連載小説 愛するということ 24

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『ああ、わがはらわたよ、わがはらわたよ、わたしは苦しみにもだえる。

ああ、わが心臓の壁よ、わたしの心臓は、はげしく鼓動する。

わたしは沈黙を守ることができない、ラッパの声と、戦いの叫びを聞くからである。

破壊に次ぐに破壊があり、全地は荒らされ、わたしの天幕はにわかに破られ、わたしの幕はたちまちに破られた。

いつまでわたしは旗を見、またラッパの声を聞かなければならないのか。

わたしの民は愚かであって、わたしを知らない。

彼らは愚惨な子どもらで、悟ることがない。

彼らは悪を行うのにさといけれども、善を行うことを知らない』

 

あの日から一週間も経たぬ内に、懸念されていた出来事が『沈黙』を破り、聖書のお告げとおりに『その音を、心臓をはげしく鼓動させて聞く』ことになった。

「正樹、ちょっといいか?」

正樹にとって一番の親友である智彦が、施設内からの外出が許可された日曜の昼すぎに園外散歩へと誘いに来た。正樹はこの日の昼食後、恵と再度二人きりで会う予定だったが、智彦がどうしてもと言う事で今回は彼に付き合うことにした。二人はこの施設から港がある方向へと歩いた。

「なんだよ、話って。裕美の事で相談でもあるのか?」

この道ならば決まって立ち寄る場所に着いたとき、正樹は訊いた。智彦には裕美という恋人が居た。彼女は正樹と智彦の二人と同じ様に、恵にとって一番の親友。恵と正樹が交際を始めた当初、お互いの友達として何度か顔を合わせていた。智彦と裕美の深い関係はそこから自然に始まった。

「いや、違う。恵とお前の事でなんだけど……、健二の奴が何か企んでるらしい」

彼ら二人から見て一つ先輩である中田健二というこの人物は、ほとんどの児童が中学卒業と同時に卒園していくこの施設の中で、片指ほどしか残らない高校生の一人だった。

彼は高校入学よりいきなり園外に居るタチの悪い不良グループとつるんではそれを園内外問わず利用し幅を利かせていた。

元々本当の仲間に恵まれなかった健二は、前々から正樹と智彦を何故か嫉んでいた。二人は施設内の男子児童らに人気があり、その為、彼らにとっては全てが友達。勿論、その中には健二も入っていた。

健二は中学を入ってから直、姉と共にこの島より遠い小さな島へ『里親』に出た事があった。彼は高校受験の際、本島にある高校を希望した。そして特別な推薦で入学しこの施設へと戻った。姉の方はそのまま島から本土へと就職したとの事だったが、しかし、それが本当か嘘かは園児の誰にも分からなかった。

彼の性格は、年上や同年などには関係なく、昔から誰に対しても陰気で大人しくあまり笑みを見せる事が無かった。その為か、いつでも健二は仲間と居る時ですら心はとても孤独だった。

健二はグループのリーダー的存在の人物がとても羨ましかった憎く見えていた。“全てを破壊し我が物としたい。”いつしか彼は悪に心を売りつけた。

欲求を満たすべく計画は、誰にも知られる事無く確実に着々と進んでいた。『報復』を武器とすべく強い仲間を探しては気に入られようと、彼は何もかも行った。その武器が目に見えるものとなった時、今度は標的を弱らせるべく、彼は周囲から密かに攻め入った。正樹と智彦の周りに居た友は何時の間にか健二を中心に動いていた。

健二は嘘を付くのも上手かった。二人の友を囲った後に行う心理作戦にて片っ端から此方へ友達らを寝返らせていた。恵が後に言った。

「この出来事も、まるで聖書のお告げの様。ほら、見て――」

エレミヤ書第四章十九節からある言葉は、正にこの時起こった出来事を予言していたように、全てがぴたりと一致していた。

 

『ああ、わがはらわたよ――

『――破壊に次ぐに破壊があり、全地は荒らされ、わたしの天幕はにわかに破られ、わたしの幕はたちまちに破られた。』

 

健二の奴が何か企んでるらしい――。それは正樹も前々から気が付いては居た。

「最近、学と健一や博史まで、なんか様子が変だろ? それもこの事に関係してるんじゃないか?」

「そうだな……」

正樹はため息をこぼすように一呼吸入れた後、この場所から見える沈んだテトラボットの揺らぎを眺めた。今二人は消波ブロック群の一角に座り込んでいる。

「もしかしたら『征服』とか言う馬鹿らしい事なのかもな」

「あいつ根暗だしな。言えてる」

納得した智彦が少し笑った。

「どうする?」

「なるようになるさ。別に俺達が悪い考えしてるわけじゃないし」

「そうだな。好き勝手に悪どく天下気取ろうが何だろうが、俺達には関係ないしな」

「学とか健一とか博史も、好きで向こうと仲良くしてるんだろ?」

「ああ、馬鹿みたいに隊長殿! て兵隊ごっこ楽しんでるみたいだよ」

「結局、相棒はお互い一人だけだな」

「ああ、そうだな。でも、今まであった友達って何だったんだろうな? なんか健二より、あいつらに腹立ってきた」

「まあ、これで本当の親友は一体誰なのかよく分かったし。それが、まさか智彦とはな」

正樹は冗談ぽくそう言って、この場にある嫌な空気を一気に吹き飛ばした。二人はこの上なく大声で笑った。しかし、実はこの時、正樹は恵の話を心の中で思い出していた。

 

『見よ、主はこの地をむなしくし、これを荒れすたせ、これをくつがえして、その民を散らさられる。すべての喜びは暗くなり、地の楽しみは追いやられた――』

 

この日の朝の礼拝で読まれた『イザヤ書第二十四章』にあるこのお告げが、彼女はとても怖いと言っていた。そしてまた、恵はこう付け加えた。

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連載小説 愛するということ 23

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正樹は恵の体調が心配になり、彼女の額にそっと優しく手をやった。

「少し熱があるかも……。でもこれ位ならお前の言う通り大丈夫。夢なんか気にすんなよ」

「本当は違うの……。多分、あれは夢じゃない……」

恵はそういった後、正樹の前で瞳を閉じた。正樹は直感として彼女がキスを求めている事に気付き、今度は自身の口を恵の柔らかい唇に密着させた。恵は今、絶対に離れまいと正樹の背中へと腕を回し、踵を少しだけ上げて背伸びをしている。二人は口を開いて舌を何度も絡めあった。その熱いキスは長く続く。正樹は彼女の両肩に乗せていた手を腰の方へと移し、片方を彼女の胸へ男の本能的に手繰らせた。

「いいよ。正樹が初めての人であって欲しいから……。抱いて欲しい。これから私たち、また色んな事があって、もう会えなくなるかもしれない……。感じるの……。すぐ其処まで来てる。嫌よ……。離れたくない」

急に唇を離した恵が涙目でそう発した後、今度は彼女から彼の唇へと再び色濃いキスは官能的に交わされた。最後に二人は生まれて初めて不慣れながらも裸で抱き合った。それはとても温もりのある愛し合い。

 

愛すると言う事~第四章

 

『見よ、主はこの地をむなしくし、これを荒れすたせ、これをくつがえして、その民を散らさられる。

地は全くむなしくされ、全くかすめられる。

地は悲しみ、衰え、世はしおれ、衰え、天も地と共にしおれはてる。

地はその住む民の下に汚された。

これは彼らが律法にそむき、定めを犯し、とこしえの契約を破ったからだ。

それゆえ、のろいは地をのみつくし、そこに住む者はその罪に苦しみ、また地の民は焼かれて、わずかの者が残される。

新しいぶどう酒は悲しみ、ぶどうはしおれ、心の楽しい者もみな嘆く。

鼓の音は静まり、喜ぶ者の騒ぎはやみ、琴の音もまた静まった。

彼らはもはや歌をうたって酒を飲まず、濃き酒はこれを飲む者に苦くなる。

すべての喜びは暗くなり、地の楽しみは追いやられた――』

 

牧師として教壇に立つ園長が、聖書にある言葉をマイクに向かって読んでいる。恵は『イザヤ書 第二十四章』となるページを開き、その言葉に赤い線をなぞった。

これから起こる災いも、やっぱり神の仕業なんだわ……。“隠された答えの意味が分かるまで――”お姉ちゃん、本当に自分は答えをだせるの?

この週明けとなる日曜も正樹と恵は他人の目を意識する事無く朝から一緒に居た。しかし、やはり瞬く間に広がる過剰なる交際の噂には神経をやり、目のある場所では親しい友人のように振舞った。この狭い世界での噂は、される側を更に窮屈とし、やがては“過剰”となりて“イジメ”へと変貌し、最後には“孤独”を長期的な罰として与えられた児童を、特に正樹はこれまで何人も見てきた。それ故に、当初、彼は神経質だった。しかし、遠くから自分の名前を呼ぶ恵から発せられた声と、全てが認める可愛さが、正樹の我慢を何時も緩く解放した。

二人は礼拝堂から出た後、体育館側から階段を下りた場所に位置する、テニスコート奥のベンチへ腰掛けた。空色は今日も大分明るく見えた。

「ねえ、正樹。来世とか、あと、何て言えばいいんだろう……。もう一つある光の世界、そお言うのって信じる?」

正樹は無意識的に「うん」と答えた。

「聖書にね、こんな言葉があるの。『わたしは光をつくり、また暗きを創造し、繁栄をつくり、またわざわいを創造する――』多分、きっといつか、光と繁栄は来ると思う」

恵は口を閉ざした後、鼻から少し息をこぼしてから明るい空を見上げた。

「また一緒になれてるといいな。もう一つの世界で。向こうでは絶対こんな場所で出会ってないと思う……多分、もっと二人の場所が、とっても広くて暖かい所――」

正樹は恵の信仰かつ神秘的な事が混ざった話にうんざりとしながらも、真似るようにして上空を見上げてから「ああ、そうだな」と言った。

「そういえば、まだ話してなかったね。光の話――」

恵はまだ一体化したあの日の出来事を話していなかった。彼女はゆっくりと丁寧に正樹へ話した。

「それじゃ、お前は、恵であって恵じゃないって事なのか?」

「そう言われればそうかもしれない。だって自分でも意識が飛びそうな感じで話してる時がある……。ほら、今とか時々そんな感じになってるし……。行動する時とか、何かがそうさせている事もある」

正樹は思い出した。確かに恵が誰か別の女性と重なって見える瞬間があると。しかし彼はそれに関して自身の思い過ごしだとばかり考えていた。光の世界? 弟が逝った時、何度か見えたあの現象の事だろうか? 恵の体験した話では、あれとは到底比べ物にならないほどに『光の世界』は大きく計り知れない。それならばあの断片的に見えた幻は一体何を意味していたのだろう? 恵と同じく、弟は何かを見せる為に、いや、知らせる為に、今は思い出せないほどに一瞬であった映像を見せたと言うのか?

あ――! 彼の記憶から一つの映像が鮮明に蘇った。テニスコート側の木陰にあるベンチに座り込み語り合う二人の姿を遠くから広角に捉えた光の世界。まさにこの時の二人の姿だ。

「わからない。でも、お前の言う『光』の話は信じるよ」

「ありがとう」

会話が途絶え、辺りから雑音が聞こえるほど静まった。二人はテニスコートにある緩んだワイヤーから爛れた様子で見えるネットへ同時に目を移した。恵と正樹は境界線を引いてある世界を、光は交互に飛び越し『結末』へ進む気が何となくした。

「恵は正樹のこと、ずっと好きだよ」

恵が正樹の方へ状態を向けた。

「正樹、目を閉じて」

恵は正樹が目を閉じたのを確認した後、同じく目を閉じ、祈りを唱えた。

『どうか、わたしたちに良い事が見られるように。主よ、どうか、み顔の光をわたしたちの上に照らされるように――アァメン』

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連載小説 愛するということ 22

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「こんばんは。何してるの?」

正樹が徒歩よりも大分速いスピードで目的の場所へと到着した時、勉強部屋の窓から外に居る彼に気付いた恵が、始めて会話をしたあの日の様に、逆とも言うべき先に声をかけてきた。恵はもしかしたら前々からこの時が来ることを、毎晩の様に外を眺めては次なる運命として待って居たのかもしれない。正樹は大分後になってそう思った。それほどに、彼女の発見は不思議にとても早かった。

「いや、ちょっとな……。智彦に渡す物があって……。これから戻るところ」

恵と同荘に居る親友の名前を借りて正樹は言った。

「へえ、そうなんだ。あっ! それ、面白そう。ローラースケート? 今度おしえて」

正樹の両足に装着された、ブレーキ部分が大分磨り減り効力を発揮しないローラースケートは、昔からとても親交のある米軍ボランティア団体より施設へプレゼントとして贈られた遊具の一つであった。

「あのさ、序でに話があるんだけど……。少しだけいいかな?」

少し間を空けて正樹は言った。

「なに? またあの話しじゃないよね?」

既に聞き飽きた様にうんざりとした口調で恵はそう返した。恵の言うあの話とは、正樹が彼女に良く言う冗談の事。しかし、それは違う様子だと、彼の真剣な眼差しを見て彼女は後から察した。

「ちょっと耳かせてくれないかな?」

正樹は恵の耳元に唇を近づけた。そして自身の想いを告白しようと非常に小さな声で話しを始めた。が、しかし、どうしても口篭ってしまう。

「なによ、もう。ちゃんと言って」

苛立つ様に恵は言った。

正樹は胸の内にある言葉をとても口に出す事が出来なかった。そこで、窓際にある彼女の机の上にあったノートと鉛筆へ外から手を伸ばし、それを使って全てを告白する事にした。

『――出逢った時から恵の事が好きだ。もし、恵が俺と同じ気持ちならイエス。違うならノーで答えて欲しい』

正樹が書いた字はとても震えている様に見えたが、恵には彼の気持ちがとても理解できた様子。正樹の顔は大分恥ずかしそうにしていたが、それは恵も同じ。

「とりあえず、俺、これから向こうに上がるから、聞こえるように答えて欲しい。それじゃ、待ってる」

恵が正樹に返事しようと口を開こうとした瞬間、正樹は急に、“もしかすれば、弾かれてしまうかも知れない”と言う緊張からその場に居る事に対してとても耐えられなくなり、事務所がある建物へ通ずる階段の方へ直に移動した。彼女から来た返事はとても早かったが、彼からすればとても気の遠くなる位に長く感じた。彼女から来た返事は周囲に聞こえる位にとても大きく喜びある声で「YES!」だった。二人の交際関係は、この夜から始まりを迎えた。

正樹と恵は、施設内で過剰に広がる噂を避けるべく、会う時は人目を避けた場所で寄り添った。お互いのファーストキスは、礼拝堂の外階段から上った場所にある少し広がった場所で交わされた。この建物は荘から見て一つ丘とも言うべき場所にあり、東海岸一帯に広がる街並みを眺望できた。夜ともなれば夜景がとても美しく、二人は限られた夜の一時を、誰も居ないこの場所で共にする事が多かった。

「恵! 恵! 恵は何処行った?」

彼女の居る荘を担当する職員の大きな声が、すぐ下に見えるホームの女子フロア辺りから聞こえてきた。時計など持ち合わせていない二人は、どうやらこの夜も限られた時間を少しばかりオーバーしてしまったようだ。慌てて戻る恵を見送った後、非常に限られた自由なる場所と叩きつける様に襲う強制なる規律正しさを心から恨んだ。

外は、どれだけ自由で幸せなのだろう?

全てにおいて足りないこの世界に最後まで耐えられる子供などまず存在しない。毎週日曜に集団で聞かされる牧師からのキリストの教えなど、酷い体験をしてきた児童らにとっては耳が痒くなるだけ。

この頃、正樹はまだキリスト教の存在価値をとても理解できなかった。長い朝の礼拝は大事な時間を無駄にするだけで、正樹はこの時も恵と二人だけで使いたかった。それほどに、一日の内二人きりになれる時間というものがこの世界ではとても少なすぎた。しかし、この一時の短さが二人の愛へ対する想いというものを大きくさせて行った。

恵と正樹の特別な関係から発生した体験は、初めてだらけ。手を繋いだり、抱き締めあったり、寄り添い語り合ったり、その一つ一つの初々しい出来事をとても大切に、生涯記憶の中へと深く刻んだ。

恵が中学二年となってから、彼女にのみ感じる何か特別なオーラの様な物は更にとても美しく成長していた。恵の噂はこの頃から密かに正樹より年上の男子からも聞こえてきた。それほど可愛く声までもが美しく誰の目にも見えた。明るい性格だけが取柄だった正樹は、とても不釣合いな恵との交際関係に関して、何時の間にか周囲に嫉まれ羨まれた。また、彼自身も、どんどん素晴らしく完成して行くこの目の前に居る女性は、コチラとはとても不似合いで、とにかく彼女は全く違う世界の存在なのではないか? と感じていた。しかし彼女自身はと言うと、確かに周囲では裕福であったプライドや気の強い性格を多少なりとあえてちらつかせ、近づく男子を払う様に遠ざけていたが、正樹の前ではごく一般の女子と同じに、また、誰にも見せない可愛さのある性格を何時も微笑みながらしていた。口に出しては言わなかったが、正樹はそれがとても嬉しかった。

性的な初体験は正樹が中学三年になった頃、夜景がみえるあの場所で。その日の夜の恵はとにかく、まるでもう一つの秘めた存在がこちらへと語っているかの様に正樹は感じていた。

「正樹、あのね……。昨日怖い夢を見たの。とても恐ろしい夢……」

「ああ、それなら俺も見たよ。そっちに負けないくらい凄い夢をな」

「正樹……。お願い、まじめに聞いて」

この言葉を恵が真剣に発した時、一瞬だが彼女の顔が見たこともない女性の顔とぶれる様にしながら見えた。正樹は驚いた表情を露にした。

「これから……。何故か分からないけど、私……。色んな人に犯されちゃうの。でも違う、誤解しないで! 正樹のせいじゃないから。大丈夫……。私、頑張るから」

「何訳の分からない事言ってんだよ。今日のお前、少し変だぞ……。どうしたんだ?」

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連載小説 愛するということ 21

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金銭に乏しいグループは、当然の様に町外れた自然等が絶好の遊び場。その事実は彼ら男子のみならず、女子もまた同じ様な物。この施設に外と同じ様な時間など存在しない。それはこの子供らにとって、将来とても致命的。しかし、彼らには選択の余地など無い。敷かれた運命のレールは、もう既にこの時点で大きな幸せからは大分かけ離れた地へと向かっていた。

正樹が初恋を知った年。兄弟四人はそれぞれ別の新しい人生へ向かい始めていた。

長男の豊は中学を卒業後、愛知県へ旅立った。卒業を控えている次男も卒業後は本土へ就職する事を決めていた。

実は四男だけ急性的な病気で既に亡くなっていた。非常に重度な症状における闘病生活の末での出来事。三男の正樹より一つ年下だった亮が灰と化し消えた一九八六年の秋。小学五年になっていた正樹に奇妙な出来事が起きた。

亮が亡くなってから約一週間ほどだろうか? 彼は断片的でいて、かつ、不規則な光を何度も見た。それは幻を思わせるほどに一瞬の出来事で、彼自身それが現実に放たれた映像なのだと言う事に関して気付きもしなかった。そういえば弟は、見舞いに訪れた三人の兄へ理解の出来ない話を懸命に教えようとしていた。しかし、幼い彼らには難しかったのか、結局何一つ伝わらぬまま、弟は逝ってしまった。

正樹が初恋した相手は、この施設内に居た。その相手は体育館で見かけた一歳年下の少女だった。名前は”うえむら めぐみ。”そう、全てを消失し、自身へ魂が宿されたあの恵だ。

知子の魂がそうさせたのか、恵は身体のみならず知性も正樹同等で、同級生と比べると大分成長している様に思えた。その為か、学年の差などから発生する子供じみた抵抗的とも言える感情など二人にとっては最初から完全と無に等しかった。先に一目ぼれ惚れしたのは間違いなく正樹だと思われたが、しかし、最初に声を掛けてきたのは恵の方。

恵が入園して二ヶ月ほど経過した頃の日曜日。彼女の身長は高かった為か、入園後すぐに施設対抗女子バレー代表の一人としてメンバー招集されおり、この日も館内でバレー練習に励んでいた。一方の正樹は隣接するグラウンドで野球練習を行っていた。

センターバックが完了し、ベンチで解散した後、体育館の横を正輝は友達らと共に通った。館内が容易に覗ける窓の向こうに、恵の姿が今日も見えた。

とにかく何でもいい。今日こそ彼女に声をかけたい。

彼の心は限界に達していた。小高い場所にある体育館を過ぎた場所にとても広く長い階段がある。そこまで来た時、正樹は意を決したかの様に、一人体育館へ向かって戻りだした。

「正樹、何処行くんだよ?」

仲間の一人である山本学は、戻り行く彼に気付いて言った。

「忘れ物したんだ。先にホームへ帰っててくれ」

「なんだよ、あいつ。最後見たけど、何も残ってなかったぞ」

「いいからほっとけよ。正樹の奴、恵に惚れてるんだよ」

正樹と一番仲の良い佐々木智彦が学の横でそう発した時、館内から女子児童らが一斉に出てきた。”ほんとかよ? ちょっとまて。”智彦と学、学年下の川上健一、村越博史の四人は、近くにある土手へと急ぎ、気づかれぬ様にして密かに回り込んだ。

今、四人は、正樹の行動を身を潜めて観察している。どうやら正樹は、団体で外を移動する女子児童に圧倒され、今日も残念ながら目的を果たせそうに無いようだ。彼が一人、石段にて深く落ち込むように座り込んでいるのが、コチラからはっきりと確認できた。しかし、その時。

「おつかれさま。あれ? 今日は野球、もう終わったの?」

正樹の背後から突然一つの美声が聞こえた。彼は瞬時に察した。恵だ。

正樹の全てが瞬時に硬直する。しかし彼は、何食わぬ様子を演じるような姿勢で、平常に、かつ慎重に、返す言葉を探した。”いつもこれ位の時間に終わってるよ。薄暗くなってくると、最後のボール拾いが大変だからね。”何時の間にか一つ間隔を置いて彼女は座っている。それを直視できない正樹は、横目で恵の姿を確認した。

彼女はこの時から、通常の女性には無い特別なる美しいオーラが存在している事を正樹は不思議にも感じ取れた。それほどに彼女の容姿は何処から見ても美しく光っていた。

「あ!」

グラウンドの周囲を見渡す恵が、突然何かを見つけた。西にある小高い岳の向こうで遠近感により非常に大きくなった夕日が、今、正に揺らぎながら沈もうとしていた。”綺麗……。”思わずこぼれた恵の言葉へ反応する様に、正樹は赤い光景を同じように眺めては”そうだな。”と言った。

「――それじゃ帰るね」

少しばかり会話を交わした後、恵は正樹と違う荘へ戻っていった。彼女の姿がこの場から消えたとき、向こうの林からあの四人が出てきた。彼らは指笛や奇声を発してからかってきた。

「なんだ。お前ら、見てたのかよ」

「正樹、良い感じじゃないかよ」

「只話しただけだよ」

「それにしては顔が赤くなってたよ。なあ?」

「夕日のせいだろ?」

「全く隅に置けないな」

「うるさいって。はら、もうホームに帰ろうぜ」

夜。正樹は二段ベットの中で夕方の出来事を振り返っていた。確かに思えば、彼女の行動には不審な点が幾つかあった。グランドは体育館の出入り口を出れば、奥にある石段の方へ行かずとも様子を察する事が出来る。それなのに彼女はまるで石段の方へ来た時点で練習が終わった事を知った様な言葉を発した。これには何かキッカケを感じる。何よりも、彼女は一人で石段までわざわざ訪れた。まさか、恵は自分と会話する為に来たのか? この後出た答えが勝手な妄想を生み出し、彼の心を弾ませた。二人の間にあった必要の無い壁はやっと消え去った。正樹は喜びの中でそう思った。

次の日より正樹と恵は顔を合わすたびに声を掛けあった。それが大体一ヶ月ほど続いた頃だろうか? 正樹は、いまだ言えない恵への想いを、遂に彼女自身へ告白すべく行動にでた。

正樹はこの日、自身の居る平和荘から一番南側に位置する夕日荘へと急いだ。周囲が大分薄暗くなった十九時過ぎだった。施設は、園外は高校生を除いて十八時、施設内では高校生を含み二十時より完全に外出禁止となる。

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