無料小説 処女作品@「愛するということ」第二章 =10=

 母は、自分のせいで、この世から完全に消えた。知子は、この日も自分を責め立て号泣していた。何処にもやりきれない想いが、今夜も彼女をそうさせたのだろう。残されたその他の人間が、彼女に「貴女のせいではなく、貴女の為に」御母さんは、きっと何処かでまだ生きていますよ」等と慰めるが、その優しさがあろう事か、彼女にとっては更なる仇打ちとなり、涙は余計に朝まで止む事が無かった。

 夜が明けた。太陽が今日もゆっくりと青空を高く昇る。窓の外から心を集らせる実に様々な命の鼓動が聞こえる。今日も相変わらず鳥の声がとても煩く、そして気持ちよく、知子の耳へと高らかに届いた。こぼれ日が洋風の窓から知子の寝室の中へ差し込む時、彼女は何か悟りを開いたかの様に涙を止めた。そして知子は決意した。

「お母さん。私、将来お母さんの様な“ユタ”にきっとなってみせます」

消息を絶った母・倫子の葬儀は、当然行われていない。

『上村神霊経治所』の長は、一番弟子の沼田由美子が“知子・恵の内、どちらかがユタとなり一人前になるまで”という条件付で、引き継ぐ事となった。しかし、本音は彼女らをこれ以上巻き込む事が、果たして師匠・上村倫子先生の望みでは無い様な気がしてならない。また実際に、将来一番の権力者となるであろう知子は、今回の事件でこの世界に足を踏み入れる事はもはや不可能に近い確率だろうという気持ちで一杯だった。その為、後日、知子直々に修行の申し出があった際、由美子は非常に驚きの色を隠せなかった。第一、一般的に考えても、若干十四歳そこそこで申し出をする者は絶対に居ない。ましてやこの子は既に、この世界の恐ろしさと辛い悲しみを肌で体験している。しかしそれと同時に、彼女ならきっと自分が将来懸けても絶対に辿り着く事が出来ない、師匠と同じいや、それ以上の力を手に入れる事が出来るだろうと、由美子は知子の只ならぬ決意がこもった強い眼差しの奥深くをじっと見つめながらそう感じ取って居た。

あれから知子には、由美子による“霊媒師の見習いに課せられる修行日程”が言い渡された。それを彼女は、学校から戻って来たかと思えば直に机に向かい、宿題を難なくこなした後、今度は除霊所に向って本堂や軒にてその与えられた修行を夜の八時頃まで行う日々を過ごした。修行日程表では、休日以外は通学の事を考慮し、毎朝六時に本堂で行われている“経読み”は盛り込まれては居なかった。そしてまた、恵も友人に乏しく、今まで休日と言えば、知子が恵を子守するようにして二人一緒だった事等を理由に、由美子は知子に休日のみ課せられた“経読み”以外、その日の日程を空白とした。

知子はユタの修行を申し込むその前に、第二弟子らは未だに恐れその一線を越える事が出来ないで居る、正式なる“ユタ”となる為の過程である『成巫儀礼』のラインを、若干十四歳の若さで既に越えていた。その、普段聞き慣れない『成巫儀礼』とは、“巫病の発症”の事を指し、それは一般的に、正式な“ユタ”になる人間=霊媒師は、まず生死に関わる事故や肉親の不幸などをきっかけに“カンダーリィ(神倒れ・神垂れ)”と言われる原因不明の体調不良、いわゆる“巫病を発症”するとされており、信仰者の間では「これはユタとなる為の神からの命令」だと考えられていた。

何故に二番弟子達が何時までも倫子に認められて居なかったかは、これが一番の理由だった。このラインを自然と迎え、そして越える事が出来なければ、術など覚えた所で何の効果も発しないわけである。

『ユタ』には不思議が多い。

実は、この国の大元であると伝わる『邪馬台国』は、沖縄だと言う説がある。そして、その土地が邪馬台国とする「魏志・倭人伝」の中に、『ユタ』と関係する興味深い事項が数々ある。“ユタ”の語源は“ユダ”であり、これはキリストを売った“ユダ”から来ている。古代キリストの時代、迫害から逃れたセム系ユダヤ人が神に導かれ、この海の果ての地・つまりは沖縄まで辿り着き、そしてそこで新しい国が誕生した『邪馬台国』である。そして、邪馬台国伝説にある、皆を統一したとされる『卑弥呼』は、『日巫女』の事を指し、“ユタ”つまりは“巫”の大元は卑弥呼であったと言われている。

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無料小説 処女作品@「愛するということ」第二章 =9=

 先ほどまで門の向こう側に居た戦没者の霊が断末魔のような顔を門扉に隙間無く張り付かせ、そして口を開けたままコチラを睨みつけていた。その光景はまるで地獄絵図の様に背筋の凍りつく様だった。たまらず倫子と一番弟子は声を合わせるように御経を唱え始めた。強力な霊気を放つ物体は、皆、門扉からは離れ後退りしては行った。が、しかし、決してそれだけでその場から消える事は絶対に無かった。倫子にはちゃんとした策があった。結界にて霊が“ユタ”に力を抑えられている限り、こちらに分がある。勿論、これは非常に強い霊媒師である倫子に限られた話しだ。

「ガマに戻れ!

倫子にはもはや除霊の困難な怨霊たちを成仏させる術は無い。彼女に今出切る事は、第一の結界から抜け出た霊全てを再びガマへと戻す事位しか方法がなかった。

「由美子、塩を撒きなさい!

 倫子が力強く怒鳴る様にして一番弟子にそう発した。そして倫子はその後も再び御経を唱え始めた。一番弟子の沼田由美子が言われたとおりに倫子の側近で橙色の大きな袋から清められた塩をすかさず取り出し封を指で抉る様にして開けた。それから鷲掴みに塩を沢山握った後、それを天へと目掛けて力強く何回もばら撒いた。撒かれた塩は倫子が結界内でのみ使用できる能力により大地落ちる事無く怨霊たちい、霊を第一の結界内へと追いやった。残る一人の戦没者第一の結界内へと戻るのを確認後、倫子は由美子と共に第一の結界線となる白い綱を両手で掴み念を唱えて入魂し続けた。これでおおよそ二日は持ち堪えるだろう。後は知子を一刻も早く元戻した後、時間は掛かるがじっくり取り組んで完全に直せば良い。倫子はそう考えていた。

「由美子、後はよろしく頼む」

 倫子はそう発した後、握っていた白い綱から手を離した。

「はい、分かりました。お気をつけて」

倫子は、第一弟子のいるこの場を後にし、除霊所の方へと足早に急いだ。恐らく残された時間は後わずかしかない。霊媒師としてこれまで立ち向かって行った幾つのも経験が、倫子の頭の中をそう過った。

除霊所の入り口来た。瞬間、倫子とて未だ経験した事の無いとても強烈な何かが彼女の背中から心臓目掛けて非常に重く、重く、何重にも圧し掛かかった。この霊気はこれまでの何よりも強く恐ろしい。やはりあれを使うしかない。一瞬、ただならぬ圧迫感から来る酷い目眩で倒れかけた倫子は、そこから何とか意識を正常に戻し、そしてある決意に満ちた目をしながら、そう自分に力強く言い聞かせた。

倫子が想像した以上に二番弟子達は皆、服装や髪等がかなり乱れた状態だった。思ったとおり、知子に取り付いた霊は彼女の魂を連れ去る際、怨念のみは体内に残したらしい。恐らく知子を監禁室へ運んだ際に、その怨念は目を覚ましたのだろう。

「先生! こちらです!

 倫子の帰宅に気付いた弟子の一人が慌てた様子で発した。倫子は監禁室のドアに設けられている覗き窓から中の様子を伺った。知子は監禁された部屋の中で気が狂ったように、素っ裸の状態で暴れていた。そして覗き窓から見る倫子の存在に気付き、ドアへ“ドーン”と何度か体当たりしてきた。留守中の弟子達は、電話越しから聞こえた倫子の言いつけ通りに、服は愚か部屋の中にも怨念の悪意による知子の自殺防止を図る為、道具などが何も無い状態で監禁していた。知子の口と後ろに回された腕には除霊の際に使用する白い襷ががっしりと巻かれ縛られているが、知子の胴体に取り残された怨念から成る常人を超えた凶暴な力はとにかく非常に強く獰猛だった為、足を縛るまでは留守中の彼女らにはとても不可能だった。倫子が覗く眼差しを充血させた目で睨み返していた。霊気が途方もなく強烈だ。この怨念は外からの一般的な除霊法ではとても成仏させる事が出来ない事を、強烈な怨念の塊である霊気から倫子は悟った。

「恭子!

「はい」

「これから私はこの中に一人で入る」

「え? この中に一人で?

「そうだ」

「先生。幾ら先生でも一人は危険です。私達も共に入りましょう」

「駄目だ! それでは犠牲が増えてしまう」

「それじゃ、ここから除霊をすれば――」

「出来る事ならそうしたいが、これだけ強烈な魂は、もはや中からでないと厳しい。これ以上時間が経てば、知子の魂が完全に食い潰されてしまう……。もう、どうにもならない所にこの怨霊は達している。今すぐにでも向こうの世界へ行かなければ」

「向こうの、世界……ですか?

「恭子よ」

「あ、はい。先生」

「私が居なくなった場合の話だが……」

「居なくなった場合の話? どう言う事です?

「全ては由美子に話してある。とにかく、よろしく頼む」

倫子が何かに対して意を決しているように恭子は見えた。しかし、一体それとは何なのか、恭子ら弟子達は、終わりを迎えるまで知る事はなかった。倫子が妙な行動を起した事に恭子は気付いた。

「先生! 何を――

倫子は鋼鉄で出来たドアの前で全ての衣類を脱ぎ捨てた。それから数珠を両手に巻きつけたままの状態で掌を合わせ、腹の底から来る様な低く大きな声で経を唱えた。

「合図をしたら直にドアを開けなさい!

ドアを挟んで直そこに居る“怨念”が憑依した知子が、まるで地鳴りのする様な目の前に居る“ユタ”の経に驚き、そして睨みながら後ろ歩きにゆっくりと向こう端の方へと退いた。その時だった。倫子は合図と共に素早く中に入り、そして弟子たちに、鍵を再度外から閉ざすよう力強い口調で命じた。倫子の御経は、相手の霊気が少しばかり弱まるまでのあいだ続いた。あれから辺りの時は、経の響きと共に大分経過した。どうやら、そろそろ腕力自体も知子の体に相応しい所まで落ち着いてきた事を、倫子は知子の形相から悟った。徐々にだが、知子の表情は元の正常な状態に近付いている。勿論、この経を唱えている時点で“完全に戻る可能性”に関して、倫子は全く期待などしては居ない。何度も言うが、この怨念は外からの一般的な除霊法ではとても成仏させる事が出来ない。もし、それが今まで出来たのならば、この建物の一画にあるガマに取り残された霊魂全ては、とっくに行くべき所へと辿り着かせる事が出来たはずだ。この手の怨念を完璧に成仏させる方法は、今まで使う事が絶対に無かったが、倫子は密かに知っている。しかし、それは「絶対の危険が伴う荒業」かつ、一つの怨霊のみにしか使えない、正に“対一のみへの自爆行為”とも言うべき最終手段だった。全裸で中に入った倫子は、既に覚悟を決めていた。何としても娘を救わなければ。倫子は再度、そう心に強く呟いた。今、彼女は知子の息が届く所まで近づいている。知子に呪移った悪霊はこの時弱まりを見せていた。いや、封じ込められている知子の記憶が、経の力によって少しでも自身の体内へと戻り、そして、抵抗的に自身の体を制御していたのかもしれない。倫子が近付いても、知子であって知子でない彼女は動くことを許されず、只々唸り声をあげるのが精一杯だった。

「神よ……

 倫子は一瞬そう呟いた後、母として最後の温もりを感じさせる様に、目の前の知子肌と肌をびっしりと合わせた。途端、知子の唸り声が硬直と共に止まった。倫子が再び優しく口を開いた。

「知子……、御母さんが身代わりになるからね。大丈夫。直に良くなるから」

倫子が知子の頭へ両腕をゆっくり回した。

「何時でも天から見守っているからね。恵とケンカはしちゃ駄目よ。元気で頑張るのよ」

瞬間、とても眩しい光が密着した各部分から放たれた。段々と、その放たれた光は大きくなっていく先ほどから中の様子を伺っていた恭子は紛れもなく見た。そして思わず叫んだ。

「先生――!

倫子の全てが知子の体へと光を成してゆっくりと、ゆっくりと、入り込んでいく。倫子は知子へと小さく呟いた。それは恭子の耳にも届いた。

「さよなら……。知子、恵、愛してるわ……

終わりの予感を悟った恭子は、たまらずもう一度「先生!」と大きく叫んだ。彼女の叫び声は一瞬で倫子と知子の居る部屋中に届いた。瞬間、先ほどよりも明るいストロボのような光が、恭子の目が遣られる勢いで覗き窓から一気に外へと飛び出した。同時に恭子は意識を失い倒れこんだ。

「恭子さん――!

待機する他の弟子達が気付き、彼女の元へと急いだ。その内の一人が、光が放出された覗き窓から中の様子をたまらず伺った。その弟子は目を疑った。倫子の体は完全とこの世から消滅し、もはや何処に視線を巡らせても影すら見当たらないのだ。只、そこにあるのは、恭子同様に光によって気を失い横倒れした知子の姿があるだけだった。

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無料小説 処女作品@「愛するということ」第二章 =8=

美子美子……闇の中を唸る様な声が、知子の寝室に今夜もしつこく響いている。

霊が纏わりついてから知子は、妹を自分の部屋で寝るよう話していた為、恵はこの部屋には居なかった。この日も知子は、上向きで寝た状態のまま強烈な金縛り状態にあった。そして何より窓の外に見える夜空は快晴だと言うのに、不自然にもこの奇妙な現象の時だけは、しごく室内の湿度が高かった。ベッドのシーツの上に敷いたタオルケットが、まるで部屋の中で雨が降ったかのように、胴体の下も含む周囲だけがびしょびしょに濡れているのを知子は肌で感じ取れた。彼女は精神的に我慢の限界だった。これで今夜も含み、三日三晩まともに寝むれて居なかった。いや、一睡たりとも寝かしてはもらえなかったのである。知子はとうとう我慢できず、不幸にも決着をつける決意をした。

「貴方、誰なの?

 強烈な金縛りが少しだけ解けて口が開けるようになった時、知子は男の顔を見ずに上を向いたまま恐々と言った。彼はベッドの直隣に立っている。

俺だよ……。誠だよ……

不思議な事に、この唸るような声は、彼の立つ方向からではなく、知子の頭上、かつこだま含みに響きながら聞こえた。

美子……美子……お前、無事に生きていたのか?

どうやらは知子の事を彼の知る別の女性と錯覚しているらしい。

どうしてこんな所に居る? ここは敵が多くて危険だ。早く東京の実家に戻れ」

少し間をおいてから続けざまには言った。彼は妹と誤解している様だった。は終戦に気付いていない。沖縄戦で没し、魂となった時間から一時たりとも時代が経過していないのだ。やはり母が言うように、何十年経った平和なこの世界でも、戦争は未だに終結しては居なかった。

「私、その人じゃありません。もう付き纏わないで下さい」

 先ほどに比べれば金縛りが大分楽になった状態で言った。

「何を言ってるんだ! お兄ちゃんを忘れたのか?

 怨霊の不思議な力が弱まったせいか、男の声はその口元があるであろう方向から正しくはっきりと聞こえてきた。知子の金縛りが完全に解かれた。彼女はそのまま仰向けの状態から声のする方向へと顔を向けた。しかし次の瞬間、再び強烈な金縛りが襲い掛かってきた。もはや目を逸らす事は出来ない。知子は正にこの時から万事休した。何やら体の全体から蒼い炎のようなガスを放出している彼の目は、とても悲しい出来事を芯から伺わせていた。知子が彼の眼差しを五秒ほど見つめた。その時、これまで彼の体験した沖縄戦における全ての出来事が、あたかも自分の記憶の如く、彼女の脳を鮮明に色濃く駆け巡った。凄まじい念から波動が発生している。知子はフラッシュバックに似た現象の世界へと追いやられ、そしてとうとう記憶の中の人物とこの時完全と化そうとしていた。一瞬、ストロボの様な大きな光が部屋中に放たれた。何処からともなく突然と放たれた光と共に、知子はまるで電脳が映し出した様な不思議な記憶の世界で必然的に彼の妹に完全と化した――

二人は今、地下鉄のホームに向かい合って立っている。彼女は、目の前に立つ兄の顔を涙目にじっと見つめていた。兄はとても優しくて明るい笑顔を見せていた。

「お母さんの事、頼んだぞ」

「お兄ちゃん……」

千人針を渡したあのホームで、美子と誠はとても悲しく辛い別れを体験した。彼は自ら命を絶つために南の島へと今日旅立つ。万歳三唱があちらこちらで大きく響きながらコチラまで聞こえてい。兄は最後まで涙を見せなかった。列車の四角い窓から満面の笑顔を覗かせて、彼女の目に入る最後の最後まで帽子を握り締めた手を思いっきり振っていた。しかし本当は妹の見えなくなった列車の中で、彼は我慢する事無く激しく号泣していた。そして思いを込めて念じた。美子……。お兄ちゃん、お前とお国の為に立派に死んで来るからな知子は現在の世界へと戻った。

彼を見つめたまま止まった彼女の目からは大粒の涙が溢れ、そしてどんどん流れて行った。

「一緒に帰ろう」

 彼は最後にそう一言放ち、優しい眼差しで知子手を伸ばした。彼女の魂は完全に彼の記憶の中へと抜け出ていた。今、知子は、彼が没した場面を見終え、そして彼と彼女以外には何も無い真っ白の世界に居る。

「知子! 知子――!

何処からとも無く母の声が聞こえてきた。しかし、今の彼女は美子であり、知子ではなかった。

「だれだろう?

彼女は一旦足を止めた後、声のする方向を振り向いた。が、しかし、再びと彼女は戦没者と手を繋ぎながら、終着のない白い世界を何処までも歩いていった。

次の日の朝、知子の抜け殻は倫子の弟子たちによって除霊所運ばれていた。第一の発見者は家政婦だった。倫子は家からは大分離れた地区への訪問除霊を行っていた為、除霊を終えた後、その依頼者の家主の計らいで用意された部屋にて宿泊していた。彼女が知らせを受けたのは、その訪問宅にてゆっくりと朝食をご馳走になっている時だった。時間は九時を過ぎていた。

「――あ、はい、お世話になってます。はい、先生ですか? はい、あっ、ちょっと待って下さい。今、代わりますので」

家主の妻は受話器を置くと、倫子の方へと伝えに行った。

「先生、御宅の方から電話が来てますよ」

その訪問宅へ掛かってきた緊急の電話にて事細かく倫子は状況を知らされた。弟子達は倫子のスケジュールを予め知っていた為、連絡をこうやって取り付けることが出来た。それだけが幸いだった。

「うむ、分かった。うん、うん――」

ここから自分の拠点までは距離があるために戻るには少し時間が掛かる。やむなく倫子は今だに未熟とも言える二番弟子に「応急処置を施した後、自分が戻るまでの間、除霊所の一室に監禁して置く様に」と指示した。そして受話器を置いた後、こんな時に限って一番弟子を連れて来た事に対して思いきり悔やんだ。

「先生、どうしました?

 一番弟子の由美子が訊いた。

「知子が、……知子がちょっとな」

「まさか!

 電話のやり取りで大まかに察していた由美子が絶句した。

「うん、とにかく急がねば」

「ああ、それならタクシーを呼びましょう」

 隣で聞いていた家主もただならぬ事態察してかそう発した。

「すみません、コチラまでご迷惑かけてしまって」

「いえいえ、良いんですよ。気になさらないで下さい。おい、裕子。丸善タクシーに電話してくれ」

家主の妻は受話器を再び持ちダイヤルを回してタクシーを呼び出した。

倫子と一番弟子を乗せたタクシーが拠点に着いたのは、昼前の十一時を過ぎた辺りだった。何時ものように第二の結界外となる正門前にて二人は下車した。倫子と一番弟子は帰宅途中の乗り物の中で、運転手に悟られぬよう専門用語等を駆使し今回の件について話し合っていた。そして、二人共に合致した答えは、やはり“第一の結界の何処かが破られている”と言う事だった。

「ありがとうございました」

 後部座席の左に座っていた一番弟子が下り、続いて倫子が下車する別れ際に、運転手がそう発した。その後運転手は倫子がドアから離れるのをじっと見つめていたが、倫子は下車し立ち上がろうとした体制から動こうとしな。どうやら門扉の間から見える敷地内を彼女はその位置から睨んでいるようだった。遅かったか……。倫子はそう思いながら、向こう側をまだ睨んでいた。

「お客さん。大丈夫ですか?

 運転手が彼女を我に戻す様に言った。

「あ、はい。ごめんなさい、今、降ります」

下車後、二人はその場に立ち竦ん

「先生。これじゃ第二の結界が破られるのも時間の問題ですね」

 一番弟子は唖然としながら言った。それに対して倫子は何も返さなかった。

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無料小説 処女作品@「愛するということ」第二章 =7=

母・倫子は、沖縄では「ユタ」と呼ばれる霊媒師の中でも特に権威のある立場で、依頼の電話が引切り無しに鳴るほどに、とても多忙な日々を過ごしていた。その為、強力な結界が張られた神社のような造りの大きな除霊所や母屋などに居る事がほとんど無く、特に最近では夜中にかけて、一刻を争う緊急な除霊の為に外出を余儀なくされていた。それほどまでにこの島はユタの存在を昔から崇め頼りにして来た。食事や各建物の掃除などの管理はいつも弟子や家政婦の仕事だった。この日の夜も、料理の上手い家政婦の一人が彼女らの夕食を用意していた。彼女達は、多忙により親子の触合いは幼稚の頃と比べて減ってはいたが、とても倫子に溺愛されていた。父親こそ居ないものの、家計はとても恵まれていたので、倫子は姉妹が欲しい物などあれば何でも買ってやり、食事に関してもなるべく贅沢なメニューにするよう家政婦に指示していた。倫子は自分の職業で彼女達が世間に対して肩身の狭い思いをしている事を知っていた。そして“ユタ”は、上村家の先祖代々から受け継がれた特殊な能力であり、自分の人生もまた同じ様なものだった。彼女達の寂しさは良く知っていた。長女・知子を出産した際、“ユタ”と言う職を辞めようか迷ったしかし、この能力を放棄する事は出来なかった。何故なら、この能力は大人になればなるほどに、普通見えるべきではないとても恐ろしい物体が嫌でも余計に見えてくるからである。ガマの結界の件もある。やはりこの状況ではもはや普通の生活は送れない。倫子は、もうこれは“神から与えられた宿命”だと諦めるしかなかった。倫子は、恵たちも何時かはそうなるであろうと言う事に関して、身ごもった時から確信を抱いていた。二人の娘共に何度も堕胎しようか迷った。しかし出来なかった。結界等に関しては、自分が他界する前にでも弟子跡を継がせれば良い。が、しかし、彼女には身ごもった胎児を堕胎する事がどうしても出来なかった。恵が小学生に上がる頃、倫子は一人思った。やはり生んで良かった。しかし倫子はこの時既に、何か不幸の前兆なる“静かで音の無い西風”を、心の何処かに受けているのを感じて居た。倫子はこの日の朝も、母屋の一室にある仏壇で御経を唱えながら彼女らの無事を念じていた。不吉な何かは、とても近くに居る。倫子は最近密かに人知れずおびえ始めていた。

「ねえ、お姉ちゃん」

 恵が銀色のフォークをくるくると空中描くように遊ばせながら発した。

「何 あっ ちょっとまって。今、良い所だから」

 姉の知子はゆっくりと食事をしながらテレビに見入っている。今、最も人気のバラエティー番組が始まっていた。

「今日、お姉ちゃんも見たんでしょ?

 この言葉を聞いた瞬間、知子は全身を硬直させたのを恵は悟った。

「何が?

 知子は何食わぬ素振りで恵の目をチラリと見つめ、視線をテレビに

「だ・か・ら、兵隊さん」

 知子の素振りを注意深く伺いながら恵は話した。

「あの人さ、何処から来たのかな?

「知らない。私は見てないから。気のせいじゃないの? 多分、芝刈りのおじさんよ。ほら、あのおじさんも兵隊さんみたいな格好してるでしょ? 多分そうだよ」

 知子はその場しのぎでそう話したが、恵は嘘を付いている事を完全に察した。

「お姉ちゃんの隣にくっ付いて一緒に読書してたのに?

知子は再び硬直した。震えた手で持っていたフォークを皿の上に置いた。

「お姉ちゃん。隠しても駄目だよ。恵、チャッピーと一緒に見たんだから」

「だから違うってば! もうこの話はしないで。いい加減にしないと怒るわよ」

 知子は、無理やりに蓋を閉じるかの如くそう発した。

知子は十一歳になった頃から、母からガマの話しや霊的現象を、決して全てではないが、恵には内緒で密かに聞かされていた。そして万一、日本兵を見た場合は絶対に目を合わしてはいけないと言う事を話の最後に注意されていたまた、この類の怨霊と話をした場合、普通の人間ならば即座に魂を抜き取られ呪が移ると言う事も繰り返し聞かされていた。但し、怨霊などという何か特殊で異様な物体は、十二歳以上の人間でないと興味を示さないらしい。知子はこの時、既に思春期を迎えていた。十四歳だった。

ガマの周辺を包囲されていた沖縄戦没者の霊は、結界を越えて隣の森に日増しに現れるようになった。どうやら弟子達の知らぬ箇所で結界がほんの少しだけ破られているようだ。妖精の数も大分減ってきた。長の倫子ですら、特に最近多忙でろくに除霊所どころか母屋にも滅多に居なかった為、この事には今日まで気付いていない。正に、第二の結界内に居る恵以外の人間全てが危険にさらされている状況だった。しかし、知子は母・倫子には話さないで居た。二重に包囲してある結界の話まではまだ聞かされていなかったのである。つまり、結界の存在までは全く知らなかったの。知子は無視を続ければ何時かは居なくなるだろうと勝手に決め付けていた。だから周囲に相談するのではなく、一刻も早く“さ迷う日本兵”における“出来事”を、忘れる事に専念した。しかし駄目だった。あの瞬間から男は、誰も周囲に居ない時間だけだが、知子に完全に纏わりついた。何故かは分からないが、どうしても彼は彼女に存在を気付いて欲しいようだった。そして沈黙は、結界が破壊され始めてから三日目の今夜、遂に破られた。

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無料小説 処女作品@「愛するということ」第二章 =6=

愛すると言う事~第二章

1977

恵は正樹が誕生した年から一年後となる昭和五十二年十一月七日に生まれた。

彼女の家系はとても複雑で、特に母関しての職業には神秘性があった。恵の母・上村倫子は霊媒師で、沖縄では”ユタ”と方言で呼ばれる存在だった。彼女には一度、職に関する問題から離婚の経験があり、今回授かったこの子の父の場合、妊娠が発覚してから突如蒸発し、行方をくらませていた。この時、倫子にはもう一人、父親こそ違うが恵からは姉となる存在といえる五歳になる愛娘が居た。

姉妹には母譲りの天性なる何か特別な能力が備わっていた。二人は除霊所などに隣接された実家の広い敷地内無数に聳え立つガジュマルの森で遊ぶのが昔から好きだった。理由は、彼女らにしか見えない何か特別な動物が居るかららしい。聞く所によると、その奇妙な動物は、頭髪が濃い赤色で肌が全身土色、背丈は彼女らと同じ位らしい。樹齢百年以上ある大きなガジュマルにのみ生息すると言われている、悪戯好きの“キジムナー”であろう事は間違いない。母の倫子はよくその動物の話を、晩御飯の時間にうんざりするほど聞かされていた。姉妹はそろってその動物の名前を「チャッピー」と呼んでいたが、母はそれがガジュマルの妖精であり、そしてちゃんとした呼び名がある事を知っていたが、二人を気遣ってか、その話をしばらくの間伏せていた。

倫子は定期的に沖縄戦で使用された南部地域のいたる所にある、火炎放射器や毒ガスの煙幕によって黒く焦げ付いた鍾乳洞、いわゆる沖縄の方言で言う“ガマ”弟子と共に結界道具や供え物などを引提げ巡礼していた。倫子の除霊所である神社のような大きな建物の奥の方には最も悲惨で悪霊の数と力が最大。よって、もはや除霊は困難とされるガマの入り口が潜めて実はあった。このガマの存在を倫子は娘二人絶対に話す事はかった。このガマの入り口前には大きくがっしりとした鉄の門扉があり、その扉には鍵が二重三重と掛けられ、そして門の存在を隠すように大きな神棚などがその手前に奉られていた。その神棚からは左右に何十もの白い糸を萎えて作られた綱が建物の外へとずっと伸びており、そして、そこから白い綱はガマの上にある森すべてを一周して囲っていた。とても巨大な結界である。非常に強力なる結界は、実はそこだけではなく、万一に備え、姉妹が遊ぶもう一つの森や母屋を含む一帯にも別の手法を用いて密かに張り巡らされていた。幸いな事に、白い砂利道を挟んである二つの森の内、一つ目の結界が張ってある森には、大人のヘソ位の高さの材木で白ペンキに塗られた塀が行く手の侵入を阻んでおり、また、その森は戦時中、アメリカ軍によるガマ包囲網の際、極めて局地的に火炎放射器で緑が強制と消された焼け野原状態から甦生させたものなので、古い大木などは一切無く、よって二人の好きな妖精は居ない事から、倫子が注意するまでも無く、とりあえず姉妹は、そのもう一方の森には興味など持たずに自然的に立ち入る事はかった。

上村姉妹は親も違いそして年齢も五歳と離れていたが、それらを感じさせる事が無い位に当然の如く相変わらず毎日とても仲が良かった。二人は母の職業柄、周囲から気味悪がられていた為か、地元の友達には余り恵まれず、そしてそれは恵が小学生に上がってからも変わる事が無かった。その為、日曜等は大体決まって姉の知子は部屋で読書や勉強。恵はその後ろで一人、落書き風に絵を描いたりするのが常であった。晴れて気持ちの良い日は二人あの森出て妖精と共にくつろいだり花を摘んだりして楽しんだ。

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