小説 愛するということ 20

連載小説
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恵は廊下の先で倒れていた。除霊所も含む全ては、深夜の冷気を吹き飛ばすほど非常に激しく炎を上げている。除霊所の主柱となりうる箇所が完全に耐久性を欠けた時、屋根はもろくも崩れ、勢いを増した炎が梁を食い尽くした時、全ての壁を倒壊させた。幸いにも母屋は其処まで至っていない。恵の命にはまだ生存の可能性が残されていた。が、しかし、誰一人として救助に向かう事が困難視されるほどに、全ての入り口からは炎が噴出していた。もはや彼女自身が目を覚まし自力で脱出するしか術は無い。万事は休した。うつぶせ気味に倒れた恵は、寝言のようにうめき声を繰り返している。

出火の原因は、美代子の霊がまだ残った徹による突発的な放火。彼は後に、自身の乗用車にて意識が戻る事無い美代子と錬炭自殺しているのが発見された。徹と共に倒れていた知子の物体は、彼女の魂が違う世界へと運ばれた後に、何故か姿を消していた。恐らく彼女の場合、倫子と同様に、五体全て完全にあの世界へ辿り着いたかに思われた。恵は、遮煙される事なくこの区間へ充満し行く煙によって、とうとう完全に意識を失ってしまった。燃え盛る火の手と建物の崩壊は、どんどん彼女の周囲にまで及んでいる。もはやこれまでか? その時。一瞬、恵の手の先が何かに反応しピクリと微動した。

「恵――。めぐみ。めぐみ、起きて」

「おねえちゃん……。おねえちゃん……」

恵の意識は、まだ完全には回復していない。

「しっかりして。ほら目を覚まして。もう大丈夫よ」

知子は、倒れた恵の状態を起し、あたかも空間を浮くようにしてその場から屋外へと移動を始めた。その時、時間の中に発生するであろう周囲から出る様々な音は、完全と無に等しかった。恵は助かった。今、彼女の目に入る光景は、全焼し崩れ落ちる上村家の最期とも言うべき場面。

「怖いよ、おねえちゃん……」

知子へしがみつく恵の両腕に、思わず力がこもった。それに応える様にして姉は頬をすり寄せた。

「恵……。おねえちゃんこれからね、絶対にやらなきゃいけない事があるの。私達の為だけじゃない。ここに居る皆の為にやらなきゃ……。ちがう。そうじゃなくて、生きなきゃいけないの。そしてね、開放させるの。幸せを見つけて」

知子が発した言葉の理由に関して恵は到底理解出来なかった。ただ彼女は、知子のこの決意こそが、これから自身より去り行く理由なのだと言うことを何故か直感的に察した。

「だめ! そんなの駄目だよ。おねえちゃん、お母さんみたいに何処か行っちゃうの?」

恵は思わず涙目になりながら知子の顔を見た。母である倫子と知子が二重に映し出されているように見えた。

「違うのよ……。知子お姉ちゃんがこれから行く所は、恵の心。勿論、お母さんも一緒よ。だから大丈夫。離れたりなんかしないわ」

知子は、母と同じ口調で話している。

「生きて……。そしてね、幸せになるの。これから本当に死ぬほど辛い事があっても、そこに隠された答えの意味が分かるまで。大丈夫、全ては報われるわ」

その後続いた知子のある話に対して、今の恵にはとても理解できる様な内容ではなかった。只一つ言える事は、彼女にはこれから進むべき使命があり、これまで関わった全てにある出来事を意味として生きる事。話しの全てが終わった時、二人は突如として発生した光に導かれた。まるで吸い込まれるかの様にガマの中へ消えていく。

この地域に朝が訪れた。

毎朝のように聞こえるとても暖かい音色が、今朝もこの地にある全ての魂を、恵の体内にて目覚めさせた。ひんやりと取り残された夜風が彼女の体の上を吹き抜けていく。その冷たい風には、緑だけの匂いがとても色濃く感じた。恵はいつの間にかこの土地に広がる芝で青空を見つめている。彼女は息を深く吸い込んだ。

「わかった。お母さん、お姉ちゃん。恵、頑張ってみるね」

恵は知子とまったく同じ感情でそう呟き一滴の涙を流した。

 

愛すると言う事~第三章

 

一九八一年十一月。

この島の南部付近に位置する東海岸の港町から少し丘の方へと移した場所にあるこの児童養護施設では、今日も沢山の子供の声が飛び交っていた。

敷地はとても広く、またこの施設は元々、昭和二十八年に戦災孤児の養育施設としてアメリカ軍の手により創設された敷地らしく、とにかく緑が圧倒的に多かった。

建物のほとんどはとてもシンプルで、かつ白いペンキが一色に塗られており、また、その中にはパプテストな礼拝堂などもあった。

園内の東側に面した四つのホーム。その建物は南側から『夕日荘』『朝日荘』『希望荘』『平和荘』と呼ばれていた。一つのホームにて生活を共にする人数は男女あわせて約二十四人で、その児童らを一人の職員が三交代制で常に管理していた。

今日から兄弟四人はこの施設で世話になることになっている。

本日の入所前にぐるっとと一周、担当のものと共に見学して回った。全ての男子児童は、見学し歩行している四人の兄弟を睨みつけている。四人は当然その事に気付いては、怯える様子で老夫婦にくっ付くようにして歩いていた。

「元気でがんばりなさい。今度会いに来るからね」

このやさしい言葉を最後に、四人へ面会に訪れる者は誰一人として居なかった。

兄弟四人を待ち受けていたのは、男子児童による『牙折り』とも言うべき儀式的な集団暴行。彼らに年齢など関係なかった。皆、初夜に同じ出迎えを受け、そして弱肉強食に泣きながらもこの世界を生きてきたのだ。

“やるか、やられるか”冷めた心は、日中問わず施設内へおそろしく漂っていた。上を取るか下へ落ちるか。力ずくな思考が支配したこの世界は毎日がとても過酷で、その現実から児童の誰もが“よそ者”に対して恐ろしい目を習慣的にさせた。しかし、そんな酷く悲しい世界の中にも人並みの友情と恋愛という物は当然あった。

兄弟四人は、施設内で必然的に絆を深めた。外出が許可された時間内に行く山や川、海などへは必ずと言って良いほど四人は一緒だった。また、彼らにはその人数分の友が居て、何時の間にか八人から十二人ほどのグループが完成していた。

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