連載小説 愛するということ 第二章 3

上村姉妹は親も違い年齢も五歳離れていたが、それらを感じさせる事が無い位に、当然の如く毎日とても仲が良かった。母の職業柄、周囲から気味悪がられていた為、地元の友達には恵まれていない。日曜は決まって部屋で読書や勉強する姉、知子。恵はその後ろで落書き風に絵を描いたりするのが常であった。晴れて気持ちの良い日は森へ出て妖精と共にくつろいだり花を摘んだりして楽しんだ。
倫子は、沖縄で「ユタ」と呼ばれる霊媒師の中でも特に権威のある立場で、依頼の電話が引切り無しに鳴るほどに、とても多忙な日々を過ごしていた。その為、強力な結界が張られた神社のような造りの大きな除霊所や母屋などに居る事がほとんど無く、特に最近では夜中にかけて一刻を争う緊急な除霊の為に外出を余儀なくされていた。それほどまでにこの島はユタの存在を昔から崇め頼りにして来た。食事や各建物の管理はいつも弟子や家政婦の仕事だった。この日の夜も料理の上手い家政婦の一人が姉妹の夕食を用意していた。彼女らには父親こそ居ないものの、家計はとても恵まれていたので、倫子は姉妹が欲しい物などあれば何でも買ってやり、食事に関してもなるべく贅沢なメニューにするよう家政婦に指示していた。彼女は自分の職業で姉妹が世間に対して肩身の狭い思いをしている事を知っていた。そして“ユタ”は、上村家の先祖代々から受け継がれた特殊な能力であり、自分の人生もまた同じ様なものだった。彼女達の寂しさは良く知っていた。知子を出産した際、“ユタ”と言う職を辞めようか迷った。しかし、この能力を放棄する事は出来なかった。何故なら、この能力は大人になればなるほどに、普通見えるべきではないとても恐ろしい物体が嫌でも余計に見えてくるからである。ガマの結界の件もある。やはりこの状況では普通の生活は送れない。倫子は“神から与えられた宿命”だと諦めるしかなかった。姉妹も何時かはそうなるであろうと言う事に関して、身ごもった時から確信を抱いている。二人の娘共に何度も堕胎しようか迷った。しかし出来なかった。結界等に関しては、自分が他界する前にでも弟子へ跡を継がせれば良い。が、しかし、彼女は身ごもった胎児を堕胎する事がどうしても出来なかった。恵が小学生に上がる頃、倫子は一人思った。やはり生んで良かった。しかし倫子はこの時、何か不幸の前兆なる“静かで音の無い西風”を心の何処かに受けているのを感じて居た。倫子はこの日の朝も母屋の一室にある仏壇で御経を唱えながら彼女らの無事を念じていた。不吉な何かはとても近くに居る。

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連載小説 愛するということ 第二章 2

倫子は火炎放射器や毒ガスの煙幕によって黒く焦げ付いた鍾乳洞、いわゆる沖縄の方言で言う“ガマ”へ弟子と共に巡礼していた。彼女の除霊所である神社のような大きな建物の奥方には、最も悲惨で悪霊の数と力が最大。よって、もはや除霊は困難とされるガマの入り口が潜めてあった。このガマの存在を娘二人へ絶対に話す事はしない。
このガマの入り口には大きくがっしりとした鉄の門扉があり、その扉には鍵が二重三重に掛けられ、そして門の存在を隠すように大きな神棚などがその手前に奉られていた。その神棚からは左右に白い綱が建物の外へとずっと伸びており、そこからガマの上にある森すべてを一周して囲っていた。とても巨大な結界である。
非常に強力なる結界は、実はそこだけではなく、万一に備え、姉妹が遊ぶもう一つの森や母屋一帯にも別の手法を用いて張り巡らされていた。幸いな事に、白い砂利道を挟んである二つの森の内、一つ目の結界が張ってある森には、白ペンキに塗られた塀が行く手の侵入を阻んでおり、また、その森は戦時中、アメリカ軍によるガマ包囲網の際、極めて局地的に緑が消された状態から甦生させたものなので、古い大木などは一切無く、よって二人の好きな妖精は居ない事から、倫子が注意するまでも無く、姉妹はもう一方の森には興味など持たずに立ち入る事はなかった。

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