連載小説 愛するということ 28

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言って智彦はウィンクをして見せた。健二と智彦は同じ荘。二人は煙草をくわえて火をつけた。初めて吸う煙に目眩を覚えながらも、二人は笑顔を見せた。

あれから再び歩き続けた後、二人はようやく一つの目的地へ着いた。智彦の生まれた場所だ。辺りは大分暗くなっている。智彦の腕時計の針は二十時を越えた辺りを指していた。表情は疲れと脂汚れとで大分扱けた様になっている。

畑道の様な砂利道の入り口辺りから街灯は完全に途絶え始めている。目先はとても暗く、二人の目がその暗闇に慣れるまでには少し時間が掛かった。私道となるこの一本道のずっと先に、黄緑色に光る小さな蛍光色が無数に見えてきた。蛍の群れだ。小さく燈された曲線を描き交差させる沢山の光によって、真っ暗闇はこの場からなんとか免れた。何処にあるかは定かではないが、かすかに川の音がこちらまで伝わって来ている。

明るく、しかしどこか寂しさを感じる蛍の群の出迎えを受けながら、二人はもっと奥へ私道を進んだ。その時、大分慣れた目が、ぽつんとある一つの廃墟らしき建物を見つけた。

門の前へ辿り着いた時、二人はその場に立ち竦み、少しばかり口を閉ざしたまま目の前にある光のない廃墟を眺めた。

「ここが俺の生まれた家だよ」

智彦が言った。

「誰も居ないみたいだけど、どっか出かけてまだ帰ってきてないのか?」

明らかに廃墟だと心の何処かで気付きながらも、しかしそれでも此処に生活の温もりが感じられない事に対して信じられないと言わんばかりに正樹は訊いた。

「正樹、御免。実は言うとな、俺、分かってたんだ」

「え? 分かってたって、どう言う事だよ?」

正樹は訊いた。

智彦は俯き答えようとしない。正樹はその心境から察した。

「まだ分からないだろ? もう少し待ってれば誰か帰ってくるさ。そんな、いきなりすぐあきらめるなよ。大丈夫だって」

言って、正樹は智彦の肩に手をやった。

「違うんだ。聞いてくれ」

とっさに智彦が首を横に振りながら言った。智彦は続けた。

「帰ってきたのは俺だけで、他にはもう誰も帰ってこない。分かってたんだよ、誰も居ないって。でも、もしかしたら生きていると思ってた。でも、やっぱり死んでるんだな」

正樹はこの時初めて彼の両親もこの世に居ない事を知った。智彦からそんな話を今まで聞いていなかった。正樹は驚きの表情を浮かべた。

「最近な、見たんだ。もう一つの世界。ほら、光の話しをお前がしてただろ? あれに近い夢みたいな変な現象」

智彦は意味深げに言った。

「智彦、お前も光を見たのか? ちょっと待て、もう一つの世界って……もしかして」

言って、正樹は恵の言葉を思い出した。

“「ねえ、正樹。来世とか、あと、何て言えばいいんだろう。もう一つある光の世界、そお言うのって信じる?」“彼女は確かにそう言っていた。

――まさか本当に、あの光にはそんな物まで隠されているのか?

智彦は正樹の呟きに構わず話を続けた。

「それでな、俺、もしかしたらここにある世界は夢で、もう一つが現実なんじゃないかって思ったんだ。だから、俺の親が死んだのも全部夢の世界の話で、本当は生きてると思ったんだ……」

正樹はたまらず訊いた。

「お前の見たもう一つの世界では、生きていたのか?」

「分からない。でも俺の運命は、此処とは間違いなく違う物だったよ。だから多分、俺のお父さんとお母さんも違ってたと思う。いや、違ってなきゃおかしいんだ」

智彦はここで再び俯いた。そして一つ涙をこぼした後、天を仰いだ。

「俺が正樹と始めてあった時あるだろ? 俺が入園した時。あの日のちょっと前にな、俺のお父さんとお母さん事故で死んだんだ。ここに来ればもう一つの世界に戻れると思った。夢から覚めると思ったんだ。やっぱりあれは夢だったんだって」

智彦はそれ以上言葉を発する事が出来ず、この上ないほどに顔をくしゃくしゃにして崩れる様に泣いた。正樹はたまらず彼を慰めるように強く抱き締めた。

「正樹。実は言うとな、もう一つだけお前に話してない事があるんだ」

ようやく少しばかり感情を抑えた智彦が、再び正樹から離れて話し始めた。

「実はな、今居る俺はこの場所に居てここに居ない。今日の昼、迎えが来たみたいなんだ。ちょっとした手違いで転げ落ちて……。恨んでもしょうがないな。とにかく、裕美と会う前から俺はこの世に本当は居ない。意味、分かるだろ?」

最初、智彦が何を言いたいのか正樹にはさっぱり分からなかった。

――裕美と会う前にこの世に居ない?

あっ――!

正樹は、耳障りに遠くから煩く聞えたあの救急車の存在を思い出した。

そんな、まさか――?

しかし、智彦の口調には真実味があった。嫌でも察するしかなかった。

正樹はここで彼の話す内容がようやく理解できた。あの階段で転げ落ち倒れたのは智彦だった。彼はその時、自身の物体が二つに分かれた。つまり、正樹がたった今抱き締めた智彦は霊体であり、もう一つの現実にある物体はここではなく病院にあるのだ。

「どうしても今日見ておきたかったんだ。お前と一緒にここに来たかった。何時だって俺達は一緒……だろ?」

「ああ、当たり前だろ」

言って、正樹はまた智彦を抱きしめた。正樹の目からも涙が溢れ出してきた。今抱き締めている智彦は、もはやこの世の者ではない。それを辛く悲しくも正樹は悟っていた。智彦はとにかく正樹と共に何時までも生きて居たかった。二人は互いに友情をいつも感じていた。この先他では出会う事が恐らく無いであろう、本当で一番の親友。

それなのに、神は逃がす事無く試練を与え続ける。一体、これに何の意味があるというのだろうか? 何故に悲しみの答えばかりを神は与え続けるのか?

これまでの悲しみとこれから襲い来る運命に、もはや二人は涙を抑える事が出来なくなっていた。

「智彦。大丈夫……俺はお前を絶対に忘れない。だから何時までも一緒だ」

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