無料小説 アマチュア時代作品 @川辺にて(19)

「どう? みんな、美味しい?

舞がにこやかに訊いた。

「姫様の料理に文句など言う奴などおりますわい。美味ですじゃ。フォーフォフォフォ!

テルとセベアが機嫌良く同調してそう言った。

「舞の手料理は最高だよ」

「まったくじゃ。隆史よ、良いことを言う」

テイクが隆史を褒めながらガツガツと食事を楽しんだ。

「本当なら昨夜から仕込んでおきたかったのだけれど……それならもっと美味しかったはずよ。でも良かった。みんな喜んでくれて」

「何も遠慮することはありませぬ。昨夜のティダ流星群は良かった」

テイクは遠回しに昨夜の隆史とのことを舞に言った。

「まあ! 見てたのね?

舞がテイクの心を読みそう言っては頬を赤らめた。

「本当に綺麗でしたよ。舞とティダ流星群が見れて良かったです。師匠」

隆史が遠慮することなくそう言った。

「うむ、正直で宜しい」

テイクは頷くと、にこっと顔を緩めた。

「フォーフォフォフォ! 仲の良い事は悪いことでは無かろうて。フォーフォフォフォ!

「テルとセベアまで見てたのね! まったくもう……恥ずかしい」

舞はそう言うと、みんなから顔を背けた。

「何も恥ずかしがることはありますわい。男と女、それが普通ですじゃ」

テイクは思春期の始まりとも言える舞に教えるようにして言った。だが実際は、舞は成長が人並みよりも大分遅いため、もう何十年もこの思春期という物を体験している。今更教える必要など無かった。

「私はみんなに、こそこそと見られてるのが恥ずかしいの。ねえ? 隆史」

言って舞は隆史を向いた。

「全然恥ずかしくないよ、俺。あはは!

「もう、隆史ったら……」

「フォーフォフォフォ! 愉快じゃ、愉快じゃ。フォーフォフォフォ!

テルとセベアが同調して笑う。

「ウフフ♪ まったくそうじゃの」

それにテイクが相槌を打った。

「もう!みんなして私をからかって……」

それが精一杯の言葉だった。舞は更に顔を赤く染めた。

「隆史、食器片付けるの手伝って」

「うん、分かった」

食卓にはテイクらの姿はもう無かった。余程急いでいるらしい。食事を隆史と舞よりも早く平らげてはブリッジデッキへと向かって行った。舞と隆史に気を遣った所もあったのだろう。二人きりで食事を楽しんで欲しかったのかもしれない。

「師匠達なんか急いでたね。何でだろう?

隆史が舞に訊いた。

「夕刻頃、町が見えてくるはずだからよ。今の内に方角とかを確かめたいのよ、きっと」

舞はテイクらが自身と隆史の関係を邪魔せぬようにと先に席を後にしたことを、彼らの心を読んで知っていた。だか、しかし、それは隆史には内緒にした。

「序でだけど、食器洗うのも手伝ってね。隆史」

「はいはい」

渋々と隆史は答えた。しかし、内心は浮き浮きとした気持ちだった。

「私と食器を洗うのが楽しみだと思ってる」

隆史の心を読み舞は言った。

「そうだよ。そうれがどうかした?

開き直るようにして隆史は答えた。

「もう、隆史ったら……。一杯こき使ってやるんだから! ウフフ♪」

「それだけは、どうかご勘弁を~!

隆史は冗談含みに泣きべそをかいて見せた。

「駄目よ! 一杯一杯こき使ってあげる。ウフフ♪」

「そりゃないよ~!

「でもね、隆史。食器の後片付けが済んだら、また甲板に出ましょ」

舞のそれはまるでデートに誘っているかのようだった。隆史はそれを悟ると有頂天になるのだった。

「うん、分かった。俺、頑張って手伝うよ」

「よしよし、良い子ね。ウフフ♪」

「ああ~! また子供扱いしたなぁ! 後でゴリゴリしてやるからな!

「それはこっちの台詞よ。ウフフ♪」

言われて隆史は舞にゴリゴリの刑をされたことを思い出した。

「舞には敵わないや! あはは!

それが隆史の正直な気持ちだった。

「さあ、全て片付いたし甲板へ出ましょ」

食器洗いなどを全て済ませてから舞が言った。隆史は舞が食器などを片付けている間、タイルブラシで床のタイルをゴシゴシと磨いていた。最後に舞が水まきを手伝って作業は終了したのだった。

「舞のおかげで助かったよ。ありがと。いや~! 疲れちゃったよ」

日頃やり慣れていないこともあり、隆史の腰はパンパンだった。

「冷蔵庫にサイダーがあるわ。それを飲みましょ」

舞が優しく言った。

「へぇ~、妖精の国にもサイダーって有るんだ?

「何でもあるわよ。意外とね。ウフフ♪」

「妖精の国のサイダーってどんな味するんだろ? 何だか楽しみだな」

隆史は好奇心を膨らましてそう言った。

「人間界のサイダーよりも味が濃厚で美味しいわよ」

舞が綻びながら言う。

「舞って人間界のサイダー飲んだことあるのかい?

隆史が訊いた。

「あるわよ。昔々ね……人間の少年が持ってきてくれたの」

「へぇ~、そうなんだ」

此処で一旦、間が開いた。隆史はその少年のことが気になった。隆史は思いきってその少年のことについて訊くことにした。

「……その少年とはどうなったの?

「何にもなってないわ。私、今よりももっと幼かったもの」

「そっか……それで、少年は?

「私が見えなくなったわ。それで、おしまい。……この話はもうやめましょ」

舞が辛そうに言った。隆史はそれを悟って、これ以上訊くことを止めた。

「さあ、サイダーだ! 舞、早く飲もうよ」

話を逸らすために隆史はそう言った。

「まあ、せっかちね。ウフフ♪」

言うと、舞は冷蔵庫からサイダーの入った瓶を二つ取り出した。

「甲板で飲みましょ。景色見ながら……良いでしょ?

舞が訊く。

「うん、その方が良いや!気持ちよさそう」

「それじゃ決まりね。ウフフ♪」

そして二人は甲板に出た。外に出るなり、舞は後ろのブリッジデッキを見た。テイクが顔を見せていた。舞は思わず舌を出して“あっかんべ”をした。テイクはそれに気付くと、笑って頭をかきながら舞にウインクして見せた。

「もう! テイク達ったら……また見てる」

舞が少々怒り気味に呟いた。

「別にいいじゃないか。俺、全然平気だよ」

隆史が言う。

「男の子と女の子は違うの! もう、隆史ったら本当に馬鹿なんだから」

「御免。……けど、開放的で良いじゃないの? 隠れてこそこそするよりよっぽどマシだよ」

言われて舞は何だか納得するものがあった。舞は言った。

「隆史にしては良いこと言うじゃない。そうね、堂々としましょ」

「そうさ!堂々とすればいい。恥ずかしがることなんか全然無いよ」

そう言ってにこやかに笑う隆史を見ていると、舞は無意識的にホッとした。

「それじゃ、サイダー飲んだ後、何して遊ぶ?

隆史が訊く。

「遊びは後からにしましょ。少し休憩したいから私は景色が眺めたいな」

言って、舞は隆史の隣に座り込んだ。隆史も納得したように座った。

「空、今日も綺麗だね」

「そうね……。ねえ、隆史」

「ん?

「人間と妖精の事についてなんだけど……」

舞が決まり悪く言う。

「舞は困ってる。それなら昼前にも聞いたじゃないか」

「違うの! 聞いて、隆史」

言って、舞は片手を隆史の肩に置いた。

「ひょっとして……良い方向で考えて良いのかな?

隆史が言う。

「それはまだ決めきれないけど。でもね、人間と妖精は上手く付き合っていける気がしてるの。最後の最後まで」

「最後の最後って、妖精が見えなくなるまでの事?

「そうよ」

「それなら俺と付き合えばいいじゃないか!何で悩むんだよ」

「だから別れが怖いからよ。何度も言わせないで」

「俺は……別れたくない。ずっと一緒にいたい……くそ! どうにかならないのかよ!

隆史は思わず感情を荒らたげて叫んだ。

「こればかりはどうにもならないわ。別れは必ず訪れる……それが運命なの」

舞は隆史を宥めるようにして言った。

「運命なんてクソ食らえだ! ちくしょう!

隆史が更に感情を高ぶらせた。舞は思わず言った。

「落ち着いて、隆史。でもね、ずっと友達なら別れも少しは楽なはずよ」

「……友達以上に俺は考えてるんだ」

隆史は感慨深くそう呟いた。

「そうね。それは良く分かるわ……」

舞も同調したように言う。此処で二人は暫し黙り込んだ。

「何だかしんみりしちゃったわね。話題を変えましょ」

そう言うと、舞はサイダーを口にしようとした。その時だった。

「舞……、俺は舞が見えなくなってもずっと好きで居る。約束するよ」

真剣な表情で隆史は舞に誓った。

「もう、隆史ったら私を困らせるのが得意なんだから。ウフフ♪ でも嬉しいわ。ありがと、隆史」

「そう言われると照れるや! さ~て、話し変えるんだろ? 何話す?

「何も」

言って、ようやく舞はサイダーを口にした。

「何もって……、別の話しようって言ったのはそっちだろ?

「ウフフ♪ そんなに怒らないで。そんなことよりも景色眺めましょ」

「まったくさ。舞って意地悪だよな……」

言って、隆史もサイダーを口にした。とても美味しかった。

「私の尻に敷かれて居るんだから当然よ。何か問題あって?

「はいはい、お姫様。地上の景色でも眺めましょ」

言って隆史は立ち上がった。

「お姫様は止めてって言ってるでしょ! もう、隆史ったら……」

舞も隆史に習い、立ち上がりながらそうぼやいた。二人は地上の景色を眺めた。するとどうだろう。目に入る景色は、先ほどとは打って変わって峡谷が広がっていた。ずっと向こうには砂漠地帯が見える。その方向へと眼を細めてみる。うっすらとだが確かに三角の建造物が見えた。そう、巨大なピラミッドだ。

「舞! 彼処にピラミッドが見えるぞ! 凄いや!

「本当だ! 素敵ね」

「うん」

二人は、この壮大な光景に圧倒されたかの如く、しばしの間、口を噤んだ。飛行船はピラミッドのある方角へと進み、やがてはピラミッドの頂上付近を遂に通過した。それはとてもとても大きかった。途中、ラクダを引き連れている旅人を見かけた。隆史は思い切りよく「お~い!」と言っては手を大きく振った。声が届いたのか、それに応えるようにして旅人も隆史ら飛行船に手を振るのだった。隆史と舞は、とうとうサイダーを飲み干した。“遊びの時間だ”隆史はそう思った。その時だった。遙か彼方にぽつりぽつりとだが、オアシスに町並みが見え始めた。隆史は言った。

「舞、もしかして彼処が今夜泊まる所じゃないのかい?

「そうね。思ったよりも早く辿り付いたようだわ。テルの予言も半分当てにはならないわね。それとも、もう少し先に大きな国が見えるのかしら?

「きっとそうだよ。彼処はきっとまだ町外れだろ? でっかい国がこの先に絶対あるんだ」

そう言って隆史は力を漲らせた。

「そうね……。彼処はまだ遊牧民の里のように見えるし、そうかもしれない。ウフフ♪ 隆史ったら、よっぽど楽しみなのね」

「うん……」

「私も楽しみにしてるわ。隆史とその国を空中遊泳するのを」

「空中遊泳?

隆史が首を傾げた。

「空を飛んで回る事よ。もう、隆史ったら……馬鹿なんだから。学校で習わなかったの?

「習ったような、習っていないような……分かんないや! あはは!

「ウフフ♪ 無知ね。でも其処が良いところでもあるのよ」

「どうして?

「それだけ隆史は純粋って事。大人になればなるほど純粋さは薄れていくものなの」

「そっか……。なら、ずっと馬鹿のままなら舞が見えなくなることもないって事だよね?

「それは自然に逆らうことと同じで無理な話だわ。馬鹿なふりをしても見破られるし、第一、成長しなければ生き物は生きてはいけないの。勿論、頭のおかしい人ならばずっと子供のままだと思うけれど、そんな人は、私は御免よ」

その少し醒めた目をして言った舞に、隆史は何も言えなかった。オアシスは次第に広がりを見せ草原地帯へと変わった。其処から何ヘクタールもの壮大な畑などが彼方此方に見えてきた。目まぐるしく変わる光景に、舞と隆史は景色を眺めることに対して飽きもせず、チヤホヤと会話を楽しみながら、今あるこの時間をとても大切に思った。やがて午後の三時になった。此処で、舞がティータイムを取ろうと隆史に提案した。隆史は勿論、承諾した。

「師匠達も呼んでくるよ」

隆史は舞にそう言ってからブリッジデッキへと足早に向かった。

「師匠達、三時のおやつの時間ですよ!

元気よく隆史が言う。

「フォーフォフォフォ! 三時のおやつとは、これまた久しぶりじゃの」

テルが微笑みながら言った。

「うむ。済まぬが隆史よ、一国がもうすぐ其処まで来てるうえ、今は目が離せん。悪いがおやつは此方まで持ってきてはくれぬか? なあに、ワシらには気を遣うことなく、食卓で姫様と二人、仲良く会話でもしながらティータイムを楽しむが良い」

テイクが、真剣だが優しい眼差しで言った。

「はい、分かりました。それじゃ、舞にそう言っておきます」

言って、隆史はブリッジデッキを後にして食卓へと移った。

「舞、師匠達、今は忙しくてこっちには来れないってさ」

食卓に着くなり隆史が舞へ言った。舞はティータイムの支度を済ましていた。

「そう、残念ね」

「師匠達の分、持って行くよ」

言って、隆史はテイクらの分を、上等な銀のトレイに載せてから足早にブリッジデッキへと戻ろうとした。その時だった。

「待って! それなら私が行くわ。近況を知りたいし」

舞が隆史の行動を阻止して言った。

「うん、分かった」

素直に隆史は承知した。舞は隆史から紅茶とクッキーが入った器を載せた銀のトレイを受け取るとブリッジデッキへと向かった。

「おやおや、今度は姫様の登場じゃわい」

セベアが言う。

「姫様が来たと言うことは、近況でもお訊きに来たと言うことですかな?

テイクが訊いた。

「緊迫したところお邪魔して悪かったわね。紅茶は此処に置いておくわ。みんなで飲みながら舵の方宜しく頼むわね」

「フォーフォフォフォ! お邪魔などとんでもない。ちょうどのどが渇いていたところですじゃ。ありがたい」

テルが微笑みながら言った。彼は一番先に紅茶を手にした。

「所で、後どれ位で着くの?

「そうですな……。水晶によると、あと二時間ほどですじゃ」

テルが熱い紅茶を啜りながら言った。

「それじゃ、五時頃と言う事ね?

「はい」

テイクも紅茶に手を出してはそう答えた。続いてセベアも紅茶を手にした。

「実は言うとね、心配事が一つあるのだけれど……」

「何ですかな? 姫様」

「その国では私たちの言葉が通じるかしら?

此処で三人が紅茶を一気に吹き出して笑った。

「何がおかしいの? 私は真剣に言ってるのに……もう」

「いや、すみませぬ。姫様、人間界と違って妖精の世界では強力な意思相通というものがありましてな、言葉は違っても普通に話し合えるものなのですじゃ。ですから心配はご無用です」

テイクは笑いを堪えて言った。舞は顔が赤くなった。

「そうだったのね。そんなこと今まで知らなかったわ。何十年も生きてるのに……もう、恥ずかしい!

「それで商人共は何処の国にでも気楽に行けるのですじゃ。これで納得いかれましたかの? フォーフォフォフォ!

テルはそう言うと、カントリーマアムのように柔らかいクッキーを一つばかり口の中に抛り込んだ。

「そうだったのね。私はてっきり自分達の国の言葉が喋れるのかと思っていたわ」

「何十年生きておっても姫様はまだ若い。知らぬ事の一つや二つあって当然ですじゃ。ですから何も恥じる事はありませぬぞ。フォーフォフォフォ!

クッキーをもぐもぐと噛み砕いているテルに代わってセベアがそう言った。

「ありがとう。そう言ってくれると気が楽になるわ」

言って、舞は微笑んだ。

「所で、隆史の奴が待っておるのではないですかな?

テイクが訊く。

「そうね、紅茶がぬるくなる前に戻らなきゃ。……それじゃ、頼んだわね」

「ご心配なく。ささ、早くお行きになられたほうが良い。その方が隆史も喜ぶ」

「まあ! まるで邪魔者扱いね。でもありがとう、気遣ってくれて」

言うと、舞は頬を赤らめた。

「なあに、何てことありませぬ。それでは後ほど」

言って、テイクは舞にウインクをして見せた。こうして舞はブリッジデッキを後にしてから隆史の元へと急いだ。しかし、何と言うことだろうか。隆史は舞を待つことなく、おやつをたんまりと一人で頂戴していた。舞は思わず言った。

「まあ! 食いしん坊ね。私が待てなかったの?

「うん、きっと遅くなると思ってさ」

「隆史ったら……、もう知らない!

舞はそう怒り気味に言うと、隆史から離れて座ってから「フン」と、そっぽ向いてティータイムを一人で楽しんだ。舞が何故に怒っているのか把握できないまま困惑する隆史は訊いた。

「参ったな、何でそんなに怒ってるの?

「……乙女心」

舞がそうぶつぶつと呟いた。

「乙女心?

隆史は首を傾げた。

「そうよ。隆史は私の乙女心を傷つけたの……。酷い子」

再び怒り気味に舞は言った。

「ちょっと待てよ! 俺は傷つけた覚えはないぞ」

隆史が咄嗟にそう言った。

「私をそんなに待てなかったの? 尻に敷かれてるくせに……」

ふてくされたように舞が返した。

「何だよ! そんなことで怒ってるのか?

「そうよ。悪い?

そう言って、舞は隆史を睨み付けた。

「なら悪かったよ。御免!

「許してあげない」

「勘弁してくれよ!舞の入れた紅茶とクッキーの香りが余りにも良くてさ……つい手を出しちゃったんだ。そしたら、あまりに美味しくて止まらなくなっちゃったんだよ」

隆史は正直に告白した。それが好印象だったのだろう。舞が次に言った。

「……本当? 本当に美味しい?

「ああ、今まで飲んだこと無いよ、こんなに美味しい紅茶。アップルティーって言うんだろ? 始めて飲んだけどリンゴの香りで直ぐに分かったよ。後、クッキー! こんなに柔らかくてチョコチップが沢山入ってる手作りのクッキーは初体験だよ。本当に美味しいよ、舞」

やや興奮気味に隆史は言った。それがより一層、舞に好印象を与えた。

「ウフフ♪ それじゃ許してあげる」

言うなり、舞は空中を舞って隆史のそばに座った。

「でもね、クッキーは私が作ってはないのよ。旅に出る前に召使いさん達がこさえてくれた物なの。だから、とっても美味しいはずだわ」

少しばかり落ち込み気味に舞は呟いた。

「何言ってるんだよ。舞が作った物だってきっと美味しいはずだよ」

「そう思う?

ちらりと隆史を見つめて舞は訊いた。

「うん」

言って、隆史は微笑んだ。舞はそれがたまらなく嬉しかった。

舞は言った。

「それじゃ、これからクッキー作りしましょ」

「え? 今から?

「そう、今すぐよ。それからまたティータイムしましょ。大丈夫、四十分ほどで出来るわ」

「ええ~! 四十分も……」

「隆史には、私の作ったクッキーを食べて欲しいの。特別よ、ウフフ♪」

舞は乙女心をちらつかせて言った。

「てことは、もしかして師匠達の分は無いって事?

隆史が訊く。

「残念ながら沢山作る時間がないの。だから隆史と私の分だけ作りましょ」

舞は五時には一国へと着くことを知っているためそう返した。

「分かった。それじゃ、みんなには内緒だね」

「そうね。ウフフ♪」

そして、舞と隆史の共同作業でのクッキー作りが始まった。調理の途中段階で、本当ならば生地を三時間ほど寝かさなければならない工程を省いてクッキー作りは続いた。最後にレモンアイシングをたっぷりとクッキーの表面に塗り二百℃のオーブンで五十秒ほど熱すればレモンクッキーの完成である。レモンアイシングは固まるまでに二・三時間掛かるが、それも省いて隆史と舞はレモンクッキーを食べた。

「時間がなかった割には結構いけるわね」

舞が省いた工程を惜しみながらも言った。

「何言ってるんだよ! 全然美味しいよ」

! ! と叫びながらもクッキーを口にする隆史の言葉には嘘がなかった。

「本当? 嬉しい……」

舞の乙女心はたまらなく有頂天へと達した。舞は続けた。

「それじゃ、今度はミルクティーでもいかが?

「ミルクティーっていうのも飲んだことがないや! うん、飲む飲む!

「ウフフ♪ それじゃ作るわね。食卓に座って待ってて」

隆史は十五分ほど待つ事になった。舞がミルクティーをようやく持ってきた。

「隆史、出来たわよ。どうぞ召し上がれ」

可愛く舞は言った。

「待ってました! どれどれ……良い香りがするや! それじゃ頂きます!

隆史はミルクティーを口に含んだ。それは実に円やかでいて甘さのある香ばしさを漂わせた。隆史は思わず言った。

「美味い! 最高に美味しいよこれ」

「牛乳の他に生クリームも使ったの。美味しいはずだわ」

言って、舞は誇らしげになった。舞は続けた。

「さて、ティータイムが終わったら甲板に出てみましょ。もうじき一国が見えてくるはずだわ。ウフフ♪ 楽しみね」

「うん。それじゃ急いでクッキー食べなきゃ」

言って、隆史はレモンクッキーをがつがつと食い始めた。

「もう、そんなに急ぐこと無いのに……。隆史ったら」

そして二人は和やかにティータイムを過ごすと甲板へと出た。それはそれは大きな一国が目の前に姿を現わしていた。

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