小説 愛するということ 3

連載小説
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眺めている内にふと、正樹の瞳から涙が溢れ出してきた。起きた状況を何一つ理解できないまま、整理しようとすればするほどに、涙が溢れ出してきた。

もはや感情がやりきれなくなり、正樹は空を眺めるのをやめて泣き崩れた。その気持ちは連鎖的に兄弟にも届き、終いには全員で激しく寂しく泣いた。

号泣によってまぶたを膨らませたまま、四人は飛行場跡地(米軍の旧軍用地。キャンプフォークナーと呼ばれた飛行場跡地。渚の位置に面した土地である。)へ辿り着いた。もう帰る家は無い。時間は既に日付を越えようとしている。逃走から二時間が経過していた。

皆、半袖のシャツと半ズボンのまま外に飛び出した為、シーズンオフ手前である秋の夜風が五感の落ち着きと共に段々と寒く感じ始めていた。しかも裸足である。

渚に伸びる雑草群の一角に、ゴミが多量に捨てられていた。豊はその中に何か暖の取れるものは無いかと考え、あさってみた。ほとんどは増改築工事で出たであろう産業廃棄物であったため、腐敗臭などは立ち込めていなかった。

黒いゴミ袋から汚い毛布を一枚見つけた。四人はまだ体が小さく、かつ、常日頃から抱き合うようにしながらくっつき寝るという事が習慣的にあった為、とりあえずはこれだけで何とかその場をしのげた。

最初、四人の脳には、まだアドレナリンの過剰な興奮作用により眠気は一切起きていない状態であったが、長いススキをベッド状に倒して寝そべった時、安堵から来た急激な睡魔が彼らを甘く誘惑した。

一体どれくらい眠りについたのだろうか? 彼らが目を覚ます頃には、東の太陽が広く澄んだ青空に揚がっていた。エネルギーからなる煌めきが、エメラルドグリーンの海上で反射しているのを、正樹は上半身を起こした状態で見た。それは、とても眩しかった。

完全に目を覚ました兄弟に、どうにもならない空腹感が襲い掛かってくる。育ち盛りの彼らは、心身共にもはや限界にまで達していた。

兄弟はススキ群から起きると、日用品が多数置いてある商店があるであろう目ぼしい方角へと彼らは歩き始めた。無論、お金など一円たりとも持ち合わせてはいない。しかも四人は裸足で、回りから見ればそれだけでとにかく不自然である。

どれくらい歩いただろうか? しばらくして兄弟は、弁当屋と兼用して日用品を販売している『上間商店』と言う小さな店を見つけた。

店の前にたどり着いた後、豊がある簡単な盗難作戦を計画した。まずは窓越しから中の様子を伺う。そしてその後、次男の学の顔へ向き最初の指示を出した。

「――まず、学はこの中で足が早いから、盗んで逃げる役を合図をしたらやってくれ」

何時もの隊長気取りでしゃべる。学が士気を高めたように深くうなずいた。

「正樹は亮を連れて、向こうのゲートボール場の後ろで隠れてろ。後で迎えに来る」

正樹はオドオドしながら、何度もうなずいた。

豊は正樹たちがゲートボール場へ消えてゆくのを確認した後、細かい作戦の詳細を学へ話した。

「いいか、学。お前は菓子パンのある棚の方で、どのパンにするか選んでる振りをしておいてくれ。そんで、俺だけがレジに行って、あのハゲ親父に“お父さんがいつも吸ってるタバコ……。えっと、何だっけ? あっ、思い出した。あの、『セブンスター』て言うタバコ下さい”って話しかけて、レジの後ろの棚にある煙草の方にハゲ親父向けさせた時、すぐに合図するから、お前は菓子パンを持てるだけ盗って逃げろ」

「うん、わかった。でも、どこに?」

学は困ったように尋ねた。この辺一体は、集落から海側に下りた飛行場跡地近くに出来た全く新しい集落で、全然といって良いほど土地勘が無く、ゲートボール場もこの店自体も歩いている際にたまたま見つけたばかりだった。豊は少しだけ考えた。

「ゲートボール場まで行って正樹へパンを預けた後、今日作った秘密基地まで一人で逃げろ。自分達は後から来る」

ここで学は有無を言わず承知した。“秘密基地”とは言うまでも無く、彼らがしばらく拠点とする寝床の事を意味している。

「いいか、俺とお前は店の中では他人だぞ。じゃないと俺が捕まって終わりになるからな」

豊は釘を打つように話した。学は了解し、深くうなずいた。

まずは学から先に店の中へ入った。言われたとおりに飲み物がぎっしりと収納されている大きな業務用冷蔵庫から好みの炭酸飲料を一缶だけ持ち出した後、目的の棚へ足を運んだ。それから菓子パンをどれにするか迷っている振りをする。豊がそれを確認後、店の中へ入った。

この店は幸いな事にレジ台が入り口付近ではなく、昔の作りで入り口や奥の各棚等が全て確認できる、やや中央寄りの場に設けられていた。菓子パンの入る棚は入ってすぐ右にある。入り口のドアは豊が開けっ放しにしてあった。

この時、客は誰も居なかったのと裸足であることが気がかりだった為、店主は学の行動に注視していたが、豊のタバコ作戦通りにそれをコチラへ逸らす事が出来た。

作戦は上手く行った。豊が煙草の注文をした後に店主が学の方角から完全に背を向けた。その瞬間に豊が素早く合図を送り出した。

学は缶ジュースを脇に挟み三つほど菓子パンを掴んで外へ駆け出した。

店主も振り向くのが早かった。盗難と直に気付くや否や慌ててレジ台から外へ向った。店主はレジを離れるわけには行かなかった為、外で少年が逃げる方向を確認した後、警察へ連絡する為に電話機のあるレジ台へ戻ってきた。もはや豊の注文など後回しと言わんばかりに電話に向って説明に没頭している。それを見計らい豊は足早に外に出ようとした。が、それは豊が思っていたほど簡単な事ではなかった。

「ちょっと待ちなさい!」

店主が豊に叫んで言った。

「君、あの万引きした子、見た事あるかね?」

「ううん、見た事ないよ」

豊は子供らしくそう発した。しかし、店主が豊の表情と姿に不信感を覚えた。平然を装うと言ってもやはりまだ子供。それは誰にでも分かるくらいに、慣れない事をした緊張が豊の顔中にはっきり浮き出ていた。しかも、裸足だった事が状況を窮地へ追い詰めた。

「君、そう言えば近所じゃ見ない顔だね。名前なんていうの?」

店主は明らかに疑いの眼差しで言った。豊は計画とは違う言動に頭を真っ白にしてしまい、何も言葉を返す事が出来ない。

「何処に住んでるのかな?」

店主は受話器をレジ台に置いてから、即座に豊の方へ向って歩いてきた。それを見て察

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