連載小説 この世の果てにおいて(愛するということ2) 2

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滝川寛之の無料連載小説

 

1976.12.29

高台に位置する二階建ての真っ白な一軒家が佳子の住まい。その近郊にある産婦人科で彼女は生を成した。白石家は夫婦が熟年で晩婚。子供は一人だけでいいという計画の元、誕生した命。

出産は叔父の四十九日になるころで、親戚が多く裕福な家庭ながら、祝いはささやかなる光景でひっそりとだったけれども、それでも夫妻は有難く感じた。

当たり前のようにある毎日が感謝の連続なんだと、常々に夫である雅也は妻の恵に呟いていて、それについてもこの人は本当に素敵な人だなと印象を受けてきた。その先で求婚。

結婚式は海沿いのチャペルで済まし、披露宴は隣接してあるリゾートホテルでした。沢山のご祝儀を頂いたが、それは今でも一切使わずに預金に回している。

チャペルでの写真撮影はすぐそこの天然ビーチの白浜。雅也がお姫様抱っこして撮影した。恵は小柄なので何てことない。雅也の力こぶも凄い。

雅也がしている仕事は建築現場の監督さん。この島の職といえば建築業の比率が非常に高いため、それは当たり前のようにして自然なこと。it時代ではない昭和時代。沖縄の経済は復興予算の上で成り立っていた。

「行ってくるよ、今日も遅くなる」

「うん、いってらっしゃい」

建築業の監督さんなだけに、勤め先いわゆる現場は移動の連続で、今回の建築現場はだいぶ離れた街中の大きな分譲マンション。車で通勤だが、約一時間半かかると話していた。残業をする業者もいるので、毎日時間外まで事務所に残らなければならないという。3kといわれる建築業界なだけに毎日心配している。彼はいつも疲れ切って帰ってくるので、夕食の量が少ない。瓶ビールも一本だけで済ませる。交際時よりも少しやせた感じ。筋肉質であることは相変わらず。

今日の愛妻弁当は、うな重盛り合わせ。彼ならきっと喜んでくれるに違いない。本当は肉派なのだけど、ウナギのかば焼きだけは彼も特別視しているから。でもあれよね、私たちは熟年カップルだから、彼ももう少ししたら野菜や魚に寄ってくるのかもしれないわね。建築業のお仕事だからそうなるのかは果たして分からないけれど。

雅也が出た後、彼が残したカップのコーヒーを啜る。だいぶ温くなっているが沸かしコーヒーなので香りと味わいがインスタントのそれとは格段に異なり旨い。豆は道具による挽きたてでこだわりがある。挽かれていない豆を探すのには苦労した。少し遠くのデパートまで行かなければ無い。乗用車は緑のホルクスワーゲン。カエルのようだねと二人して談笑しつつ、縁起がいいからとそいつに決めた。結婚してからの代物。彼は婚前から乗りこなしているマークツーに乗って通勤している。休日は彼とてワーゲンに乗車。

佳子をあやしつつ家事をようやく済ませてから昼食をとる。今日は弁当おかずの余り物だけでいい。余り食欲がないから。ただでさえ小食でスレンダーなボディー。しかしカップは彼の大好きな豊満たるD。雅也さんはそいつを毎晩愛おしそうにしてしゃぶりついてくれる。それがまたたまらなく幸せ。

佳子が小学生へ上がったら恵もパートで働くつもり。とりあえず検討しているのがケーキ屋さんのレジ係当たり。楽そうだから。余ったケーキも持って帰れるし、最高じゃないかしらって思ってる。

昼間のワイドショーがつまらなくていつもうんざりしてるけど、他のチャンネルさえもくだらないのでしょうがなく流している。熟年なので国営放送もよく流すけど、それはそれで夕方くらい。観ながらではなく包丁を叩きながら耳で流す程度。

今夜のおかずは何にしようかしら? それについては毎日のお楽しみみたいなもの。スーパーで価格を確認しつつ練り歩くのが何となく好き。女子だもの、そうでしょう? 日曜に買い物へ付き合う雅也へ言った事があるけれど、彼はそれについていつだって理解できないみたい。男って本当にめんどくさがり屋さんね。思うこと。

佳子がすやっとしているので、恵は少し仮眠をとることにした。それから夢を観る。淡い夢幻。その世界にもやはり雅也がしっかりと存在した。

目を覚ます。佳子がミルク欲しさに泣きだしたから。急いで褐色した乳首を吸わせておっぱいをやる。思えば妊娠から乳首の色に変化があったけれど、それについては後で理由を知った。育児専門の雑誌。出産の前に色々知っておく必要がある、その為の定期購読。

明日は何色だろう? 時々思うこと。でも、それでもきっと毎日が幸せであったらいい。彼が傍に居てわたしがしがみつき佳子がほほ笑む。三人でずっと生きてゆきたい。たとえ他界しようとも。

「わたし、今夜は朝まで抱かれたいの」

独身の頃に呟いたことがある。ラブホテルの一室で。あれは高級感あふれる綺麗な部屋だった。しかし所詮ラブホテルなのでリゾートホテルよりも格安で済む。週末の宿泊料金は八千円。平日ならば六千円。リゾートホテルなら一泊一万二千円はくだらない。

夕食の買い出しは決まって近所のスーパーというわけでもなくて、コーヒーのこともあるから、それを切らしているときに限り、遠出で用を済ませる。しかし面倒だなと感じたことがない。ドライブ気分に浸れるから。育児中は頻繁に外出できないので、そうなってくる。ベビーカーでの散歩も坂道だらけの場所に一軒家だから少々堪えるものがあり楽しめるというよりも萎えるから。それだと公園へ行かなければならなくて、それはそれで時間を食う上に他のことが片付かないのであまり乗り気になれない。一週間に一回の程度。もう少し大きくなって普通に歩けるようになれば頻繁に出かけるつもりだけれど。

今夜は煮込みハンバーグにしよう。ソースもお手製で和風のキノコ入りに決めた。それからスープは味噌汁であさりと豆腐の角切りが良い。サラダはトマトと、そうね、きゅうりのスライスあたりがいいかしら。

やはり買い物は楽しいと思う。女子ならではの思考として。やはりどうしても時間が掛かるから、男子の雅也には理解できない事。

いえいえ、女子や男子というより、私たち夫婦は熟年カップルだから女性男性よね。いや、そうではなくてもうジジババなのかも。学生からしたらね。うふふ、でもそれでもいいじゃない。二人が永遠に愛し合ってゆくのなら。なんてことないわ。

緑のホルクスワーゲンが買い物から帰る中において、その独特な古めかしくレトロなマフラー音が、なんだか佳子にも心地よく感じるみたいで、気持よさげにすやすや寝ている。買い物では背中に背負ってだから少し堪えるけれど、でも全然平気よ。思うこと。

車庫に入るころにはすっかり時刻は夕方五時ころ。雅也が帰るのはいつも遅いだけに、ぜんぜん余裕で夕食の準備ができる。彼が戻るころには冷めてるけれど、近年発明された電子レンジがあるから大丈夫。少々値が張ったけれど、貯金がだいぶあるから何てことなかった。

毎日というのは本当にはかない。重々承知している事。それはつまり昔から。けれど、どうせなら生きてゆきたい。あなたと。その満場の想いがやがて虹となり未来を方向付けてゆくのだろう。本当にそう思う。

 

わたしね、貴方のことが大好きなの。

 

いつしか述べた言葉の呟き。それが彼に伝わり良かった。只それだけの話し。

 

これからどう生きてゆけばいいのかについて、それは当然ながら彼と娘を大事に向かうということ。そう、墓の中まで。そういえば、このごろ墓の話を良くしている。葬儀があったからだろうか、ただ何となく軽く話し合った。

ふとしたことを思い出すのは長丁場の調理中においてはいつものこと。料理し終えるころには何を考えていたのか全て忘れてしまっている。けれども決意などに関しては毎日リピートで再生する。人間とはそんなもの。

 

「ただいま帰ったよ――」

 

時刻はすっかり二十一時を越えた頃合。今日も一日お疲れ様。シャワーから浴びるよ。湯船にお湯を張ってくれないか。ええ、分かってるわ。ゆっくり筋肉をほぐしてから出てね。まあ、切りの良いところで風呂は済ますよ。寝る時間も少しは確保したい。そうね。

「今日のハンバーグも最高に美味いな。本当に俺は幸せ者だ」

「ありがとう、いつも褒めてくれて嬉しい」

「褒めるも何もお世辞抜きなんだからしょうがない」

「うふふ、明日の晩御飯も期待しててね」

「一日の楽しみにしておくよ」

「献立はまだ決めてないけど」

「いつものようにスーパーで決めるというやつか」

「そう、そのほうが買い物が楽しいから」

「それがいつも理解できない。俺なら行く前に決めてメモしてからだ」

「独身の時はそうだったのでしょう?」

「うむ、まあそんなところかな」

「男の人って買い物となると現場で頭が真っ白になるって本当?」

「確かにそれは言えてるかもしれない。メモしていかないと忘れ物がひどい」

「うふふ」

今夜のメイクラブは道具を使用する。少しだけいつもと異なるプレイ。しかし普段はノーマルと決め込んでいる。それでも満足だから。死ぬほど愛し合う者同士というのは少しの快楽だけで絶頂を極めるもの。それについて不思議だけどお互いに分かっている。性的な道具は一つだけしか持ち合わせていない。しかも手作り。

 

「わたしはあなたと佳子さえいれば何もいらないわ」

 

ときどき呟く言葉。彼はいつも救われたような表情を浮かべて優しくキスをしてくれる。素晴らしい日々。

 

雅也さんが出世することになって本社ビルで務めることになった時は、一安心というのが正直な所。だってそうでしょう? 危険が付きまとう現場にくらべて最高な職場環境なんですものね。思うこと。

今夜もたっぷり時間をかけて美味しい夕ご飯を支度しなくっちゃ。毎日考えていることと言えばそれ。昨日はすき焼き鍋だったから、今夜は刺身定食がいいかもしれないわね。こってりの後はやっぱりさっぱり系でしょう? 冷ややっこも添えてね。うふふ、やっぱり買い物って楽しすぎるわ。

雅也は必ず朝食も家で済ませてから仕事に出る。早く食べれるものがいいと常々言っているものだから、朝食は決まって納豆定食、もしくは紅鮭定食にしている。彼は飽きが来ないからこのルーティンで別に構わないよと言ってくれている。恵としても楽に支度できるのでありがたい。

「行ってくるよ」

「今日もいつも頃に帰宅かしら?」

「飲み屋への誘いはいつも断ってるから」

「そうだったわね、行ってらっしゃい」

「うむ」

今日は花の金曜日なのに飲み屋へ行かないなんて何て家庭のことを思って大切にされているのかしら。飲み屋へ行かれると色物系で色々不安がよぎるから、直帰してくれる彼のことが、ますます愛の気持ちで抑えられない。感謝しきり。本当に私のことを愛してくれてるのね、わたしもあなただけのことが大好きよ。永遠に。

 

「ただいまぁ」

 

おかえりなさい。今夜はまずビールにしない? 今夜の瓶ビールは凄くキンキンに冷えてるの。美味しいはずだわ。ほら、今、夏でしょう? だから。

「今夜は夏ガツオの刺身も用意しておいたの」

「それ、いいね」

「うん、それからわさびは粉ではなくて本生の奴にしたの。珍しくわさびの野菜そのものが売ってたから。少し高かったけれど構わないわ」

「嬉しいこと言うね」

「毎日お疲れ様」

「頑張ってるかいがあるってものだよ、ありがとう」

次の日曜に水族館があるパークへ行くけど、目的はいつもイルカのショー。ここへは半年に一回程度なので全然見飽きることが無い頃合。そのあとに必ず向かうのは近くのカフェテラスでソフトクリームと決まっている。もしくはフルーツサンデーのやつ。施設内なので少々高額だが、全く問題視していない。

「やっぱり安定してうまいな、これ」

「うふふ、そうね」

「佳子には上げないのか?」

「下痢しちゃうはずだし駄目よ」

「そうだな、まだ離乳食だもんな」

「ええ。それに牛製品で冷たいから尚更だわ」

「うむ。まあ、保育園あたりから?」

「そうね」

「それまでお預けだな、佳子。ほら笑って! ふふ、いつ見ても可愛い子だ」

「やっぱり、あなたにそっくりよね」

「うーん、二人を足して二で割ったような感じだけど?」

「いいとこどり?」

「そうだな。佳子は相当美人になって、男で苦労するかもしれないな」

「それは心配だわ」

「そのために聡く育てなきゃならん」

「ええ」

「まだだいぶ先の話だが、大学へは必ず出すつもりでいるよ」

「そんな先のことまで考えてるの?」

「キリスト系がいいのではないのかなとかいろいろとな。ほら、看護婦とか」

「沖縄キリスト短期大学?」

「うん、まあそんなところだ」

「佳子は女の子だし、それはそれでいいのかもしれないわね」

「ああ」

敷地内の高台から西海岸が望める。昼過ぎの刻において海面は只々光を反射し、そのちらつき加減と海の青さとがとても美しくて。気が付けば、パークから帰宅する頃には夕刻。今週は始まっているけれど、明けにこうして喜べたのは良かったと思う。まだ短い結婚生活において、この先の未来が楽しみでならないことは、たまらなく順調である証でもある。

ありきたりの毎日とは何だろうか?

そこにも愛があるということ。夫妻は今夜も家族愛の中において、ゆっくりと就寝する事に感謝しつつ、熱くて甘いメイクラブを踊った。

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