無料小説 アマチュア時代作品 @東京沖縄(1)

東京沖縄

著者:滝川寛之氏

 博史は地元沖縄の公立高校を卒業した後、東京の建築屋へと出稼ぎに上京していた。

 羽田空港からモノレールを乗車するときは大変だった。何せ電車という物は沖縄では見かけたことがなかった。その為、ホームをうろつくばかりか切符を購入するのでさえもおどおどとしており、心臓の鼓動は非常に高鳴っていた。

なんとか寮に着いた。ここまでの道しるべは沖縄で親から貰った地図だけだった。しかしながら、当初、これが冷遇扱いだと言う事に博史は気付くことが暫く無かった。

「ごめんください。誰か居ますか? ごめんください――

 博史は何度かそう言葉を発した。寮はコンクリート造三階建てで中々大きかった。

玄関口から横手に食堂があった。管理人室は日曜と言う事で誰も居ない。博史は再び声を上げた

「ごめんください。誰か居ますか?

 するとどうだろうか? 食堂の扉を開いて人が出てきた。

「あいや~」

 そう言って食堂入り口に設けられた長いのれんから顔を覗かせたのは、どうやら東南アジア系顔の小柄な大人だった。肌は土色に逞しく見えた。

「あの、ごめん下さい」

 博史はたじたじとしながら挨拶をした。小柄な大人は言った。

「あいや〜、わたしあまりにほんごわからないよ。ちょとまって」

 難しそうに日本語をしゃべる小柄な大人は、そう発しながら頭をかりかりと掻いた。博史は訊いた。

「ああ! やっぱり海外の方ですか?

「かいがい?

 小柄な大人は不思議そうな顔をした。

「あの、外国人ですよね?

「あいや、あなた、わたしばかにしてるあか? おこるだど!

 小柄な大人は目を大きくしてそう言った。

「え? 馬鹿にしてませんよ。あの、中国人ですか?

 博史は勘でそう発した。

「台湾人あるよ。中国人じゃないお! やぱりばかにしてるあるか?

 小柄な大人は不慣れな日本語で一生懸命怒っていた。それが博史には愛敬に見えて何だかおかしかった。

「ちがいますよ! 参ったな〜。あの、名前は?

 機嫌を何とか取ろうと博史はそう訊いた。

「名前あるか?

 きょとんとして台湾人は言った。

「はい」

 博史はうなずいた。

「あんたの名前なに?

「博史です」

「どこ? どこ住んでる?

「あ、沖縄から来ました」

「沖縄?

「はい」

「沖縄わたし友達よ!

 びっくりしたような顔をして台湾人は言った。

「え?

「沖縄台湾友達ね!

「ああ」

 博史は、なるほどと思った。

「名前なに? なに?

 台湾人は興味深げに訊いてきた。

「だから博史です」

「ああ、そうあったね。ヒロシ! よろしくよ!

 台湾人はそう言うと、博史の手を握ってきた。

「あの、名前なんですけど…」

 困惑しながらも博史は訊いた。

「ああ! 私、チョーね!

「チョーさんですか、覚えやすいですね」

「そうあろ」

「はい」

これで嫌なムードは払拭された。と、博史は思った。チョーが頬笑みながら発した。

「博史、ちょとまてて。外国人もうひとりいるだよ! ちょとまてて!」

 チョーはそう言うと慌てて食堂の中へと消えていった。

「ああ、はい……」

博史が玄関口で待っていると、チョーが誰か分からないもう一人の人物と話をしているのが食堂の中からわずかながら会話が洩れていた。博史がそれに合わせて聞き耳を立てるまもなくチョーともう一人の人物が共に食堂入り口から出てきた。チョーは言った。

「この人よ。キムさん、沖縄からよ! ヒロゆうあお。ヒロ、こっちキムよ!

「いらしゃいませー」

 チョーよりも少し大柄なキムは言った。日本語が余り話せないことが博史は分かった。

「こんにちは。あの、チョーさんと同じ台湾の方ですか?

「わたしー? わたしー、韓国からー、きたー」

「ああ! 韓国の方ですか」

 なるほど。と博史は思った。顔つきがチョーとまるで異なっていたため納得だった。

「ヒロ、今日なにしに来た?

 チョーが訊いた。

「ああ! そうだ。それ言うの忘れてました!

 いきなり名前を省略されていることに対して戸惑うことなく博史はお構いなしに言葉を発した。

「実は言うと今日からコチラの寮でお世話になるんですよ~! 会社の方から何か聞いてませんか?

 博史は二人の顔を同時に見てそう訊いた。

「なにも聞いてないあお!

 チョーが言った。

「オー! 部屋ー、どうするのー?

 キムが困惑した。

「205号室空いてますよね?

「空いてるあお。何で知ってる?」

 疑念の目でチョーは博史を見た。

「おー! ヒロ泥棒ねー!

 博史に指を差してキムは言った。

「泥棒有るか! 何で知ってる? 何で知ってるあお!

「違いますよ~! 聞いてたんです。ここ来る前に」

「本当あるか?

「本当です」

「もしかして仲間有るか? 仲間? キムさん! 仲間出来た有るよ!

「おー! ヒロー、仲間ねー!

「これからよろしくお願いします」

「よろしくね! ははは!

「よろー、しくー、ヒロー!

不安は払拭された瞬間だった。同時に博史に空腹が襲いかかってきた。”ぐぅー”と博史の腹が鳴った。それを察したチョーが気を利かせながら言った。

「ヒロ、お腹空いたあろ? 台湾料理あるあお! 食べてくよ!

「チョーさんのー、台湾料理ー、美味しいー」

「ありがとうございます。あの、せっかくだから頂きます」

 素直に博史はそう返した。

三人が食堂に移動した其処には、既に食い荒らされた台湾料理があった。

「ヒロ、まだ残ってる。食べるあお」

「はは……」

 博史は頂く事に対して少しだけ後悔した。

 席に座って食事の残り物を食べた。

「ああ! これ美味しい!

「美味しいあろ?」

「はい、美味しいです」

「遠慮しないで、もっと食べる有るよ!

「チョーさんー、料理ー得意ねー」

「何時も料理作ってるんですか? もしかして、自炊ですか?

「違う有るよ。今日は日曜日だから、寮母居ないよ。日曜日、自分たちで作るね」

「なるほど……」

 博史は納得した。

「日曜日ー、何時も台湾パーティー、でしょー?

 キムが言う。

「韓国料理美味しくない有る。台湾料理一番美味しいね!

 苦笑いしながらチョーは返した。

「韓国ー、チョーさんー、味合わないー」

 キムは博史を見てそう発した。

「日本料理はどうですか?

 チョーに訊く。

「日本料理、味薄いね! 美味しくないよ! 台湾一番よ!

「韓国ー、もおいしけどなー」

 首をかしげながらキムは呟いた。

「でも、沖縄料理美味しよ! あじくたー!

「ああ、あじくーたー(味が濃い)ですね? よく知ってますね!

「沖縄人もう一人いるだほ」

「えっ? 沖縄の人、他にいるんですか?

「健一言う有るよ」

「健一さんですか……」

「施設入ってた子ねー。性格くらいだどー、良い子ねー」

「206号室にいるあお。後で一緒、行ってみるね!

「206号室って、隣じゃないですか!

「そうー。分からないことあるー、健一訊くー。OKねー!

 キムがにんまりとしてそう言った。

食事後、皿洗いなどをした後に、三人で博史がこれから毎日を過ごす事になる205号室へと階段を上って行った。途中、通路には壊れた冷蔵庫などがほっぽられていた。

「ここあお」

 チョーが部屋番号を指差して言った。

「ここですか〜」

 感慨深く博史が呟いた。

「中ー、入ってー、見るー」

 キムが博史の肩を推してそう勧めてきた。三人、中へと入った。

「意外と綺麗ですね」

「荷物おいたら、健一所行く有るよ」

「はい」

博史は荷物を置いてから窓を開けてみた。実に無機質な光景が其処には映し出されていた。三人は205号室から206号室のドアへと移動した。チョーが206号室をノックした。

「健一、居る有るか?

 チョーが少し大きな声で発した。すると中の方から声が聞こえてきた。

「はい?

「少し話があるあお」

少しだけ物音が聞こえた後、ちょっとしてから206号室のドアが開いた。

「はい」

 健一という男が顔を出した。

「ああ、健一、今日新し子来たね。沖縄子あるよ!

「え?

「こんばんは」

 チョーの後ろから博史が健一に挨拶した。

「……」

 健一は黙り込んだ。何だかその場の空気が悪い物に感じられた。それを払拭しようと博史が切り出した。

「あの、博史って言います。よろしくお願いします」

「……」

「あの……」

「ここは沖縄人の来る所じゃない。今すぐ帰るんだ」

「え?

「今すぐ帰った方が良い」

「そんなこと言われても……」

 博史は困惑した。無理もなかった。健一は自己紹介もせずに自室のドアを閉めた。三人はあっけにとられて、一瞬、何が何だか訳が分からなかった。チョーが博史に呟いた。

「あま気にしな方が良いよ」

「健一、今日ー、競馬ー、外れたー」

 キムがそう言ってこの場を誤魔化した。

「機嫌が悪かっただけですかね?

 そう言っておどけた態度を見せるのが博史の精一杯だった。

「そうよ! ははは!

 ぽんと博史の肩を軽く叩いてチョーは笑った。

「でもー、ここー、差別ー、凄いねー」

 チョーから瞬時に笑顔が消えた。キムが余計なことを言ったのは明らかだった。博史は訊いた。

「差別ですか?

「東京冷たいね! ヒロもお金一杯稼いだら直ぐ帰るあお」

「そーそー、すぐー、帰るー」

「余り良い会社ではないみたいですね……」

「……」

 二人はなにも言わなかった。

「なんだか今から不安です」

世界に1つだけのプレゼントなら!商品数3万点の「ギフトモール」

コスメ、香水、ヘアケア、アロマの激安販売!ベルモ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA