無料小説 処女作品@「愛するということ」第五章 =38=

悪い夢に魘されてから数週間後。恵が学校から帰宅する時の事だった。この日の恵は何時もの海辺には寄らず、まっすぐに帰宅した。校門から出てまっすぐと伸びた道から外れた小道を抜けて行けば、突当たり側に家がある。敷地内にあるヤギ小屋の手前には仲泊家があり、その向かい側にもう一つかなり古い民家があった。他にも畑道などの抜け道はあるのだが、この私道から家へと戻る時は、必然的にこの二つの民家を通過する事になる。恵は中田姉弟に何が起きたのかを恐らくながら知っている。その為、仲泊家と、特にもう一つの民家に住むと言われている、まだ見ることの無い東京からの滞在者の事を、通り過ぎるたびに意識せざるえなかった。この家にはこの島に来た初日、挨拶をしに行ったが居なかった。いや、行ったが誰も出てこなかったと言った方が正しい。その後もこの家とは縁がない。

恵は不思議に思っていた。実おじさん達は、気味が悪いと言っても、『覗き』の件にしろ、何故かこのまだ見ぬ滞在者を真っ先には疑わない。中田姉弟は二人とも性格が急に不順になった理由を何一つ喋らなかったと言っても、何かしら気付いてこの滞在者を疑う事が出来たはず――。しかし、それは何が起きたのかを恐らくながら知っている恵の頭で描いた勝手な後付け論であって、実際には、何がおきて、そして誰がやったのかを周りが察するのは困難だろう。いや、それ以前に、小百合を犯した犯人は、此処に住む滞在者と言う証拠を恵は何一つ持っていない。その為、この滞在者が犯人だと言う事自体が、只の決めつけとしか言い様がなかった。だが、恵には確信があった。­――この島の人たちは、皆、本当にとても温かい。疑うとすれば、まだ見ぬこの家に住む滞在者位のものだった。

恵は実おじさん達に中田姉弟の身に起きた出来事を知る限り何度も話そうとした。しかし、小百合が話さなかった理由を知らない事と、静かに眠っている“事”をわざわざ起し、それが原因で大騒ぎになってしまう心配が邪魔をした。

――いったい、此処に住む東京からの滞在者は、どんな人で、どんな顔なのだろう? 自分が夢の中で見た人物と同じ、恐ろしい声と顔をした人なのだろうか?

そんな事を考えながら、今日も滞在者の住む家の前を通り過ぎようとした時、恵は急に足を止めた。

「――こんにちは」

余りにも不意を食らったようにいきなり過ぎた。恵はびっくりして返す言葉が急には出てこなかった。

「こ、こん、にちは……」

恵は一瞬、相手の顔を見て他へ目を移した。相手がまじまじとこちらを見ている。恵はたまらず足早にこの場を立ち去ろうとした。

「ちょっと待って! 君、最近まで見ない顔だね。名前、なんていうの?」男はそういって恵を呼び止めた。

「あっ、僕の名前は山岸守だよ。よろしくね」照れくさそうに男は言った。

「上村・・、上村恵です……」

恵は瞬時に思った。違う。夢で見た人と似てるけど、この人じゃない。夢の中に出た男は、もっと恐ろしい顔をしてた。それに話し方も違う」恵の想像は見事に覆された。

「上村恵か、良い名前だね。沖縄の本島から、来たのかな?

「……はい」

「そうか、本島か。あ、そう言えば、何年か前に、仲泊さんの所にも本島から来ていた子が居たな……。名前は確か……、中田中田小百合ちゃんって言ってたな。健二君って言う弟と一緒に来てた。もしかして、知ってる?

「いえ……、小百合さんって言う人とは、会った事が無いです」

「……そう。そうか、知らないのか。あ、いや、もしかしたらね、知ってるかなって思ったんだけど」

――健二なら知ってる。恵はそう言い掛けたが、しかし、その事に関して、深く訊かれるのが嫌だった為、話すのを止めた。恵は思わず避けるように発した。

「あの……、そろそろ帰って良いですか?

「あ、うん。ごめんね、呼び止めて」

「いえ、別に良いです。それじゃ」

「ああ、またね」

――やっぱり違う、この人じゃない。

恵は、家に帰ってから小百合に関して気持ちを整理しようとした。出来なかった。

だが、とりあえず恵は、実おじさんたちが、「気味が悪い」とは言うものの、彼に対して何かしら疑いの目を向けない理由がこれで分かった。彼は誰の目からも堅実に見えたのだ。健二や小百合さんを不幸にしたのはあの人じゃない。

「それじゃ、一体誰がやったって言うの?

 恵は独り言でそう自分自身に問いかけた。

守と出会った日から三日経過した夕方。恵はこの日もお気に入りの場所で砂浜を眺めてから、学校から帰るつもりで居た。お気に入りの場所に着いた。今日は誰も遊んでいないようだ。砂浜は恵一人しかいない。久しぶりに、砂の上を滑る小波の音しか聞えなかった。今日は本当に心が落ち着く。そう思った時だった。

「おや、また会ったね」後方からいきなり男の声が届いた。恵は座ったままの状態で振り返った。山岸守だった。恵は彼がこちらに来て隣に立った時、言った。

「こ、こんにちは」

「こんにちは。此処、よく来てるの?

「あ、はい……」

「そっか。本当に、ここの砂浜は綺麗だね。久しぶりに観ると尚更癒される」

恵は山岸守の手元を見た。両手に食料品の詰まった買い物袋を二つ三つぶら下げている。彼は学校の向こうにある商店で、買い物した帰りの寄り道なのだと言う事に、恵は直に気が付いた。

「久しぶり、なんですか?

「うん……」

そう言えば、恵がこの島に着てから、このお気に入りの浜で一度も守を見た事が無い。「そうなんですか」恵は彼が久しぶりと言った言葉に嘘は無いと頷けた。

「……実は言うと、僕は体が弱くてね。それで、調子の良い時以外は余り外に出てないんだ」

「え?

 恵は正直驚いた。それ位に、この山岸守という男は、誰の目から見ても健康そうに見えた。恵は訊いてみた。

「あの、何処か悪いんですか?

「うん、まあ、ちょっと肺をね。でも、最近は調子が良いよ。一昨日、君とあった日から、なんだかずっと体の調子が良い」

「そうなんですか……」

少しだけ間が空いた。守がニコッとした顔でこちらを見つめている。恵はなんだか少しだけ恥ずかしくなった。

「あの、私、そろそろ帰ります。それじゃ」

「ちょっと待って。家、近所だし、一緒に帰ろう。送っていくよ」

恵は特に断る理由がなかった為、一緒に帰る事にした。辺りは蜜色に変色し始めている。夕暮れはもうすぐだった。守が歩きながら話しかけてきた。

「恵ちゃん、でいいかな? 恵ちゃんは中学二年か三年生?

「はい」

「やっぱりそうか。いや、見た目はもうちょっと年上に見えるんだけど、此処には高校が無いらしいからね、直に分かったよ」

恵はこれまで同年とは比べ物にならないほどの体験をし、また、彼女の中には倫子と知子の魂が宿っている。その為、実年齢よりも年上に見えるのは当然の事だった。

「住んでるのは金城さん宅だよね? 向こうの人、どんな感じ? 優しい?

「はい、とっても明るくて優しいです」

「そっか、いいなあ。楽しそうだね。僕なんか一人暮らしだし、余り外に出ないから、結構寂しい思いしてるんだけど、本当に家族って良いよね」

彼は一見閉鎖的で怪しく思えるが、実はそうでは無い。恵は完全に守に対する見方をこの時変えた。それから、守の住む家の入り口まで、二人の会話はしばらく続いた。

「それじゃ、ここで」きり良く住む家の門前で話が終わってから、彼が発した。

「はい。ありがとうございました」

「いや、かえってこっちが礼を言いたいよ。久しぶりにまともに人と会話したからね。ありがとう」その時だった。

「うっ!

 守が急に屈みこんだ。何やら胸のほうが苦しいようだ。恵は慌てて守の側にしゃがみ、彼の様子を伺った。

「どうしたんですか?

「うう……」

「鼻血が出てる! 大丈夫ですか?

「だ、大丈夫だよ……」

「今、誰か人連れてきますね。待ってて下さい」

「いや、本当に大丈夫。大したことないから、人、呼ばなくて良いよ。それより、悪いけど、ち、ちょっと手伝ってくれないか? これを中まで運んでくれると助かるんだけど……。大丈夫、お、おじさんは一人で歩けるから……」守は、苦しくした際に手元から落とした、食料品等が沢山に入った幾つかの買い物袋を指差した。

「分かりました。玄関、開けますね。鍵、ありますか?

「いや、鍵は、何時もしていないんだ。この島に、泥棒とかは居ないと思ってね。た、助かるよ」

「いえ、たいした事じゃないですから」

二人は家の中に入り寝床のある部屋へと移動した。着くと直に守は仰向けに横になった。彼はまだ辛そうな顔をしている。恵はどうして良いのか分からず、とりあえず、買い物袋を置いて布団の横に跪いた。守が苦しそうに言った。

「め、恵ちゃん。わ、悪いけど、台所から水入れてきてくれないか? あと、向こうの卓袱台に薬が色々おいてあるから、それ、全部持ってきて欲しい。ごめんね」

「はい。ちょっと待っててくださいね。直持ってきます」

「ありがとう、助かるよ」

守は恵が持ってきた多量の薬の中から幾つかを手にし、そして、それを水と一緒に一気に飲み込んでから再び横になった。しばらく様子を見てから守が発した。

「少し痛みが退いて来た。ありがとうね、今日は本当に助かったよ」

「いえ。痛み、退いてよかったです」

「もう大丈夫。後は一人で大丈夫だから、恵ちゃん、そろそろ帰った方が良いんじゃないかな? ほら、もうじき日が暮れそうだし、早く帰ったほうが良い」

「あ、はい。それじゃ、そろそろ帰りますね。本当に大丈夫ですか?

「うん、今日はありがとうね」

「いいえ、別に。それじゃ――」

 恵はそう言うと、立ち上がって出口の方向へと歩こうとした。

「恵ちゃん」

 守の声に、恵は足を止めて振り返った。

「はい?

「やっぱり、少しだけ、少しだけ話していかないか?

「あの、でも……」

「ちょっとで良いんだ。ちょっとだけで良いから、もう少しだけ話したい。気が紛れるからね。駄目かな?

「分かりました。それじゃ、もう少しだけ」

 恵はそう言うと、再び元の位置に跪いた。

「ありがとう。ごめんね、もう遅いのに」

「いえ。もう暗くなりそうだけど、ちょっと位なら大丈夫です」

「ありがとう。それじゃ、何から話そうか。そうだな、恵ちゃんの事について訊いて良いかな?

「はい」

「此処に来た事についてなんだけど。恵ちゃんは」

「なんですか?

「恵ちゃんは上村だから、金城さんの娘ではないよね? 従妹か何か?

「いえ、違います。あの……、里親で……」

「あ、ごめんね。そっか、小百合ちゃんと同じで、里親で着たのか。そうか」

「あの、小百合さんの事、余り知らないんじゃ……」

「最近、名前をちょっと忘れていただけで、彼女の事を余り知らない訳じゃないよ。むしろ、彼女の事は良く知ってる。何年か前に、ちょっと騒ぎになってたからね」

「騒ぎって……、もしかして」

「恵ちゃん、知ってるの?

「はい……」

「そっか、知ってるのか。とりあえず、この話は止めよう。暗くなっちゃうからね」

 一瞬、その場の空気が重くなった。二人とも口を閉じている。

「あの……、守さんは、どうして此処に着たんですか?」話を逸らすように恵は訊いた。

「ああ、僕ね。僕はね」

「はい」

「僕は、病気を癒す為にこの島に着たんだけど、海眺めたり泳いでみたり海中散歩したりできないんじゃ、何のために此処に滞在してるのか分からないね。いや、本当に間抜けだよ」

守が急に暗い顔になった。守は話を続けた。

「余命宣告されててね。死ぬ前ぐらい行って見たかった所で過ごしたいなって。それでこの島へ滞在しに着たんだ。直に気に入ったよ。貸家はおんぼろだけど、家賃は本当に安いしね」

「余命、て……。あの、ごめんなさい。余命って……後、どれ位なんですか?

「あと一年……」

「え?

「て言われてから、何だかんだで、もう何年も生きてる。本当に余命宣告なんていい加減なもんだよ。それか、この島に着て寿命が延びたのかもしれない。まあ、それは良くある話らしい。環境を長閑な所に変えるとね、のんびりしてる分、命も長くなるんだろうね」

「それじゃ、この島に着てよかったですね」

「そうだね」

「もう、しばらくはこの島に居るんですか?

「うん、そのつもりだよ。僕は独り者だからね」

一つ間が空いた。守が続けた。

「恵ちゃんは、中学卒業したら島から離れるのかな?

「いえ、まだそんなこと考えたことないから分からないです」

「そっか、分からない、か……」

「あの、それがどうかしたんですか?

「いや、ちょっと小百合ちゃんのこと思い出してね」

「え?

「実は小百合ちゃんとも、こんな感じで何度か話した事があるんだ。その時、同じ質問をしたんだけど、彼女は施設に戻って、そこから高校へ通うと言っていた。……生きていれば、今頃、高校三年生かな? 早いな、何時の間にかそんなに経ったのか」

「あの、良かったら、小百合さんの話し、聞かせてくれませんか?

「あ、うん、構わないけど。大丈夫?

「はい、大丈夫です」

「そうか、分かった」

 守はそう言うと布団から起きた。

「あの、寝たままで大丈夫ですよ」

「いや、もう大分痛みは退いてるから大丈夫だよ」

 そう言って微笑む守を見て、恵はホッとした。守が小百合に関する話しを始めた。

「あれは多分、小百合ちゃんがこの島に着て大分落ち着いた頃かな? 初めて彼女に会ったのは恵ちゃんと会った時と同じで玄関先でだった。偶然にね。僕は島に来てまだ浅かったけど、小百合ちゃんを一目見た時に、昔からこの島に居る人間じゃないなって事は分かった。恵ちゃんと一緒で、あいさつに独特の訛りが無かったからね。後、顔立ちとかがやっぱり他の島の子供とは違ってて、ここの島の人間よりは白肌で少し狐顔のすらっとした体型の子でね。いかにも弱々しい感じの女の子って感じだったから。でも、それは向こうも同じで、僕の事を直に地元の人間ではない事に気づいて居た。それでね、何度か挨拶を交わしてる内に、お互いに知らない事を話すようになっててね。僕の地元が関東だって言ったら、小百合ちゃんは興味を持ってね。今みたいに話をした。それは、ちょうど今日みたいに倒れた日だったな……。それからは、毎日のように家に見舞いがてら遊びに来るようになってね。今日の恵ちゃんみたいに、ずいぶんと助けられた」

「毎日見舞いに来てたんですか?

「うん、ほぼ毎日ね。でもね、突然、急に来なくなった。驚いたよ、まさか自殺するだなんて……。日ごとに何となく暗くなってる事には気付いていたんだけどね。彼女が心から苦しんでる事には気付いてあげられなかった」

「それで施設に戻ったんですね……」

「健二君の事? いや、彼の場合、それだけじゃないんだ」

「どう言う事ですか?

「小百合ちゃんが恐らく何かあってから、彼はその何かに気付いていたんだろうね。あれは酷い荒れようだったって商店の人から話は聞いてる。君の住む金城さんとね、何度も口論になってたらしい。しまいにはね、小百合ちゃんが居なくなって発見されたその日に、健二君が実さんの腕を包丁で傷つけたらしい。幸い傷は言わなければ分からない程度らしいんだけどね。恵ちゃん、気付いてた?

「いえ、腕に傷があるなんて気付きませんでした」と、その時、恵はふと夢で聞えた言葉を思い出した。「傷がある」と小百合が言っていたあの夢の事だ。

まさか! 初めて想像する気味の悪い実の顔が、恵の頭の中に浮かんだ。

「そうか……。まあ、それでね、健二君はその後高校進学と言う理由で施設へ戻されたんだよ」

恵は少し目眩がした。それは信じられないと言う事実が起こさせた症状だった。彼女は呟くようにして言った。

「私、夢で会ったんです」

「夢で会った? 誰に?

「小百合さんです。でもあれは違う、もしかしたら、あれは本当だったのかも……」

「どう言う事だい? もしかして、夢が夢じゃなかったって事かな?

「はい……」

部屋は言葉なく無音になった。この時、実の裏切りと、それに対する失望が、恵の心を支配しようとしていた。恵は話を続けた。

「最近、夢で小百合さんの声を聞いたんです。その時、小百合さんは傷があるって言ってました。もしかしたら、小百合さんに酷い事をしたのは実おじさんかも。でも、まさか……」

「酷い事? どう言う事か、話してくれないか」

「健二が、いえ、健二さんが言ってたんです。小百合さんはずっと犯されて、壊されて、盗まれたって。生贄と同じで、欲求で飢えた人間に犠牲にされたって……。夢でも同じ様なこと言ってました。まさか、実おじさんがだなんて。でも、顔は違ってた。小百合さんを犯した人は会った事の無い人だったんです」

 混乱した様に恵は言った。

「この事は誰かに話したのかい?

「いえ、まだ誰にも話してません……。私、ずっと迷ってて……」

「そっか。健二の野郎、其処まで分かっていたのか」

 守の話し方に変化が見られた。恵は何か違和感のような物を感じた。しかし、今の所それにはっきりとした答えは見つからなかった。守は続けた。

「健二は小百合から何かを聞いて、話した。そして君は、知ってはいけない事を知ってしまった……。どうやら、恵ちゃんの口も今すぐに封じる必要があるみたいだね。まあいい、どっちにしろ、早かれ遅かれ君は僕の体になる予定なんだ。構わないさ」

「え?

 恵は更に混乱した。

「傷があるのは、何もこの島に一人だけじゃない」

「え? ど、どう言う事ですか?

 恵の体が危険を自然と察知し、硬直した。

「小百合をやったのはこの俺さ」

「え? 嘘……、でも、傷が……」

 恵は次第に体が震えだした。

「傷は多分、これの事だろ?

 守はTシャツを脱ぎ捨てた。胸に手術らしき跡が残っていた。恵は思わず目を見開き、そして完全と震える以外に微動だに出来なくなった。それは、小百合を犯した犯人は守だと分かった瞬間だった。

「あいつは本当に物分りが良かった」

 そしてまた、夢で見た男が放った声と今の守の声は完全と一致している。恵は守の顔を見た。そこには、恐ろしく薄気味の悪い顔に豹変した守があった。

「小百合は俺が密かに酷い病気持ちだって事気にして、犯人が誰だって事を皆に黙って抱かれてくれた上に、しまいには勝手に一人で死にやがった。ストックホルム症候群って奴でいかれちまったんだな。何回も無理やり犯したのに看病続けてくれてよ……。それとも、まさか本気で惚れちまってたのか? ハハハ、そんな、まさかな」

守がいきなり恵に飛び掛り、体を横に倒してその上に乗っかった。

「い、嫌! どいて! 放して!

 守は恵の言葉を耳に通す事無く話を続けた。

「俺はあいつが好きだった……。たまらなくな。この意味、分かるか?

「う、嘘よ! 名前も思い出せないほど軽く考えていた。そうでしょ? 酷い人! 最低よ! 貴方なんかに好きだったなんて言われても迷惑だわ。もうどいて! 放して! !

「どくもんかよ。お前はもう俺から逃げられない。小百合と同じでな。今度はお前があいつの代わりになるんだ。良い話だろ? ああ、良い匂いがする。この匂い、たまらない……」

「い、いや! や、やめてっ、やめてください!

「お前も此処が感じるんだろ?

 そう言いながら、守が恵の首筋と耳元を何度も舐め回した。守は倒れた恵の上に乗っかり両手を力ずくで掴んでいる。恵は思い切りに力を入れて抵抗するが、息が切れるだけで自由に動けないで居た。ハアハアと呼吸が混乱している。

「どうだ、感じるか? 小百合と同じ様に興奮しやがって。若い女は皆同じだな」

「ち、違います! お、お願い、放して!

「何言ってるんだ。もっと気持ち良いのはこれからだ」

 守が今度は腰の上に乗った状態で恵の制服を脱がせようと両手を離した。恵はそうはさせまいと抵抗するが、腰から下が自由にならず、うまく力が入らない。守は途中でボタンを一つ一つ外すのが面倒になり、思い切りにボタンを剥ぐ様にして制服を真ん中から破って開いた。恵のブラジャーで覆われた両胸が露出した。守は更にブラジャーを脱がせようと、恵にくっ付き背中に手を回した。ホックが外れた。すかさず、今度は邪魔物を脱がせようと、片方ずつ力ずくでストライプを肩からずらし、そして、とうとう完全と恵の体からブラジャーを取り上げた。恵の両胸は完全に露出した。

「綺麗な胸、してるじゃないか。もう大人だな」

 恵の両腕は、今、ストライプをずらすのに一杯だった守の両手から自由となっている。恵は咄嗟に両胸を隠した。

「おっと、まだ抵抗する気力が残っているのか。仕方ない奴だな」

そう言うと、守は力ずくで恵の腕を退かした。恵の綺麗で若い乳房が再びと露出した。守が今度は、顔をゆっくりと露出した胸へと近づけてから、桃色の乳首に唇を当て、それから、とても愛しそうに、勃起した先を舌で舐めてから口の中へと含んだ。そして官能的に濡れた桃色なる乳首の全体を思い切りに吸い込んだ。その瞬間だった。恵の脳に、姉・知子と徹の間に起きた出来事が何重にも巡った――

平成元年の二月八日の旧正月を終えかけた深夜から、徹による上村家長女・知子への性的暴行は始まり、そして、悲しい事に、初めて知る性のぬくもりと、これから深まり行く強制的な快楽と共に、彼女の心は徐々に崩れ去り、同年四月。高校三年となった知子は、遂に徹に対して完全と抵抗なき性的奴隷へと化した――。その出来事が、今、この場にいる恵を感情一杯に苦しめる。恵は耐えられず大声を発した

「嫌!

 その大声は、遮られた窓と壁から通る様に、辺り一帯にまで不思議と響き渡った。

「誰か、誰か助けて!

その直後だった。家の外で恵の帰りを心配しながら待っていた実が、守の家の玄関の扉を、音を立てて横に思い切り開いた。実と恵の目が遠くで合った。

「恵!

 実は声を大きくしてそう呼ぶと、土足で玄関に上がり、守に思い切り飛びかかった。

「この野郎!

 大の男が病持ちの守を取り押さえる事は容易だった。

「恵! アイヤー、心配したよ。大丈夫ね?

 恵美もこの時、後から駆け付けていた。恵はこの事件後、実を少しでも疑った事実を思い切りに恥じた。

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