連載小説 愛するということ 第二章 10

 母は自分のせいでこの世から完全に消えた。知子はこの日も自分を責め立て号泣していた。何処にもやりきれない想いが今夜も彼女をそうさせたのだろう。残されたその他の人間が「貴女のせいではなく、貴女の為に」御母さんはきっと何処かでまだ生きていますよ」等と慰めるが、その優しさがあろう事か彼女にとっては更なる仇打ちとなり、涙は余計に朝まで止む事が無かった。

 夜が明けた。太陽が今日もゆっくりと青空を高く昇る。窓の外から心を集らせる様々な命の鼓動が聞こえる。今日も相変わらず鳥の声がとても煩く、そして気持ちよく、知子の耳へ高らかに届いた。こぼれ日が洋風の窓から知子の寝室の中へ差し込む時、彼女は何か悟りを開いたかの様に涙を止めた。そして知子は決意した。

「お母さん。私、将来お母さんの様な“ユタ”にきっとなってみせます」

 消息を絶った倫子の葬儀は当然行われていない。
 『上村神霊経治所』の長は一番弟子の沼田由美子が、知子と恵の内、どちらかがユタとなり一人前になるまでという条件付で引き継ぐ事になった。しかし本音は彼女らをこれ以上巻き込む事が果たして師匠の望みでは無い様な気がしてならない。また将来一番の権力者となるであろう知子は今回の事件でこの世界に足を踏み入れる事は、恐怖によってもはや不可能だろうという気持ちで一杯だった。その為、後日、知子直々に修行の申し出があった際、由美子は非常に驚きの色を隠せなかった。一般的に考えても若干十四歳そこそこで申し出をする者は絶対に居ない。ましてやこの子は既にこの世界の恐ろしさと辛い悲しみを肌で体験している。しかしそれと同時に彼女ならきっと自分が将来懸けても絶対に辿り着く事が出来ない、師匠と同じ、いや、それ以上の力を手に入れる事が出来るだろうと感じ取っていた。
 あれから由美子により“霊媒師の見習いへ課せられる修行日程”が言い渡された。それを知子は毎晩、夜の八時頃まで行った。修行日程表では休日以外は通学の事を考慮し、“経読み”は盛り込まれては居なかった。そしてまた恵も友人に乏しく今まで休日と言えば知子が子守するようにして二人一緒だった事を理由に、由美子は休日のみ課せられた“経読み”以外の日程を空白とした。
 知子は第二弟子らは未だに恐れその一線を越える事が出来ないで居る正式なる“ユタ”となる為の過程である『成巫儀礼』のラインを若干十四歳の若さで既に越えていた。その普段聞き慣れない『成巫儀礼』とは“巫病の発症”の事を指し、それは一般的に正式な“ユタ”になる人間=霊媒師は、まず生死に関わる事故や肉親の不幸などをきっかけに“カンダーリィ(神倒れ、神垂れ)”と言われる原因不明の体調不良、いわゆる“巫病を発症”するとされており、信仰者の間では「これはユタとなる為の神からの命令」だと考えられていた。
 何故に二番弟子達が何時までも倫子に認められて居なかったかはこれが一番の理由だった。このラインを自然に迎え越える事が出来なければ術など覚えた所で何の効果も発しないわけである。
 『ユタ』には不思議が多い。
 実はこの国の大元であると伝わる『邪馬台国』は沖縄だと言う説がある。そしてその土地が邪馬台国とする「魏志、倭人伝」の中に、『ユタ』と関係する興味深い事項が数々ある。
 “ユタ”の語源は“ユダ”であり、これはキリストを売った“ユダ”から来ている。古代キリストの時代、迫害から逃れたセム系ユダヤ人が神に導かれ、この海の果ての地、つまりは沖縄まで辿り着き、そしてそこで新しい国が誕生した。『邪馬台国』である。邪馬台国伝説にある皆を統一したとされる『卑弥呼』は、『日巫女』の事を指し、“ユタ”つまりは“巫”の大元は卑弥呼であったと言われている。

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