ち。

「恵、実は言うとな、『光の世界』って奴、ずっと前から俺も見てたんだ。弟が死んだときから時々な……。でも、恵の話とか智彦の時とは違って、それは頭の中に出てたんだ。今までそれは死んだ弟が自分に見せていたとばっかり思ってたんだけど、違うんだな……。きっと、いや、間違いなくその光は未来の自分がなんだと思う。未来の自分が“見せている”と言うより“見た”というか、何かよく分からないけど、とにかく俺の場合、未来の自分の記憶から来てる」

「自分が将来見た記憶……。その見た記憶に、恵は出たの?」

「うん、一度だけあった。でもそれはもう過去の話だよ。それから後にも先にもない」

――あっ! 突然だった。正樹は、この時“まさか”と思った。その“まさか”とは、恵と別れる運命への危惧に対する今の彼の思い。

正樹はあの時の記憶を振り返った。何故かこの時、まず真っ先に浮んだのは、恵が発した聖書の言葉。

 

『わたしは光をつくり、また暗きを創造し、繁栄をつくり、またわざわいを創造する』

 

あの時、いや、実は弟が死んだ直後にも正樹が見せられていたあの記憶の光は、この言葉が目的だったのだろうか? 正樹にはまだ分からない。

疑問をかき消すように、あの時見た恵の顔が、彼の記憶の前面へ色濃く浮かび上がった。

「また一緒になれてるといいな。もう一つの世界で。向こうでは絶対こんな場所で出会ってないと思う。多分、もっと二人の場所がとっても広くて暖かい所」

恵のその言葉を思い出したとき、正樹の心臓の辺りが心を打った。そして其処から発生した波動が全身へと満遍なく行き届いた時、正樹はその場に居ても立ってもいられなくなった。

「やっぱり今、外に出て来る。いつもの場所に。良いだろ?」

「うん、分かった」

今度の恵は素直。

正樹と恵は“夜ならばここ”と言う、あの夜景が見える場所で待ち合わせた。この日も夜景はとても綺麗。二人並んで夜景を少し眺めてから正樹が口を開いた。

「そう言えば、あいつ言ってたよ。もう一つの世界は違うって……。向こうではあいつの両親が生きててな、とにかくその夢から覚めたくなかったみたいな事話してた」

正樹は目に映る夜景のもっと向こう側へと視線を移した。軽くため息をこぼす。

「あいつの言うとおり、この世界が幻だったら良かったのにな」

「幻って、恵との事もそう思ってるの?」

正樹は「違う、そうじゃない」と、首を横に振ってから話を続けた。

「将来その時が来た時にだけど、一緒にあいつへ会いに行こう。迎えに行くんじゃなくて、俺達が向こうの世界に移るんだ。どうやってかは分からないけど、将来、この二つの世界は光の力で一つになる」

「恵は違うと思うな」

思わず正樹が彼女へ顔を向けたその時。彼の目に、恵が過去に見せた不思議な現象が映った。それは、彼女が時々無意識に見せていたあの現象とまったく同じ物。恵の顔が、何かもう一つか二つの顔と断片的にブレながら見える。ノイズを発生させたようなこの奇妙な出来事は、正に電気信号による仮想現実をこの時も思わせた。

「だって、二つの世界は絶対にくっ付いちゃいけないの。それに、今を向こうと交代とか選択して移ったりする事は許されても、向こうにも此処にも無い運命を自分が作る事は多分許されないと思う。もしそれが出来たんだったら、お母さんとおねえちゃんは絶対に今頃生きてるし、その前に全部が成り立たなくなるから、二つとも元から消えちゃう……。そしてね、全ては遠まわしにも関わりがある物だから、一つが狂って消滅すれば、連鎖的に他の運命……つまり、世界がまるごと最初から消えるのよ。まるで無かったように、みんな居なくなる……。動物も植物も月も何もかも」

正樹は恵の相変わらずなその年とは思えない発想に驚いた。そういえば、恵が何かと重なって見えた時、決まって彼女は自分と同じ年頃の人間のような感じで話す。いや、時にはそれ以上に感じる事すらあった。

正樹は思い出した。あの日ベンチに腰掛けて話した時、彼女は光の話を詳細にした。恵は一体化して今、此処に居る――。これはきっと、彼女の姉や母が自分に何か伝えようとして恵の中から現れているのだろう。正樹は彼女の次元の超えた話を更に聞き入れようとこの時心に決めた。正樹は三人へ問いかける気持ちで言った。

「それじゃ、なんでしょっちゅう現れたり見えたりするんだ? おかしいだろ?」

「違う。とにかくそうじゃないと思うの……。全部ではないけど、光はもしかしたら、見せるために現れてるんじゃ無くて、見る為に現れてるんだと思う。きっとそうよ」

「よく分からないけど、とりあえず運命は変えられないって事か?」正樹はそれを口に出して恵に言おうか一瞬迷ったが、止めた。そして代わりに、深いため息をこぼした。

正樹は、何だかとてもやりきれない気持ちになった。隣に居る恵を思わず抱き締めたくなる。正樹は横から恵を強く抱き締めた。

「恵、大好きだ。ずっと一緒に居たい」

「正樹、お願い離して。離して!」

恵は力ずくで正樹の両腕を離した。正樹は驚いた表情で唖然とした。

「恵の事好きだとか、一緒に居たいなんて嘘! 本当は違う」

「嘘って、俺は――」

「それじゃ、どうして話してくれなかったの?」

言葉を遮る様に、恵が怒鳴り加減で言った。正樹は呆然として立ち尽くした。

「正樹は恵の気持ちなんか全然考えてない! 恵は正樹とずっと一緒だと思ってた。絶対

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