無料小説 処女作品@「愛するということ」第六章 =40=

互いに最初から印象が良かったからだろう。正樹と香織が交際を始めるまでに、時間は余り必要とはしなかった。香織は社長の友人で不動産を営んでる父親の娘らしく、清楚でお嬢様の雰囲気が少し漂う女性だった。黒髪で艶の有る綺麗なロングヘヤーに、スカートがとても良く似合っていた。正樹と香織は、最初の内は事務所で挨拶を交わす程度だったが、何回も顔を合わすうちに、何時の間にか普通に会話をするようになっていた。始めにデートを誘ったのは、香織の方からだった。

「正樹さん。あの、良かったら今度、食事に行きませんか?

 正樹は、この日は六時ごろ寮に帰り、そして、作業着のまま食堂で夕ご飯を食べている時、五時から正樹の帰りを待っていた香織が彼に言った。

「え? ああ、良いけど」

 正樹は少し驚いた表情で答えた。

「良かった。それじゃ、明後日の日曜日大丈夫ですか?

「あ、うん、全然大丈夫だよ。それじゃ、何処で何時に待ち合わせしようか?

 正樹はあたかも友達と軽く約束を交わすように言った。実際、彼の中では、香織は友達という感覚でしかこの時なかった。

「あの、夕方の六時に私が此処に来ます。それで、良いですか?

 呆気ない正樹の態度に少々戸惑いながらも香織は言った。

「うん、分かった。六時ね」

「はい。それじゃ、私、そろそろ帰りますね」

 言って、香織がお辞儀をしようとした。その時だった。正樹は慌てて言葉を発した。

「あ、駅まで送っていくよ。ちょっと待ってて、すぐ着替えてくるから」

「いえ、今日は車で来ましたから。大丈夫です」

「あ、そうなんだ」

「あの、それじゃ、おやすみなさい」

 香織が斜めに軽くお辞儀した。

「うん、おやすみ。明後日ね」

 そう言って正樹は日にちをさりげなく確認した。

「はい」

 香織は頷いてから思いきりに可愛く微笑んだ。香織は恥ずかしそうにしながらも、片手を小さく振って出て行った。彼女は本当に純粋で清楚だった。正樹は香織が帰ってから恵の事を思い出した。恵と始めて会話したあの日の夕方。あの時、恵から話しかけて来なければ、二人の交際は当然始まらなかった。香織は姿だけではなく、なんだか積極的なところも恵に似ていると正樹は思った。

日曜日の夜の食事後。正樹が運転する香織の車の中で、次の約束は交わされた。

「今日はごめんね。俺、仕事用の汚い車しか持ってないから」

「いえ、そんなの気にしないで下さい。でも、今日は本当に食事楽しかったです。あの、また誘っても良いですか?

「うん。でも、今度は俺から誘うよ。二人でどっか遊びに行こう」

 正樹は言った。それは彼女への気配りのつもりだった。香織は素直に喜んだ。

「本当ですか! 嬉しい。約束ですよ」

「うん、約束」

 言って、正樹は約束を交わした。

それから二人は、毎週の様にデートに行くようになった。やがて、真剣な交際を口で迫ったのも香織からだった。正樹は流されるままにそれを受け入れた。そして二人は更に親密を深めて行った。正樹は時々思った。もし、昔のあの時、自分が施設から逃げ出さなければ、今頃恵ともこの様に、誰にも邪魔される事なく交際を続けて行けたのだろうか? そして更に、必ず良晴おじさんが話していた言葉がどうしても頭を過る。もし逃げる事無く施設に残ったとしても、運命は同じか、もっと酷い結末を迎えたかもしれない――確かにそうかもしれない。しかし、今思えば明らかに逃げ出した後悔の方がどれよりも痛みは計り知れなかった。考えるたびに、正樹は天を仰ぎたくなり、星の見えない夜空を見上げ溜息を吐いてはとても痛くやりきれない気持ちになった。そして、とにかく自分は恵にもう一度会いたいと、彼は強くそう思うのだった。

「――正樹さん、正樹さん?

「あ、ああ、御免」

 我に返ったように正樹は返事した。

「ううん、いいの。気にしないで」

 香織は優しい笑顔で言った。彼女は続けた。

「でも、正樹さん最近ちょっと変。時々ボーっとする事が多くなってる。もしかして、私との事、楽しくない?

香織は少し疑念の顔をして訊いてきた。

「そんなこと無いよ。楽しいよ」

「本当?

「本当だよ」

「良かった」

 香織がまた笑顔になった。正樹はその笑顔が恵と同じに見えた。

「それじゃあ、もしかして、何か困りごととか、あるの?

「違うよ。ちょっと考えてる事があるんだ」

「え? どんな事? 私で良かったら相談して欲しいな」

 香織は甘えて落ち込んだ顔をした後、正樹の腕に横からしがみ付き彼の顔を見た。

「もったいぶらないで。ねえ、教えて」

 香織は可愛らしく訊いた。正樹はそれがとても愛らしく思え、少しだけ話をする事にした。

「それじゃ、話すよ。ちょっと不思議な話だけど、良い?

「うん、聞かせて」

「光の世界ってのがこの世にはあって、其処にもう一つの現実があるって話なんだけど、その光の世界ってのは、其処に行けば、此処とは違う話になったり、未来が見えたりするんだ。自分が関係する範囲でね。それで、だから俺は其処に行きたいなって、そんな事考えてた。……御免、変な話だったな」

香織は意外そうな顔をして正樹を見つめた。彼女はもっと現実的で繋げやすい話が正樹の口から出てくるとばかり思っていた。香織は膨れ顔になって言った。

「へえ、私とデートしてる時にそんな事考えてたんだ。酷い」

彼女は顔を戻し続けた。

「でも、なんだか不思議。光の世界か……、私も行ってみたい」

「いや、でもそんな楽しい事じゃないから」

「ええ? どうして?

「違う現実が幸せじゃなかったりもするからだよ」

「あ、そうか……。そうだね」

二人の会話がここで途切れ、少しだけ沈黙が漂った。今、二人は駅からの帰り道を歩いている。ようやくと香織が口を開いた。

「私、今が良いな……。正樹さんと出会えたし、この世界が幸せだと思う」

 正樹はこの言葉に黙ったまま何も言わなかった。寮に着いた。二人は玄関口の外で立ち止まった。

「それじゃ、ここで」

 正樹は片手を挙げて言った。

「あ、来週は私の車でドライブに行かない? 正樹さん、海好きでしょ」

 何か少し慌てた様子で香織は言った。彼女はこの日のこの時をまだ終えたくない。そんな素振りだった。

「うん、良いよ。それじゃ、また来週な」

「あ、あの、正樹さん……」

 香織は緊張した趣で発した。

「うん、どうした?

「正樹さん、私、今日は帰りたくないな……」

「え?

正樹は硬直した。香織は恥ずかしそうにしながらも、正樹の胸元にそっと額を持たせ、そして彼の両手を握ってから続けた。

「正樹さんの部屋に、泊まっても良い?

正樹は一瞬迷った。が、言った。恵の笑顔がこの時、頭を過ぎっていた。

「……御免。俺の部屋汚いし、それに、そう言うの、もう少し待ってくれないか? いや、香織が嫌いとかそんなんじゃないんだ。只、もう少し待って欲しい」

「正樹さん……」

 香織が急に涙目になって正樹の顔を見上げた。

「御免な」

「ううん、良いの」

香織はもう一度正樹の胸元に額を持たせた。そして手を離して胸元から離れた。

「今日はわがままばっかり言ってごめんなさい。それじゃあ、おやすみなさい。正樹さん」

 香織はそう言うと、正樹の顔へと上向き、そっと目を閉じた。正樹は香織が接吻を求めていることに気付き、彼女の両肩をそっと掴んでからとても柔らかい唇に優しくキスをした。そして、「おやすみ」と、彼女に返した。今夜はこれで何とかやり過ごせた。やがては、駐車場に止めておいた香織の車へと彼女が消えていくと、高級車は息を成し、ゆっくりと寮を横切ってはクラクションを一度だけ鳴らして帰って行った。正樹はこの夜だけではなく、それからも、恵を思い出させる香織を目の前に、もう一歩踏み出せないでいた。正樹は思った。いっそのこと、壊れるほど淫らに裸の香織を何度も何度も抱き締め、過去の事などあたかも最初から無かった様に、全てを忘れてしまえば良いのだろうか? しかし、今の正樹には、それが自分自身に対してどうしても許す事が出来なかった。

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無料小説 処女作品@「愛するということ」第六章 =39=

愛すると言う事~第六章

正樹は中学を卒業後、昔住んでいた家の隣に住む老夫婦の長男の紹介で、この東京へと就職に出た。旅立った先にあるこの大都会。その全てに、正樹は最初から圧倒され驚かされた。それはもう彼の目に映るもの全てが新鮮だった。それ位に、これから生活していくこの都会は、とても別世界に見えた。

東京・羽田空港には、これから世話になる社長の奥さんが迎えに来ていた。正樹は紹介してくれた長男のおじさんとその空港に着いた。

「健一さん、こっち、こっち! !

「ああ、こっちか」

 二人は到着ロビーで、手を振る女性の元へと歩き直した。

「健一さん、御久しぶりです。元気でしたか?

「うん、相変わらずね。佐代子さんも元気そうで良かった。ところで、良治の奴は?

「今日もゴルフとかで、朝早くから出て行きましたよ。もう、こんな時に。ごめんなさい」

「いや、別に良いんだ。社長は色々付き合いが多いからね。それはそれで大変なんだよ」

「本当にごめんなさいね。お兄さんがせっかく来てるのに……。この子が正樹君ですか?

「うん。正樹君、僕の弟の嫁さんだ。佐代子さんって言う人だよ」

「上間正樹です。よろしくお願いします」

 正樹は旧姓の松田ではなく新姓で言った。

「あら、礼儀正しい子ね。金田佐代子よ、これからよろしくね」

「これから分からない事とか相談事とかあれば、彼女に話すと良い」

「はい」

「それじゃ、行きましょうか」

三人はモノレールから浜松町へ向かい、そこから山手線で池袋へと向かった。そして、池袋を降りてから、今度は東武東上線を北上し、下赤塚でやっと外の空気を吸った。駅を出てから、途中、コンビニで今夜用の弁当とペットボトルで飲料水を購入してもらい、そしてそこから更に数百メートル歩いた所に、木造三階建ての小さな会社はあった。一階の右半分が事務所で、左半分には寮で生活する人の為の小さな食堂や風呂場がある。二階三階にある幾つかの寮部屋の内、正樹は二階の西面角部屋を渡された。

「此処が今日からあなたが生活するお部屋よ。綺麗に使ってね」

「はい、ありがとうございます」

「それと、今日は日曜で誰も居ないから、自己紹介とかは明日の朝しましょうね」

「はい」

「それじゃ、僕はこれから佐代子さんと弟の家の方へ行くけど、後は一人で大丈夫かな?

「はい、大丈夫です。ありがとうございました」

「いいんだよ。あ、それと、落ち着いたら必ず良晴おじさんに電話する様に。分かったね?

「はい」

「うん。それじゃ、これから頑張ってな。体には気をつけろよ。じゃな」

 健一は正樹に勇気を分け与えるように力強く言った。

「それじゃ、また明日ね。正樹君。あ、そうそう、明日の朝、八時には此処に呼びに来るわ。それまでお部屋で待っててね」

「はい」

仕事を紹介し、ここまで連れて来てくれた健一との別れは、意外にもあっけなかった。正樹の周りが急に言葉の無い静けさに包まれ、彼は段々と寂しさを心から感じるようになった。窓の外に見えるのは無機質な隣の建物の壁だけで、それを見ているだけで此処がとても窮屈に、そして暗く感じる。知らぬ場所でのこれからの一人とは、こんなにも孤独が漂っているのか。正樹はこの時、初めてそれを知ったのだった。

この都会で初夜となる昨夜、正樹は色々な思いと緊張から一睡も出来なかった。もう朝か――。全身が行動を拒むようにとても重かった。正樹は置かれてあった小汚いテレビを点けて朝のニュース番組を只ぼんやりと眺めた。少しばかりして部屋のドアが鳴った。

「正樹君、正樹君、起きてる?

 ドアをノックした佐代子が言った。

「はい」

 正樹は慌ててドアを開けた。佐代子が笑顔で立っている。

「おはよう、昨日は良く眠れた?

「あ、はい……」

 正樹は気を遣って嘘をついた。

「朝ご飯出来てるから、下に下りてご飯食べてね。それと、昨日言うの忘れてたけど、平日の夜は下で食事が用意されてるから、これから仕事が終わって帰ってきたら食べて。あと、今日は特別に朝食もあるけど、何時もは無いから気をつけてね」

「あ、はい」

「食事が終わったら、八時ちょっと過ぎまでそのまま下で待ってて。呼びに来るから。事務所で自己紹介しましょうね」

 言って、佐代子はドアを閉めた。正樹は佐代子が一階に下りるのを階段のきしむ音で確認してから下におりた。食卓にはご飯が用意されている。正樹は椅子に腰掛けて、まだ慣れぬ周囲に目を配りながら、少し早く朝食を平らげた。壁に掛けられている時計の針は、七時四十五分辺りを指している。隣の事務所とコチラを結ぶ内ドアから佐代子が再び現れた。

「あら、もう食べたの? 早いわね。もう少しゆっくり食べればいいのに」

「あ、はい……」

「緊張してるのね。大丈夫。うちの会社、みんな明るくて良い人ばかりだから、すぐ慣れるはずよ。もうじき社長が来るわ。ここで待ってて」

 言われて、正樹は食卓で一人待つことになった。五十分を過ぎた辺りから、二人の男の声が壁越しに聞えてきた。どうやら社員が出勤してきたらしい。正樹は更に緊張してきた。社長が来たのは八時をちょっと過ぎた辺りだった。

「おはよう、君が正樹君か」

 先ほど佐代子が現れた内ドアから、背が高くがっしりとした男が出てきた。

「お、おはようございます」

 正樹は少しどもった。

「うん、いい顔してるね。僕が健一の弟で社長の金田良治だよ。よろしく。君の事は兄貴から聞いてる。さあ、早速みんなに紹介しよう。こっち来て」

 社長の良治は事務所側へと手招きした。正樹は事務所に入った。二人ほどの社員が各自のデスクで仕事をしているのが見えた。

「おい、二人とも、ちょっと仕事止めて、立ってくれる?

 良治の声に、二人の社員が仕事の手を休めて立ち上がり、こちらを見た。

「今日からうちの会社で働く事になった上間正樹君だ。よろしく頼む。正樹君、挨拶して」

「あ、はい。上間正樹です。よろしくお願いします」

 正樹が頭を下げると、二人から「よろしく」と声が返ってきた。

「こっちが部長の佐藤茂、それでこっちが伊藤勝則。覚えといて。うんじゃ、二人とも、もう良いよ。それじゃ、こっち来て座って」

 事務所の入り口側へ窮屈に用意された応接のソファーに、正樹と良治は向かい合って座った。

「佐代子、作業着持ってきて」

 社長の良治が上等のソファーから後ろを向いて言った。そう言えば、正樹は此処に来る前、沖縄でズボンのサイズ等を健一に聞かれた事を思い出した。

「はい、正樹君どうぞ」

 佐代子が正樹に用意していた作業着を手渡した。

「上からで良いから、サイズ確認してみて」

正樹は透明の袋から作業着を取り出し体に宛がった。濃い青色のストレートで両太もも側にポケットが付いているズボンと、それに合わせた上着だった。他に靴とジャンパーも用意されていた。

「正樹君、明日からは少し早いけど、六時にはこの作業着に着替えて此処の駐車場に来てくれな。職人連中が集まってるはずだから、そうだな……、おい、茂。明日、皆に正樹君を紹介してやってくれ」

「あ、はい。分かりましたよ」

 茂が自身のデスクから顔を覗かせて言った。

「明日の朝はあいつの隣に付いておけば良い。それと、これからの事なんだけど、君はまだ若すぎるから、しばらくは職人連中の手元として現場で働く事になるけど、後々車の免許も取って二十歳位になれば一人で回るようになるから、それまで我慢してしっかり頑張ってくれ。頼むよ」

「はい」

 正樹は身の引き締まる思いで力強く言った。

正樹は次の日から二十歳を過ぎる頃まで、体作りとそして何よりどんな職種なのかを身をもって知る為に、町場職人連中の手元として彼らと現場まで同行し共に働いた。とにかく時間はあっという間に過ぎた。仕事はタイル工事が主で、中でもLOVEホテルの水周りとパチンコ店の改修工事などが特に多かった。学生時代の頃の様に、色々とした事が仕事以外には無く、ただ働いては寝る平凡な日々がしばらく続いた。しかし、ある出会いをきっかけに、正樹の東京での生活に変化が訪れた。

二十一歳を過ぎた頃の春の夜、正樹は昔とまったく同じ夢にうなされた。

「智彦……。どうしてお前が恵と――」

「違うんだ! 神様……お願いだから訊いてくれ! 違うんだよ――」

「何でこんな暗い所にずっと閉じ込められなきゃいけないんだ?

「寒くて死にそうだ。誰か出してくれ!

「お願いだ。もう一つの世界でも何でも良い。だから戻してくれ! お願いだから――」

「嫌だ、まだ行きたくない。恵と智彦に……ちょっと待て。や、やめろやめてくれ!

うわ! 正樹は悲鳴を上げるようにして悪夢から目を覚ました。なんだ、夢か……。でもこの夢は、昔見た夢とまったく同じものだ。一体、何故? 正樹は少し考えたが、ここでもやはり答えが出せずに居た。

正樹は自動車の免許を二十歳で取得してからというもの、最近は一人で民家などの補修工事に向かい、そして時間に関係なくやり終いで早々と寮に帰る事が多くなっていた。その為、正樹のその日の仕事は、朝、駐車場に集って行う簡単なミーティングのその時決まる様になっていた。

「正樹は、今日はこっち行って。はい、地図のコピー、住所は此処ね」

 茂が正樹にルートと住所等が記された地図のコピーを正樹に手渡した。

「板橋か、今日も近いですね」

「早く起こして悪かったな。なんだったら、もう一眠りして行っても良いぞ」

「いや、吉野家でゆっくり朝飯食ってから行きますよ」

「そうか。そういや、今日から新しく事務の子が来るって言ってたな」

「へえ、そうなんですか」

「正樹は今日も早終いだと思うから、帰ったら事務所に来て会って見るといい。意外に可愛い子かも知れんぞ」

 言って、茂が正樹に肘をついた。

「え? 佐藤さん、面接とかしなかったんですか?

「最近、外回り忙しくてな。俺が居ない時に佐代子さんが全部やったんだよ。俺は履歴書見るのも忘れてた」

 言って、茂は冗談じみた顔をした。

茂の予想通りに、正樹は今日も早く仕事を終えた。帰る途中、ふと夢の事をまた思い出した。あのとても寒くて息苦しさのある暗闇は何なのだろう。自分は何故、其処に閉じ込められたのか。消滅させられるようなあの独特の感覚は一体――。正樹はやはり、何故そんな夢を見たのか分からなかった。車は会社側の空き地に広がる契約駐車場に着いた。

「ただいま」

 正樹は寮側にある裏口のような玄関から中へと入り、夕食の支度をしている年老いた寮母に言った。

「ああ、おかえり。今日も早かったわね」

この寮母は、橋野という職人の母親で、寮の掃除や夕食を作りに、平日いつも来ていた。正樹はその寮母と少しだけ会話を交わしてから、事務所とこちらを結ぶ内ドアをノックし、事務所の中へと入った。

「御疲れ様です。今日の仕事終わりましたよ」

「はい、御疲れ様」

 佐代子がこちらを見て言った。正樹は事務所の中を見渡した。佐代子ともう一人の女性の頭が見えた。社長や茂、そして勝則などの姿は見当たらなかった。

「あれ、今日はみんな居ないんですね」

 正樹は言った。その時だった。

「こんにちは」

 女性が顔を覗かせてコチラに会釈した。瞬間、正樹に衝撃が走った。

「ああ、正樹君。今日から働く事になった木下香織ちゃん。年は正樹君より一歳年下のちょうど二十歳よ。よろしくね」

 佐代子が言った。女性は立ち上がった。

「はじめまして。あの、木下香織です。よろしくお願いします」

「……あ、上間正樹です。よろしく」

恵に似ている――正樹はそう思いながら挨拶を交わした。

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無料小説 処女作品@「愛するということ」第五章 =38=

悪い夢に魘されてから数週間後。恵が学校から帰宅する時の事だった。この日の恵は何時もの海辺には寄らず、まっすぐに帰宅した。校門から出てまっすぐと伸びた道から外れた小道を抜けて行けば、突当たり側に家がある。敷地内にあるヤギ小屋の手前には仲泊家があり、その向かい側にもう一つかなり古い民家があった。他にも畑道などの抜け道はあるのだが、この私道から家へと戻る時は、必然的にこの二つの民家を通過する事になる。恵は中田姉弟に何が起きたのかを恐らくながら知っている。その為、仲泊家と、特にもう一つの民家に住むと言われている、まだ見ることの無い東京からの滞在者の事を、通り過ぎるたびに意識せざるえなかった。この家にはこの島に来た初日、挨拶をしに行ったが居なかった。いや、行ったが誰も出てこなかったと言った方が正しい。その後もこの家とは縁がない。

恵は不思議に思っていた。実おじさん達は、気味が悪いと言っても、『覗き』の件にしろ、何故かこのまだ見ぬ滞在者を真っ先には疑わない。中田姉弟は二人とも性格が急に不順になった理由を何一つ喋らなかったと言っても、何かしら気付いてこの滞在者を疑う事が出来たはず――。しかし、それは何が起きたのかを恐らくながら知っている恵の頭で描いた勝手な後付け論であって、実際には、何がおきて、そして誰がやったのかを周りが察するのは困難だろう。いや、それ以前に、小百合を犯した犯人は、此処に住む滞在者と言う証拠を恵は何一つ持っていない。その為、この滞在者が犯人だと言う事自体が、只の決めつけとしか言い様がなかった。だが、恵には確信があった。­――この島の人たちは、皆、本当にとても温かい。疑うとすれば、まだ見ぬこの家に住む滞在者位のものだった。

恵は実おじさん達に中田姉弟の身に起きた出来事を知る限り何度も話そうとした。しかし、小百合が話さなかった理由を知らない事と、静かに眠っている“事”をわざわざ起し、それが原因で大騒ぎになってしまう心配が邪魔をした。

――いったい、此処に住む東京からの滞在者は、どんな人で、どんな顔なのだろう? 自分が夢の中で見た人物と同じ、恐ろしい声と顔をした人なのだろうか?

そんな事を考えながら、今日も滞在者の住む家の前を通り過ぎようとした時、恵は急に足を止めた。

「――こんにちは」

余りにも不意を食らったようにいきなり過ぎた。恵はびっくりして返す言葉が急には出てこなかった。

「こ、こん、にちは……」

恵は一瞬、相手の顔を見て他へ目を移した。相手がまじまじとこちらを見ている。恵はたまらず足早にこの場を立ち去ろうとした。

「ちょっと待って! 君、最近まで見ない顔だね。名前、なんていうの?」男はそういって恵を呼び止めた。

「あっ、僕の名前は山岸守だよ。よろしくね」照れくさそうに男は言った。

「上村・・、上村恵です……」

恵は瞬時に思った。違う。夢で見た人と似てるけど、この人じゃない。夢の中に出た男は、もっと恐ろしい顔をしてた。それに話し方も違う」恵の想像は見事に覆された。

「上村恵か、良い名前だね。沖縄の本島から、来たのかな?

「……はい」

「そうか、本島か。あ、そう言えば、何年か前に、仲泊さんの所にも本島から来ていた子が居たな……。名前は確か……、中田中田小百合ちゃんって言ってたな。健二君って言う弟と一緒に来てた。もしかして、知ってる?

「いえ……、小百合さんって言う人とは、会った事が無いです」

「……そう。そうか、知らないのか。あ、いや、もしかしたらね、知ってるかなって思ったんだけど」

――健二なら知ってる。恵はそう言い掛けたが、しかし、その事に関して、深く訊かれるのが嫌だった為、話すのを止めた。恵は思わず避けるように発した。

「あの……、そろそろ帰って良いですか?

「あ、うん。ごめんね、呼び止めて」

「いえ、別に良いです。それじゃ」

「ああ、またね」

――やっぱり違う、この人じゃない。

恵は、家に帰ってから小百合に関して気持ちを整理しようとした。出来なかった。

だが、とりあえず恵は、実おじさんたちが、「気味が悪い」とは言うものの、彼に対して何かしら疑いの目を向けない理由がこれで分かった。彼は誰の目からも堅実に見えたのだ。健二や小百合さんを不幸にしたのはあの人じゃない。

「それじゃ、一体誰がやったって言うの?

 恵は独り言でそう自分自身に問いかけた。

守と出会った日から三日経過した夕方。恵はこの日もお気に入りの場所で砂浜を眺めてから、学校から帰るつもりで居た。お気に入りの場所に着いた。今日は誰も遊んでいないようだ。砂浜は恵一人しかいない。久しぶりに、砂の上を滑る小波の音しか聞えなかった。今日は本当に心が落ち着く。そう思った時だった。

「おや、また会ったね」後方からいきなり男の声が届いた。恵は座ったままの状態で振り返った。山岸守だった。恵は彼がこちらに来て隣に立った時、言った。

「こ、こんにちは」

「こんにちは。此処、よく来てるの?

「あ、はい……」

「そっか。本当に、ここの砂浜は綺麗だね。久しぶりに観ると尚更癒される」

恵は山岸守の手元を見た。両手に食料品の詰まった買い物袋を二つ三つぶら下げている。彼は学校の向こうにある商店で、買い物した帰りの寄り道なのだと言う事に、恵は直に気が付いた。

「久しぶり、なんですか?

「うん……」

そう言えば、恵がこの島に着てから、このお気に入りの浜で一度も守を見た事が無い。「そうなんですか」恵は彼が久しぶりと言った言葉に嘘は無いと頷けた。

「……実は言うと、僕は体が弱くてね。それで、調子の良い時以外は余り外に出てないんだ」

「え?

 恵は正直驚いた。それ位に、この山岸守という男は、誰の目から見ても健康そうに見えた。恵は訊いてみた。

「あの、何処か悪いんですか?

「うん、まあ、ちょっと肺をね。でも、最近は調子が良いよ。一昨日、君とあった日から、なんだかずっと体の調子が良い」

「そうなんですか……」

少しだけ間が空いた。守がニコッとした顔でこちらを見つめている。恵はなんだか少しだけ恥ずかしくなった。

「あの、私、そろそろ帰ります。それじゃ」

「ちょっと待って。家、近所だし、一緒に帰ろう。送っていくよ」

恵は特に断る理由がなかった為、一緒に帰る事にした。辺りは蜜色に変色し始めている。夕暮れはもうすぐだった。守が歩きながら話しかけてきた。

「恵ちゃん、でいいかな? 恵ちゃんは中学二年か三年生?

「はい」

「やっぱりそうか。いや、見た目はもうちょっと年上に見えるんだけど、此処には高校が無いらしいからね、直に分かったよ」

恵はこれまで同年とは比べ物にならないほどの体験をし、また、彼女の中には倫子と知子の魂が宿っている。その為、実年齢よりも年上に見えるのは当然の事だった。

「住んでるのは金城さん宅だよね? 向こうの人、どんな感じ? 優しい?

「はい、とっても明るくて優しいです」

「そっか、いいなあ。楽しそうだね。僕なんか一人暮らしだし、余り外に出ないから、結構寂しい思いしてるんだけど、本当に家族って良いよね」

彼は一見閉鎖的で怪しく思えるが、実はそうでは無い。恵は完全に守に対する見方をこの時変えた。それから、守の住む家の入り口まで、二人の会話はしばらく続いた。

「それじゃ、ここで」きり良く住む家の門前で話が終わってから、彼が発した。

「はい。ありがとうございました」

「いや、かえってこっちが礼を言いたいよ。久しぶりにまともに人と会話したからね。ありがとう」その時だった。

「うっ!

 守が急に屈みこんだ。何やら胸のほうが苦しいようだ。恵は慌てて守の側にしゃがみ、彼の様子を伺った。

「どうしたんですか?

「うう……」

「鼻血が出てる! 大丈夫ですか?

「だ、大丈夫だよ……」

「今、誰か人連れてきますね。待ってて下さい」

「いや、本当に大丈夫。大したことないから、人、呼ばなくて良いよ。それより、悪いけど、ち、ちょっと手伝ってくれないか? これを中まで運んでくれると助かるんだけど……。大丈夫、お、おじさんは一人で歩けるから……」守は、苦しくした際に手元から落とした、食料品等が沢山に入った幾つかの買い物袋を指差した。

「分かりました。玄関、開けますね。鍵、ありますか?

「いや、鍵は、何時もしていないんだ。この島に、泥棒とかは居ないと思ってね。た、助かるよ」

「いえ、たいした事じゃないですから」

二人は家の中に入り寝床のある部屋へと移動した。着くと直に守は仰向けに横になった。彼はまだ辛そうな顔をしている。恵はどうして良いのか分からず、とりあえず、買い物袋を置いて布団の横に跪いた。守が苦しそうに言った。

「め、恵ちゃん。わ、悪いけど、台所から水入れてきてくれないか? あと、向こうの卓袱台に薬が色々おいてあるから、それ、全部持ってきて欲しい。ごめんね」

「はい。ちょっと待っててくださいね。直持ってきます」

「ありがとう、助かるよ」

守は恵が持ってきた多量の薬の中から幾つかを手にし、そして、それを水と一緒に一気に飲み込んでから再び横になった。しばらく様子を見てから守が発した。

「少し痛みが退いて来た。ありがとうね、今日は本当に助かったよ」

「いえ。痛み、退いてよかったです」

「もう大丈夫。後は一人で大丈夫だから、恵ちゃん、そろそろ帰った方が良いんじゃないかな? ほら、もうじき日が暮れそうだし、早く帰ったほうが良い」

「あ、はい。それじゃ、そろそろ帰りますね。本当に大丈夫ですか?

「うん、今日はありがとうね」

「いいえ、別に。それじゃ――」

 恵はそう言うと、立ち上がって出口の方向へと歩こうとした。

「恵ちゃん」

 守の声に、恵は足を止めて振り返った。

「はい?

「やっぱり、少しだけ、少しだけ話していかないか?

「あの、でも……」

「ちょっとで良いんだ。ちょっとだけで良いから、もう少しだけ話したい。気が紛れるからね。駄目かな?

「分かりました。それじゃ、もう少しだけ」

 恵はそう言うと、再び元の位置に跪いた。

「ありがとう。ごめんね、もう遅いのに」

「いえ。もう暗くなりそうだけど、ちょっと位なら大丈夫です」

「ありがとう。それじゃ、何から話そうか。そうだな、恵ちゃんの事について訊いて良いかな?

「はい」

「此処に来た事についてなんだけど。恵ちゃんは」

「なんですか?

「恵ちゃんは上村だから、金城さんの娘ではないよね? 従妹か何か?

「いえ、違います。あの……、里親で……」

「あ、ごめんね。そっか、小百合ちゃんと同じで、里親で着たのか。そうか」

「あの、小百合さんの事、余り知らないんじゃ……」

「最近、名前をちょっと忘れていただけで、彼女の事を余り知らない訳じゃないよ。むしろ、彼女の事は良く知ってる。何年か前に、ちょっと騒ぎになってたからね」

「騒ぎって……、もしかして」

「恵ちゃん、知ってるの?

「はい……」

「そっか、知ってるのか。とりあえず、この話は止めよう。暗くなっちゃうからね」

 一瞬、その場の空気が重くなった。二人とも口を閉じている。

「あの……、守さんは、どうして此処に着たんですか?」話を逸らすように恵は訊いた。

「ああ、僕ね。僕はね」

「はい」

「僕は、病気を癒す為にこの島に着たんだけど、海眺めたり泳いでみたり海中散歩したりできないんじゃ、何のために此処に滞在してるのか分からないね。いや、本当に間抜けだよ」

守が急に暗い顔になった。守は話を続けた。

「余命宣告されててね。死ぬ前ぐらい行って見たかった所で過ごしたいなって。それでこの島へ滞在しに着たんだ。直に気に入ったよ。貸家はおんぼろだけど、家賃は本当に安いしね」

「余命、て……。あの、ごめんなさい。余命って……後、どれ位なんですか?

「あと一年……」

「え?

「て言われてから、何だかんだで、もう何年も生きてる。本当に余命宣告なんていい加減なもんだよ。それか、この島に着て寿命が延びたのかもしれない。まあ、それは良くある話らしい。環境を長閑な所に変えるとね、のんびりしてる分、命も長くなるんだろうね」

「それじゃ、この島に着てよかったですね」

「そうだね」

「もう、しばらくはこの島に居るんですか?

「うん、そのつもりだよ。僕は独り者だからね」

一つ間が空いた。守が続けた。

「恵ちゃんは、中学卒業したら島から離れるのかな?

「いえ、まだそんなこと考えたことないから分からないです」

「そっか、分からない、か……」

「あの、それがどうかしたんですか?

「いや、ちょっと小百合ちゃんのこと思い出してね」

「え?

「実は小百合ちゃんとも、こんな感じで何度か話した事があるんだ。その時、同じ質問をしたんだけど、彼女は施設に戻って、そこから高校へ通うと言っていた。……生きていれば、今頃、高校三年生かな? 早いな、何時の間にかそんなに経ったのか」

「あの、良かったら、小百合さんの話し、聞かせてくれませんか?

「あ、うん、構わないけど。大丈夫?

「はい、大丈夫です」

「そうか、分かった」

 守はそう言うと布団から起きた。

「あの、寝たままで大丈夫ですよ」

「いや、もう大分痛みは退いてるから大丈夫だよ」

 そう言って微笑む守を見て、恵はホッとした。守が小百合に関する話しを始めた。

「あれは多分、小百合ちゃんがこの島に着て大分落ち着いた頃かな? 初めて彼女に会ったのは恵ちゃんと会った時と同じで玄関先でだった。偶然にね。僕は島に来てまだ浅かったけど、小百合ちゃんを一目見た時に、昔からこの島に居る人間じゃないなって事は分かった。恵ちゃんと一緒で、あいさつに独特の訛りが無かったからね。後、顔立ちとかがやっぱり他の島の子供とは違ってて、ここの島の人間よりは白肌で少し狐顔のすらっとした体型の子でね。いかにも弱々しい感じの女の子って感じだったから。でも、それは向こうも同じで、僕の事を直に地元の人間ではない事に気づいて居た。それでね、何度か挨拶を交わしてる内に、お互いに知らない事を話すようになっててね。僕の地元が関東だって言ったら、小百合ちゃんは興味を持ってね。今みたいに話をした。それは、ちょうど今日みたいに倒れた日だったな……。それからは、毎日のように家に見舞いがてら遊びに来るようになってね。今日の恵ちゃんみたいに、ずいぶんと助けられた」

「毎日見舞いに来てたんですか?

「うん、ほぼ毎日ね。でもね、突然、急に来なくなった。驚いたよ、まさか自殺するだなんて……。日ごとに何となく暗くなってる事には気付いていたんだけどね。彼女が心から苦しんでる事には気付いてあげられなかった」

「それで施設に戻ったんですね……」

「健二君の事? いや、彼の場合、それだけじゃないんだ」

「どう言う事ですか?

「小百合ちゃんが恐らく何かあってから、彼はその何かに気付いていたんだろうね。あれは酷い荒れようだったって商店の人から話は聞いてる。君の住む金城さんとね、何度も口論になってたらしい。しまいにはね、小百合ちゃんが居なくなって発見されたその日に、健二君が実さんの腕を包丁で傷つけたらしい。幸い傷は言わなければ分からない程度らしいんだけどね。恵ちゃん、気付いてた?

「いえ、腕に傷があるなんて気付きませんでした」と、その時、恵はふと夢で聞えた言葉を思い出した。「傷がある」と小百合が言っていたあの夢の事だ。

まさか! 初めて想像する気味の悪い実の顔が、恵の頭の中に浮かんだ。

「そうか……。まあ、それでね、健二君はその後高校進学と言う理由で施設へ戻されたんだよ」

恵は少し目眩がした。それは信じられないと言う事実が起こさせた症状だった。彼女は呟くようにして言った。

「私、夢で会ったんです」

「夢で会った? 誰に?

「小百合さんです。でもあれは違う、もしかしたら、あれは本当だったのかも……」

「どう言う事だい? もしかして、夢が夢じゃなかったって事かな?

「はい……」

部屋は言葉なく無音になった。この時、実の裏切りと、それに対する失望が、恵の心を支配しようとしていた。恵は話を続けた。

「最近、夢で小百合さんの声を聞いたんです。その時、小百合さんは傷があるって言ってました。もしかしたら、小百合さんに酷い事をしたのは実おじさんかも。でも、まさか……」

「酷い事? どう言う事か、話してくれないか」

「健二が、いえ、健二さんが言ってたんです。小百合さんはずっと犯されて、壊されて、盗まれたって。生贄と同じで、欲求で飢えた人間に犠牲にされたって……。夢でも同じ様なこと言ってました。まさか、実おじさんがだなんて。でも、顔は違ってた。小百合さんを犯した人は会った事の無い人だったんです」

 混乱した様に恵は言った。

「この事は誰かに話したのかい?

「いえ、まだ誰にも話してません……。私、ずっと迷ってて……」

「そっか。健二の野郎、其処まで分かっていたのか」

 守の話し方に変化が見られた。恵は何か違和感のような物を感じた。しかし、今の所それにはっきりとした答えは見つからなかった。守は続けた。

「健二は小百合から何かを聞いて、話した。そして君は、知ってはいけない事を知ってしまった……。どうやら、恵ちゃんの口も今すぐに封じる必要があるみたいだね。まあいい、どっちにしろ、早かれ遅かれ君は僕の体になる予定なんだ。構わないさ」

「え?

 恵は更に混乱した。

「傷があるのは、何もこの島に一人だけじゃない」

「え? ど、どう言う事ですか?

 恵の体が危険を自然と察知し、硬直した。

「小百合をやったのはこの俺さ」

「え? 嘘……、でも、傷が……」

 恵は次第に体が震えだした。

「傷は多分、これの事だろ?

 守はTシャツを脱ぎ捨てた。胸に手術らしき跡が残っていた。恵は思わず目を見開き、そして完全と震える以外に微動だに出来なくなった。それは、小百合を犯した犯人は守だと分かった瞬間だった。

「あいつは本当に物分りが良かった」

 そしてまた、夢で見た男が放った声と今の守の声は完全と一致している。恵は守の顔を見た。そこには、恐ろしく薄気味の悪い顔に豹変した守があった。

「小百合は俺が密かに酷い病気持ちだって事気にして、犯人が誰だって事を皆に黙って抱かれてくれた上に、しまいには勝手に一人で死にやがった。ストックホルム症候群って奴でいかれちまったんだな。何回も無理やり犯したのに看病続けてくれてよ……。それとも、まさか本気で惚れちまってたのか? ハハハ、そんな、まさかな」

守がいきなり恵に飛び掛り、体を横に倒してその上に乗っかった。

「い、嫌! どいて! 放して!

 守は恵の言葉を耳に通す事無く話を続けた。

「俺はあいつが好きだった……。たまらなくな。この意味、分かるか?

「う、嘘よ! 名前も思い出せないほど軽く考えていた。そうでしょ? 酷い人! 最低よ! 貴方なんかに好きだったなんて言われても迷惑だわ。もうどいて! 放して! !

「どくもんかよ。お前はもう俺から逃げられない。小百合と同じでな。今度はお前があいつの代わりになるんだ。良い話だろ? ああ、良い匂いがする。この匂い、たまらない……」

「い、いや! や、やめてっ、やめてください!

「お前も此処が感じるんだろ?

 そう言いながら、守が恵の首筋と耳元を何度も舐め回した。守は倒れた恵の上に乗っかり両手を力ずくで掴んでいる。恵は思い切りに力を入れて抵抗するが、息が切れるだけで自由に動けないで居た。ハアハアと呼吸が混乱している。

「どうだ、感じるか? 小百合と同じ様に興奮しやがって。若い女は皆同じだな」

「ち、違います! お、お願い、放して!

「何言ってるんだ。もっと気持ち良いのはこれからだ」

 守が今度は腰の上に乗った状態で恵の制服を脱がせようと両手を離した。恵はそうはさせまいと抵抗するが、腰から下が自由にならず、うまく力が入らない。守は途中でボタンを一つ一つ外すのが面倒になり、思い切りにボタンを剥ぐ様にして制服を真ん中から破って開いた。恵のブラジャーで覆われた両胸が露出した。守は更にブラジャーを脱がせようと、恵にくっ付き背中に手を回した。ホックが外れた。すかさず、今度は邪魔物を脱がせようと、片方ずつ力ずくでストライプを肩からずらし、そして、とうとう完全と恵の体からブラジャーを取り上げた。恵の両胸は完全に露出した。

「綺麗な胸、してるじゃないか。もう大人だな」

 恵の両腕は、今、ストライプをずらすのに一杯だった守の両手から自由となっている。恵は咄嗟に両胸を隠した。

「おっと、まだ抵抗する気力が残っているのか。仕方ない奴だな」

そう言うと、守は力ずくで恵の腕を退かした。恵の綺麗で若い乳房が再びと露出した。守が今度は、顔をゆっくりと露出した胸へと近づけてから、桃色の乳首に唇を当て、それから、とても愛しそうに、勃起した先を舌で舐めてから口の中へと含んだ。そして官能的に濡れた桃色なる乳首の全体を思い切りに吸い込んだ。その瞬間だった。恵の脳に、姉・知子と徹の間に起きた出来事が何重にも巡った――

平成元年の二月八日の旧正月を終えかけた深夜から、徹による上村家長女・知子への性的暴行は始まり、そして、悲しい事に、初めて知る性のぬくもりと、これから深まり行く強制的な快楽と共に、彼女の心は徐々に崩れ去り、同年四月。高校三年となった知子は、遂に徹に対して完全と抵抗なき性的奴隷へと化した――。その出来事が、今、この場にいる恵を感情一杯に苦しめる。恵は耐えられず大声を発した

「嫌!

 その大声は、遮られた窓と壁から通る様に、辺り一帯にまで不思議と響き渡った。

「誰か、誰か助けて!

その直後だった。家の外で恵の帰りを心配しながら待っていた実が、守の家の玄関の扉を、音を立てて横に思い切り開いた。実と恵の目が遠くで合った。

「恵!

 実は声を大きくしてそう呼ぶと、土足で玄関に上がり、守に思い切り飛びかかった。

「この野郎!

 大の男が病持ちの守を取り押さえる事は容易だった。

「恵! アイヤー、心配したよ。大丈夫ね?

 恵美もこの時、後から駆け付けていた。恵はこの事件後、実を少しでも疑った事実を思い切りに恥じた。

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