無料小説 処女作品@「愛するということ」第二章 =7=

母・倫子は、沖縄では「ユタ」と呼ばれる霊媒師の中でも特に権威のある立場で、依頼の電話が引切り無しに鳴るほどに、とても多忙な日々を過ごしていた。その為、強力な結界が張られた神社のような造りの大きな除霊所や母屋などに居る事がほとんど無く、特に最近では夜中にかけて、一刻を争う緊急な除霊の為に外出を余儀なくされていた。それほどまでにこの島はユタの存在を昔から崇め頼りにして来た。食事や各建物の掃除などの管理はいつも弟子や家政婦の仕事だった。この日の夜も、料理の上手い家政婦の一人が彼女らの夕食を用意していた。彼女達は、多忙により親子の触合いは幼稚の頃と比べて減ってはいたが、とても倫子に溺愛されていた。父親こそ居ないものの、家計はとても恵まれていたので、倫子は姉妹が欲しい物などあれば何でも買ってやり、食事に関してもなるべく贅沢なメニューにするよう家政婦に指示していた。倫子は自分の職業で彼女達が世間に対して肩身の狭い思いをしている事を知っていた。そして“ユタ”は、上村家の先祖代々から受け継がれた特殊な能力であり、自分の人生もまた同じ様なものだった。彼女達の寂しさは良く知っていた。長女・知子を出産した際、“ユタ”と言う職を辞めようか迷ったしかし、この能力を放棄する事は出来なかった。何故なら、この能力は大人になればなるほどに、普通見えるべきではないとても恐ろしい物体が嫌でも余計に見えてくるからである。ガマの結界の件もある。やはりこの状況ではもはや普通の生活は送れない。倫子は、もうこれは“神から与えられた宿命”だと諦めるしかなかった。倫子は、恵たちも何時かはそうなるであろうと言う事に関して、身ごもった時から確信を抱いていた。二人の娘共に何度も堕胎しようか迷った。しかし出来なかった。結界等に関しては、自分が他界する前にでも弟子跡を継がせれば良い。が、しかし、彼女には身ごもった胎児を堕胎する事がどうしても出来なかった。恵が小学生に上がる頃、倫子は一人思った。やはり生んで良かった。しかし倫子はこの時既に、何か不幸の前兆なる“静かで音の無い西風”を、心の何処かに受けているのを感じて居た。倫子はこの日の朝も、母屋の一室にある仏壇で御経を唱えながら彼女らの無事を念じていた。不吉な何かは、とても近くに居る。倫子は最近密かに人知れずおびえ始めていた。

「ねえ、お姉ちゃん」

 恵が銀色のフォークをくるくると空中描くように遊ばせながら発した。

「何 あっ ちょっとまって。今、良い所だから」

 姉の知子はゆっくりと食事をしながらテレビに見入っている。今、最も人気のバラエティー番組が始まっていた。

「今日、お姉ちゃんも見たんでしょ?

 この言葉を聞いた瞬間、知子は全身を硬直させたのを恵は悟った。

「何が?

 知子は何食わぬ素振りで恵の目をチラリと見つめ、視線をテレビに

「だ・か・ら、兵隊さん」

 知子の素振りを注意深く伺いながら恵は話した。

「あの人さ、何処から来たのかな?

「知らない。私は見てないから。気のせいじゃないの? 多分、芝刈りのおじさんよ。ほら、あのおじさんも兵隊さんみたいな格好してるでしょ? 多分そうだよ」

 知子はその場しのぎでそう話したが、恵は嘘を付いている事を完全に察した。

「お姉ちゃんの隣にくっ付いて一緒に読書してたのに?

知子は再び硬直した。震えた手で持っていたフォークを皿の上に置いた。

「お姉ちゃん。隠しても駄目だよ。恵、チャッピーと一緒に見たんだから」

「だから違うってば! もうこの話はしないで。いい加減にしないと怒るわよ」

 知子は、無理やりに蓋を閉じるかの如くそう発した。

知子は十一歳になった頃から、母からガマの話しや霊的現象を、決して全てではないが、恵には内緒で密かに聞かされていた。そして万一、日本兵を見た場合は絶対に目を合わしてはいけないと言う事を話の最後に注意されていたまた、この類の怨霊と話をした場合、普通の人間ならば即座に魂を抜き取られ呪が移ると言う事も繰り返し聞かされていた。但し、怨霊などという何か特殊で異様な物体は、十二歳以上の人間でないと興味を示さないらしい。知子はこの時、既に思春期を迎えていた。十四歳だった。

ガマの周辺を包囲されていた沖縄戦没者の霊は、結界を越えて隣の森に日増しに現れるようになった。どうやら弟子達の知らぬ箇所で結界がほんの少しだけ破られているようだ。妖精の数も大分減ってきた。長の倫子ですら、特に最近多忙でろくに除霊所どころか母屋にも滅多に居なかった為、この事には今日まで気付いていない。正に、第二の結界内に居る恵以外の人間全てが危険にさらされている状況だった。しかし、知子は母・倫子には話さないで居た。二重に包囲してある結界の話まではまだ聞かされていなかったのである。つまり、結界の存在までは全く知らなかったの。知子は無視を続ければ何時かは居なくなるだろうと勝手に決め付けていた。だから周囲に相談するのではなく、一刻も早く“さ迷う日本兵”における“出来事”を、忘れる事に専念した。しかし駄目だった。あの瞬間から男は、誰も周囲に居ない時間だけだが、知子に完全に纏わりついた。何故かは分からないが、どうしても彼は彼女に存在を気付いて欲しいようだった。そして沈黙は、結界が破壊され始めてから三日目の今夜、遂に破られた。

 

最適なギフトをご提案。失敗しない贈り物はシャディで

旅のお土産・お取り寄せサイト「JTBショッピング」

人気&有名店のラーメン・つけ麺をお取り寄せ 宅麺.com

コスメ、香水、ヘアケア、アロマの激安販売!ベルモ

Please Login to Comment.

CAPTCHA