連載小説 愛するということ 52

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会は、とても別世界に見えた。

東京、羽田空港には、これから世話になる社長の奥さんが迎えに来ていた。正樹は紹介してくれた長男のおじさんとその空港に着いた。

「健一さん、こっち、こっち!」

「ああ、こっちか」

二人は到着ロビーで、手を振る女性の元へと歩き直した。

「健一さん、御久しぶりです。元気でしたか?」

「うん、相変わらずね。佐代子さんも元気そうで良かった。ところで、良治の奴は?」

「今日もゴルフとかで、朝早くから出て行きましたよ。もう、こんな時に。ごめんなさい」

「いや、別に良いんだ。社長は色々付き合いが多いからね。それはそれで大変なんだよ」

「本当にごめんなさいね。お兄さんがせっかく来てるのに……。この子が正樹君ですか?」

「うん。正樹君、僕の弟の嫁さんだ。佐代子さんって言う人だよ」

「上間正樹です。よろしくお願いします」

正樹は旧姓の松田ではなく新姓で言った。

「あら、礼儀正しい子ね。金田佐代子よ、これからよろしくね」

「これから分からない事とか相談事とかあれば、彼女に話すと良い」

「はい」

「それじゃ、行きましょうか」

三人はモノレールから浜松町へ向かい、そこから山手線で池袋へと向かった。そして池袋を降りてから、今度は東武東上線を北上し、下赤塚でやっと外の空気を吸った。駅を出てから、途中、コンビニで今夜用の弁当とペットボトルで飲料水を購入してもらい、そこから更に数百メートル歩いた所に、木造三階建ての小さな会社はあった。一階の右半分が事務所で、左半分には寮で生活する人の為の小さな食堂や風呂場がある。二階三階にある幾つかの寮部屋の内、正樹は二階の西面角部屋を渡された。

「此処が今日からあなたが生活するお部屋よ。綺麗に使ってね」

「はい、ありがとうございます」

「それと、今日は日曜で誰も居ないから、自己紹介とかは明日の朝しましょうね」

「はい」

「それじゃ、僕はこれから佐代子さんと弟の家の方へ行くけど、後は一人で大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございました」

「いいんだよ。あ、それと、落ち着いたら必ず良晴おじさんに電話する様に。分かったね?」

「はい」

「うん。それじゃ、これから頑張ってな。体には気をつけろよ。じゃな」

健一は正樹に勇気を分け与えるように力強く言った。

「それじゃ、また明日ね。正樹君。あ、そうそう、明日の朝、八時には此処に呼びに来るわ。それまでお部屋で待っててね」

「はい」

仕事を紹介し、ここまで連れて来てくれた健一との別れは、意外にもあっけなかった。正樹の周りが急に言葉の無い静けさに包まれ、彼は段々と寂しさを心から感じるようになった。窓の外に見えるのは無機質な隣の建物の壁だけで、それを見ているだけで此処がとても窮屈に、そして暗く感じる。知らぬ場所でのこれからの一人とは、こんなにも孤独が漂っているのか。正樹はこの時、初めてそれを知った。

この都会で初夜となる昨夜、正樹は色々な思いと緊張から一睡も出来なかった。もう朝か――。全身が行動を拒むようにとても重かった。正樹は置かれてあった小汚いテレビを点けて朝のニュース番組を只ぼんやりと眺めた。少しばかりして部屋のドアが鳴った。

「正樹君、正樹君、起きてる?」

ドアをノックした佐代子が言った。

「はい」

正樹は慌ててドアを開けた。佐代子が笑顔で立っている。

「おはよう、昨日は良く眠れた?」

「あ、はい……」

正樹は気を遣って嘘をついた。

「朝ご飯出来てるから、下におりてご飯食べてね。それと、昨日言うの忘れてたけど、平日の夜は下で食事が用意されてるから、これから仕事が終わって帰ってきたら食べて。あと、今日は特別に朝食もあるけど、何時もは無いから気をつけてね」

「あ、はい」

「食事が終わったら、八時ちょっと過ぎまでそのまま下で待ってて。呼びに来るから。事務所で自己紹介しましょうね」

言って、佐代子はドアを閉めた。正樹は佐代子が一階に下りるのを階段のきしむ音で確認してから下におりた。食卓にはご飯が用意されている。正樹は椅子に腰掛けて、まだ慣れぬ周囲に目を配りながら、少し早く朝食を平らげた。壁に掛けられている時計の針は、七時四十五分辺りを指している。隣の事務所とコチラを結ぶ内ドアから佐代子が再び現れた。

「あら、もう食べたの? 早いわね。もう少しゆっくり食べればいいのに」

「あ、はい……」

「緊張してるのね。大丈夫。うちの会社、みんな明るくて良い人ばかりだから、すぐ慣れるはずよ。もうじき社長が来るわ。ここで待ってて」

言われて、正樹は食卓で一人待つことになった。五十分を過ぎた辺りから、二人の男の声が壁越しに聞えてきた。どうやら社員が出勤してきたらしい。正樹は更に緊張してきた。社長が来たのは八時をちょっと過ぎた辺り。

「おはよう、君が正樹君か」

先ほど佐代子が現れた内ドアから、背が高くがっしりとした男が出てきた。

「お、おはようございます」

正樹は少しどもった。

「うん、いい顔してるね。僕が健一の弟で社長の金田良治だよ。よろしく。君の事は兄貴から聞いてる。さあ、早速みんなに紹介しよう。こっち来て」

社長の良治は事務所側へと手招きした。正樹は事務所に入った。二人ほどの社員が各自のデスクで仕事をしているのが見えた。

「おい、二人とも、ちょっと仕事止めて、立ってくれる?」

良治の声に、二人の社員が仕事の手を休めて立ち上がり、こちらを見た。

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