無料小説 アマチュア時代作品 @川辺にて(23)

「隆史!何処にいるの?

舞は大声を張り上げながら隆史の姿を探した。大きな倉庫が立ち並ぶ船着き場に到着した。だけれども、隆史の姿は無かった。舞は倉庫前に山のように積まれたコンテナなどの隙間をやたら探し回った。

「隆史!お願い。姿を見せて」

隆史はとうとう見つからなかった。舞は渋々船に戻った。するとどうだろうか、キッチンの方から物音が聞こえてきた。

「隆史? 隆史なの?

舞は食卓へと向かった。隆史は確かに其処にいた。

「もう!探したんだから。馬鹿!

舞はそう言っては涙ぐんだ。隆史は泣きながら二人で作った残り物のクッキーを、思い出を噛みしめるような仕草で大事そうに食べていた。

「舞なんか知るもんか! 俺のことなんかどうでも良いんだろ?

「違うの。聞いて隆史。あれは呪文のような物で匂いに反応しただけよ。妖精の女性はあの香りに弱いの。国王が好きとかそう言うんじゃないのよ」

「……本当か?

隆史は泣き止んで、そう訊いた。

「ええ、本当よ。信じて」

「なら、舞も食えよ。俺たちの思い出」

言うと、隆史は舞にレモンクッキーを差し出した。

「……その前にしたいことがあるの」

感慨深く舞が呟いた。

「なんだい?

隆史は首を傾げた。

「目を閉じて」

舞が恥ずかしそうにそう言った。隆史は言われるがままに瞳を閉じた。次の瞬間だった。舞が隆史の左頬にキスをした。

「後は真ん中だけね。ウフフ♪」

隆史は突然のことに昇天した。二人とも顔を赤く染めた。

「真ん中だけって……唇の事?

「そうよ。ウフフ♪」

「今すぐしたい! 舞、やってくれるかい?

隆史ははしゃいだ様子でそう訊いた。

「駄目よ! 唇は最後に取っておく物なの。だから今は駄目」

「それじゃ、いつかはしてくれるって事だよね? やった~!

「それは分からないわよ。隆史次第ね」

「なんだよ! ケチ!

「私の尻に敷かれてるくせに、嫌いだなんて言うからよ。……信じれなかったの?

「ああ、あのままあのスケベ国王の物になるのかと思った。実際そうだったろ?

「……そうね。隆史のおかげよ。ありがとう」

「なら、唇にキスが良かったなぁ~! やっぱり駄目?

「だ~め! ウフフ♪」

「そっか、仕方ないや! でも、良かった。目を覚ましてくれて」

「そうね。ミルクティーにする? アップルティー? それともストレートティーが良いかしら?

舞が隆史から離れてキッチンに向かいながらそう言った。

「ミルクティーが良いや! クッキー、もう少ないけど。あはは!

「ウフフ♪ 本当に食いしん坊なんだから」

熱々のミルクティーは、口の中でレモンクッキーと絶妙なハーモニーを奏でた。

しばらく談笑してる内にテイクらが帰ってきた。

「ただいま~」

三人が声を揃えてそう言った。

「うむ? ミルクティーの良い香りがするぞ」

「そうじゃの。食卓の方からじゃ」

三人はそう話し合いながら食卓へと来た。

「おお~! ご無事でしたか。姫様に隆史よ」

テイクが言う。

「ええ、この通り仲良くやってるわ」

「それは良かった。どれ、ワシらにもミルクティーを頂けないですかな?

「勿論。残りが少ないからまた作るわね。待ってて」

言うと、舞はキッチンに行った。

「隆史よ、心配しておったのだぞ。途中で投げ出して」

「すみません師匠。舞のあんな姿を見てたらつい……」

「フォーフォフォフォ! 仕方のない奴じゃの」

テルが会話に割って入ってきた。

「しかし、無事で何よりじゃ。国王め、今頃発狂しているに違いないぞよ、フォーフォフォフォ! 愉快じゃ、愉快じゃ」

「追い出されたの?

ミルクティーをこしらえて此方へと来た舞が心を読んでそう言った。

「そうですとも。まったく姫様だけが目当てだったのじゃったのだろうな。あのスケベ国王め、ざまあみろですわい。わっはっは!

テイクは大声で笑った。

「これも姫様の美貌のおかげじゃな。フォーフォフォフォ!

「美貌だなんて大げさよ。でも、ありがとう。素直に嬉しいわ」

「所で、今夜から明日にかけて船は嵐で大揺れしますぞ。キッチン回りは大丈夫ですかな?

「皿の事ね。大丈夫。心配しないで」

「それなら良かった」

「今日は御免なさいね。せっかく良い所で宿泊できたのに……」

「なあに、最初から船で寝泊まりする予定じゃったし、何も気にすることなどありませぬぞ。とにかく姫様がご無事で本当に良かった。それで十分ですじゃ」

セベアが優しくそう言った。

「どれ、寝るにはまだ早すぎる。嵐のことなど忘れて今夜も演奏会と行こうではありませんか。のう? 隆史よ」

「はい、師匠。演奏会かぁ……城の宴よりよっぽどマシですよ。なあ、舞」

「ウフフ♪ そうね」

「そうと決まれば、早速準備じゃの。フォーフォフォフォ!

演奏会は始まった。前同様に、曲目は順番に「ジュピター」「ハッピーデイ」「カノン」「カントリーロード」で、それは前とは比べものにならない位に、皆、上手に華やかなハーモニーを奏でた。しかし、最後の「カントリーロード」演奏の際、嵐の突風により船が大きく揺れた。

「きゃあ!

舞が足下をもたつかせて家具に体を打ち付けた。

「大丈夫かい! !

隆史が咄嗟にそう言って舞の所へと足を向けた。

「ええ、大丈夫よ。それにしても大分揺れ出したわね」

「今夜はこの辺にしときましょう。姫様、それで宜しいですかな?

テイクが言う。

「そうね。そうしましょう」

「なあに、嵐は明後日には去っておりますじゃ。一日の我慢ですぞ、姫様」

テルはそう言うと楽器を片付け始めた。

「約束通り、嵐が去ったら町をもう一度散歩しましょうね。隆史」

「うん!

「おやおや、いつの間にそんな約束をされたので?

テイクがにんまりとしながらそう訊いた。

「散歩の時よ。もう、テイクったらからかってばっかり……」

言うなり、舞は顔を赤らめた。

「フォーフォフォフォ! それでは今夜は眠りにつくとしよう。明後日が楽しみじゃ」

セベアが言った。

そして五人は大きく揺れる船の中、各部屋で眠りについた。

 次の日の朝を迎えた。相変わらず船は大嵐によって上下左右に揺れていて立ち上がるのさえ困難だった。この日の朝食は久しぶりにコックリの木の実だけだった。厨房には立てないことから、そうなったのだが、それに対して誰もが文句一つ言わなかった。

「今日はコックリの木の実だけで我慢してね。みんな」

「フォーフォフォフォ! 何も申し訳なさそうにする事はありませぬぞ、姫様」

テルが言う。

「そうじゃ、そうじゃ。元々はこの実だけで旅をするつもりじゃったのだからのう」

セベアが言った。

「ウフフ♪ でも一人だけは違ったみたいよ。テイク、そうでしょ?

「な、なにを馬鹿なことを言っておられるので?

つい、どもり気味にテイクは返した。

「旅の前、キッチンに沢山の食材を用意したのはテイク、貴方でしょ? ウフフ♪」

舞はテイクの心を読んでいた。今朝はしょんぼりとしている事も見透かしていた。

「フォーフォフォフォ! テイクめ。食いしん坊よのう。フォーフォフォフォ!

テルとセベアが同調して茶化した。

「ワ、ワシは只、何が起こっても良いようにだな、準備しただけじゃ。誤解するでない!

むきになってテイクは言った。それが精一杯の言い訳だった。

「それじゃ、舞の美味しい手料理がたべられるのも師匠のおかげなんですね! さすが師匠! 冴えてるや! あはは!

「うむ、そう言う事になるな。隆史よ、さすがワシの弟子じゃ。話が分かる」

「テイクったら、偉そうに言って。ウフフ♪……」

「しかし、あれですのう。これ程揺れていては、今日は一日何も出来ませぬな」

テイクが話を逸らすようにして言った。

「そうね。将棋もこれじゃろくに打てないでしょうね……。そう言えば本を幾つか持ってきてるわ。それでも読みながら暇を潰しましょう」

「小説ですか? それは良い!

「さすがは姫様じゃ。誰かさんとは用意する物が違う。のう? テイクよ。フォーフォフォフォ!

「ええい! せっかく話を逸らしたのにまだ言うか? こうなったら破門じゃ!

「何? 破門じゃと!? これしきのことで破門とは心が狭いのう。それならば、こっちから願い下げじゃ!

テルとセベアが同調して言い返した。三人共に怒りを露わにしていた。

「三人とも喧嘩は止めて!

舞が思わず喧嘩を阻止した。

「もう、こんな時だからこそ団結力が必要なのに……。三人共、少しは頭を冷やしなさい!まるで子供みたいよ。これじゃ、隆史の方がよっぽど大人に見えるわ」

少し呆れ顔で舞は言った。すかさず隆史が割って入ってきた。

「そんな事無いよ! 俺なんか小説苦手だし……」

「隆史には私が読み聞かせてあげるわ。もう、特別よ。ウフフ♪」

「ほんとに!? やった~!

「それならば、是非ワシらにも読み利かせてほしいものですじゃ。のう? テイクよ」

「そうじゃな。出来る事ならそうしてもらいたい。姫様、駄目ですかの?

「貴方達は大人なんだから一人で読みなさい。本当にもう……」

言って、舞は肩を下ろした。

「フォーフォフォフォ! 隆史がうらやましすぎるわい」

「まったくじゃ」

「それじゃ、私の部屋に来て本を選んだら解散よ。コックリの木の実は渡しておくから適当な時間にみんな食べてね」

「はいはい、分りました。姫様」

そうして、隆史を除く男達は舞の寝室で本を選んだ後、各自の寝室へと戻って行った。

舞と隆史は、彼女のベッドで二人並んで横たわり小説を読んだ。しかし、隆史には難しすぎる内容の小説ばかりで舞は困り果てた。そこで、舞は仕方なく格言集を隆史に読み聞かせることになった。

「愛せよ。人生において良い物はそれのみである――」

舞がジョルズ・サンドの格言を言った。

「それって、愛することだけが良い事って事?

隆史が舞に訊いた。

「そうね。そう言う事になるわ。でも聞いて、隆史」

「うん?

「愛にはね、色んな形があるの。喜ばしい愛、怒る愛、哀しい愛、楽しくてしょうがない愛。『喜怒哀楽』……この言葉知ってる?

「知らない」

「そう、まだ学校で習ってないのね」

「舞、その『喜怒哀楽』って言葉の意味はなんだい?

「人生は、喜び、怒り、哀しみ、楽しむって事よ」

「へぇ~」

「世の中の全てはその言葉で表現できるわ」

「なんだか凄い言葉なんだね!知って得したよ」

「本当?

「ああ、本当」

「それじゃ問題よ。喜ぶ愛はどんな愛でしょう。さあ、答えて」

「なんだよ! いきなり。ずるいぞ!

「全然ずるくなんか無いわ。隆史がどれだけ理解しているかのテストだもの」

「ちぇっ! まいったな~。もう」

「ほら、さっさと答えなさい!残り十秒よ」

「制限時間まであるの? まいったね、こりゃ」

「ブツブツ言わないの! さあ、早く答えて」

「はいはい、答えますよ。答えりゃ良いんだろ?

「そうよ、ほら」

「何か行事ごととかだろ? 結婚式とか、後、母の日とか」

「そうね。そんなところかしら。核心は衝いてるわ。でも、七十五点ね」

「なんだよ!……他にもあるのかい?

「どうかしら? 所で、母の日って言ったわよね?

「うん、それがどうかした?

「今年は何を贈ったの?

「今年は小遣いがなかったから、去年と同じで花と絵をプレゼントしたよ」

「花って、そこら辺に生えてる花でしょ?

「そうだよ。これでも一生懸命探したんだ。良い花を」

「私は責めていないわ。偉いなって思っただけよ」

「なんでい!

「ウフフ♪ まあ怒らないで。それじゃ、次の質問」

「ええ! まだ続くの? 勘弁してくれよ!

「格言の内容が理解できるまで容赦しないわ。次の質問は怒りの愛について」

「それなら簡単! 学校の先生やお母さんの叱りだろ?

「当たり。隆史はそんなに怒られてばかりなの? 妖精が見えるのに」

「少しだけだよ。真面目だからね」

「そう。それなら良かった。それじゃ、次行くわよ。哀しみの愛とは?

「これも簡単! 俺と舞のようなもんだろ?

「……」

舞は何も言えなかった。

「どうしたんだい? 舞。顔が泣きそうになってるぞ」

「気のせいよ。隆史ったら、馬鹿なんだから……」

言うと、舞は涙を指先で拭った。

「……俺が人間じゃなかったら良かったのに」

「何言ってるの。人間だから出会えたのよ、私達は……」

「……そうだね。本当に哀しいや。ええい! 俺まで泣きそうになってきたよ」

「それじゃ次。楽しい愛とは?

気を紛らわすようにして舞は言った。

「これも俺たちみたいなもんだろ? 違うかい?

「正解よ。これでこの格言の意味がわかったでしょ? 愛はとっても深いの」

「うん、分ったような気がする」

「気がするじゃ駄目よ! 良く理解しなきゃ」

「あはは! そうだね。やっぱり俺って馬鹿だ。あはは!

「ウフフ♪ 隆史ったら開き直っちゃって」

「それよりさ、次の格言行こうよ。楽しくなってきた」

「そうね。それじゃ次は――」

そうして二人は、時間を忘れて長いこと格言集に没頭した。

やがて次の朝を迎えた。昨夜は、舞と隆史は隣り合わせで眠った。それは、辱めのある初々しさが漂うようで、二人は寝付くまでに、かなりの時間を必要とした。先に起きたのは舞だった。嵐も静まりを迎え、キッチンが使えることから、彼女は朝食の準備に取りかかっていた。一日と言っても久しぶりに感じるほど昨日の時間は長く、舞は、その穴埋めを朝食に託していた。それは豪華な朝食だった。朝食の準備は整った。舞は皆を起こしにキッチンからフライパンと檜で出来た延べ棒を持って各部屋へと向かった。

「はいはい! みんな朝よ! 起きて!

フライパンを鳴らしながら舞は各部屋を回った。さすがにみんなはビックリして目を覚ましたのだった。

「今日は早いですのう。姫様」

「舞、もう少し寝かせてくれよ。昨日の揺れで少し船酔いしてるんだ」

みんながそうぼやくが、舞は一向に聞き入れてはくれなかった。熱いうちに朝食を平らげて欲しかったからだ。

「顔を洗顔したら食卓に来て。朝食の準備が出来てるわ」

そう言うと、皆、納得して文句を言わなくなった。

「今日の朝食はなんだい? 舞」

隆史が訊いた。

「見てからのお楽しみ。ウフフ♪ 今朝は豪華よ」

「それじゃ、俺、早く顔洗って来なきゃ」

張り切る隆史を見て舞はクスッと笑った。みんなが食卓についた。

「おお~! 今朝は豪華ですの。なんと!アップルパイまで付いておる」

テイクが興奮気味に言った。

「七面鳥のオーブン焼きとは、朝から豪華ですのう」

テイクとセベアが同調して言う。

「レタスで巻いて食べてみて。美味しいわよ」

「これはコーンポタージュだね? 美味しそう!

隆史が言った。

「私特製のスープよ。妖精の香りをエッセンスとして入れてあるわ」

「わあ!だからこんなに良い香りがするんだね!

「ウフフ♪ 香り付けと言っても汗なんかじゃないから安心してね」

「マカロニのサラダも美味しそうですじゃ。フォーフォフォフォ!

「さあ、みんな食べましょう!

舞はみんなが喜ぶ顔を見て素直に嬉しかった。

「いただきま~す!

言うなり、隆史はコーンポタージュから手をつけた。

「隆史よ、七面鳥のオーブン焼きも美味いぞ。ほら」

テイクはそう言いながら隆史の器にありったけの肉とレタスを盛った。

「ありがとうございます! 師匠!

そして、和やかな朝食はしばらく続いた。朝食も終わりを迎える頃、舞は隆史に言った。

「それじゃそろそろ散歩に出かけましょ。隆史」

「あっ! そうだった。町を散歩するんだったや!

「もう、忘れていたの? 酷いわね」

「御免よ! 朝食が美味しすぎてすっかり忘れていたんだ。御免!

「……本当に美味しかった?

「うん! 最高に美味しかったよ」

「ウフフ♪ それじゃ許してあげる」

「それでは、姫様。再出発は一時間後で宜しいですかな?

テイクが二人の会話に割って入ってきた。

「そうね。でも、なるべく早く戻って来るようにするわ」

「それでは三十分後頃になりますな。ワシも準備を急がねば。いやはや、ご馳走様でした」

テイクはそう言うと、幾つも括り付けたロープを外しに甲板の方へと向かった。

「さあ、隆史。急ぎましょう。旅の続きはもうじき始まるわ。ご馳走様」

「ご馳走様。うん、早く行こう!

そして二人も甲板へと出た。嵐は既に過ぎ去っていた。

「みんな急いでおるよのう。セベアよ。フォーフォフォフォ!

テルが言う。

「そうじゃな、急いでおる、急いでおる。フォーフォフォフォ!

セベアが同調して言った。

「ワシらだけはゆっくりと食事を楽しもうではないか。のう? セベアよ」

「そうじゃな、そうじゃな。フォーフォフォフォ!

食卓に取り残された二人はそう語り合った。

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