無料小説 アマチュア時代作品 @川辺にて(21)

晩餐会は夜の8時頃始まった。それは、部屋に招待されてから実にあっという間の時間を与えぬほど早かった。なにせ、国王への挨拶が大分遅かったためであったが、その時間の早さに一同心の準備という物が出来ていなかった。それは、慌てた様子で皆部屋を後にした。晩餐会に招待されたのは舞達だけで、他にはこの国の王族のみしか居なかった。

「やっぱり下心丸見えだよ」

隆史のその囁きが一同を納得させた。

「姫様、くれぐれも匂いに翻弄されませぬように」

テイクのその言葉が隆史には、この時正直分からなかった。

「此方にお座り下さい」

召使いの一人が言った。一同は席に座った。席に座るなり国王が挨拶を始めた。

「諸君、今宵は紹介したい者が居る。ジパング王国から来たという舞姫とその僕達だ」

舞達一同は立ち上がり一人ずつ自己紹介をした。

「一人は人間だが、害を及ぼす者ではないうえ、皆の者、安心するがよい」

舞に気を遣ったのか、国王はそう言って皆の者を安心させた。

「さあ、食事の後は客人のために宴と行こうではないか」

ディナーが次々と運ばれた。そのどれも豪華な食事だった。隆史は我を忘れてがむしゃらに食らいついた。舞が隣で言った。

「もう、隆史ったら。テーブルマナーを知らないのね」

「え? 俺ん家は箸しか使わないからそんなの分からないよ。でも、どれも美味しいね。今夜は最高だよ」

「まあ! 私の料理よりもこっちの方が良いの?

舞が意地悪に言う。隆史は思わず言い訳を口にした。

「舞の料理は格別。この料理とは比べものにならないよ」

「それなら良かった。ほら、ちゃんとフォークとナイフを使って」

舞はそう言うと、手本に行儀良く食事をして見せた。

「フォークが左でナイフが右手よ。ほら、こうして食べるの」

「ステーキ食べたことがあるから、それ位知ってるよ。ちゃんと食べれば良いんだろ?

「そう、行儀良くね。今夜は何時もとは違うから」

「分かったよ。まったく、何だか窮屈だなぁ」

「文句言わないの」

「はいはい」

「“はい”は、一回」

舞がぴしゃりと言うと、隆史はうんざりした表情になった。次に返した。

「はい、舞お姫様」

それは実に嫌みったらしく発せられた。

「もう、隆史ったら。後でゴリゴリの刑よ。覚えてらっしゃい」

「へへ~、そうは行くもんか! 逆にしてやる!

「まあ! まだそんなこと言えるの? 信じられないわ。とにかく、私の尻に敷かれているんだから、ちゃんと私の言うことを聞くのよ、隆史。ウフフ♪」

「ちぇっ!

隆史が舌打ちした。

「何か問題でもあって?

上から目線で舞は言った。

「あ!

隆史は不満混じりに言った。

「ウフフ♪ よしよし、良い子ね」

「ああ~! また子供扱いしたなぁ!

「だって、隆史はテーブルマナーも知らない子供ですもの。当然だわ。ウフフ♪」

「舞の真似して綺麗に食べれば良いんだろ? 簡単じゃないか」

「さっきまでがつがつ食べてたくせに。“おかわり”までして」

舞が呆れた顔をして言った。

「そう言われると困っちゃうな。あはは!

隆史は頭を掻いて笑った。

「ウフフ♪ でも、そんなところも好きよ」

舞は思わず本音を小声で口にした。隆史はそれに対して直ぐに反応した。

「えっ? 今なんて言った?

「何でもないわ。さあ、食事の続きをしましょ」

「誤魔化すなよ。今、俺のこと好きって言ったろ?

「そんなこと言ってません。もう隆史ったら馬鹿なんだから。ウフフ♪」

「何だよ! 何時も馬鹿にしてさ。でも悪くない気分。あはは!

そうして晩餐会は楽しい一時で無事に終えた。

晩餐会が終えると、国王の計らいで即席の宴が始まった。踊り子達が煌びやかに美しく舞う姿にテイクたちは翻弄された。舞と隆史は、そんなものはどうでもよく、只、酔いしれる人たちに合わせて踊り子達の舞を見ているだけだった。そして演奏会が始まった。演奏会が始まると同時に、国王が舞の元へと直々にやってきた。

「一緒にダンスでもいかがですか? 舞姫殿」

舞は正直困惑したが、断る理由を見つける事が出来ず、言われるがままに国王とダンスを踊る始末になった。隆史は嫉妬した。

「今宵は貴女にお会いすることが出来て大変光栄に思っていますよ」

国王がダンスを踊りながら舞の耳元でそう発した。

「それはありがたき幸せです」

舞は歩調を合わすようにしながらそう返した。

「所で、旅に向かわれている場所は一体何処かな?

国王が旅先について訊いてきた。

「南の孤島です。其処に人間にしか摘むことの出来ない花が咲いていると聞きまして」

「南の孤島? はて、もしやパロッグ諸島のことかな?

「ご存じないのですか?

「うむ、人間にしか摘むことが出来ない花が咲くという孤島は聞いたことがない」

「そうですか……。残念です」

「その当てのない旅によくぞ出向いたものだ。それとも、予言者の道しるべでもあるのかな? テルとか言ったな」

「はい、その通りで御座います。彼の能力で此処まで辿り着きました」

「なるほど……。これで人間を連れて旅に出ている理由も分かった。……彼のことはどう思っておる? 先ほどの晩餐会では、それは仲良く見えたが」

「彼は友達です。それ以上の関係では御座いません」

「なるほど……。それでは遠慮はいらぬな」

言うと、国王は突然と甘い香りを放しだした。それは、女性の生理的願望を芽生えさせる魔法のような物だった。舞は急に国王に対して翻弄された。それは、かなり危険な状態だった。遠くから二人を眺めていたテルが思わず言った。

「いかん! 姫様が香りに翻弄されておる。このままではあの国王に落とされてしまうぞよ」

「なんだと! あれほど香りには気をつけるように言ったのに」

妖精には求愛の香りを男が発することが出来るようになっていて、女はその香りを嗅ぐとたちまちに女性本能を擽られ惚れてしまうという特性があった。正に今の状況がそうだった。テイクらは焦った。

「何とかせねば、旅を続けることすら困難になる。ええい! 隆史よ、何とかせねばなるまい。姫様に声を掛けてくれ。お前だけが頼りじゃ」

テイクはそう言うと、殺しの呪文を唱える準備に入った。

「分かりました師匠!

状況を把握した隆史は一刻を争った。舞を誰にも渡したくない。その思いが彼の全身を駆け巡っていた。隆史は舞と国王の元へと来た。そして言った。

「舞、今度は俺と踊ろうよ。ほら」

隆史は舞の腕を引っ張るが、舞は一向に国王の胸元から離れようとはしなかった。今、舞と国王はチークダンスを踊っていた。

「舞、目を覚ませよ!

しかし、無情にも舞は瞳を閉じては、にこやかに微笑んでダンスを踊り続けた。

「人間よ、何を言っても無駄だよ。彼女はもう私の手中にある」

国王は誇らしげにそう言った。

「無駄なもんか! 舞、頼むよ。起きてくれよ」

だが、舞は目を覚ますことがなかった。隆史は感情が苛立った。

「舞、ほら行くぞ! こいつから離れろ! ほら!

舞の腕をぐいぐいと引っ張るが、舞は国王から絶対に離れようとはしなかった。

「舞……」

絶望に満ちた隆史は絶句した。隆史は思わず心底から叫んだ。

「舞なんか……舞なんか大嫌いだ!

隆史は涙を流しては踵を返してこの場を走り去った。それは、隆史と舞の関係がちりぢりに引き裂かれた瞬間だった。

「隆史!

テイクは殺しの呪文を唱える姿勢から元に戻して隆史の後を追った。追いつけなかった。

「予言では、こんなはずではないのじゃがのう……。はて、どうしたものか」

テルがテイクの後に続いて宴を後にした時、そう呟いた。

「ええい! 隆史の奴め。何処に行ったのやら」

途中で追うのを止めたテイクがテルらにそうぼやいた。

「救いの呪文でも唱えてみようかの? 流石に国王を殺すことなど出来はすまい。のう? テイクよ」

セベアがテイクの肩に手を置いてそう言った。

「……ああ、そうしてくれ」

がっくりとした表情でテイクは返した。

「では、一旦宴に戻るとしよう」

テルがそう言って、三人は宴の席に戻ることになった。席に戻るなり、セベアが救いの呪文を唱えて見せた。しかし、強力な国王の放つ甘い香りには到底敵わなかった。万事は休した。

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