書評 @大沢在昌「帰去来」は壮大なSFサスペンス

=小説家で詩人の滝川寛之による書評シリーズ=
書評 @大沢在昌「帰去来」は壮大なSFサスペンス
大沢在昌さんと言えば、私個人的には「流れ星の冬(https://amzn.to/2QBxnw8)」なのだけれども、その他、大沢さんの著書には、ハズレが全く見当たらない。全てが大傑作の塊なのである。この辺が。さすが直木賞作家だな。と感じずにはいられないと言ったところであるのだけれども、元はと言えば、今回の「帰去来」という作品の主人公である女性警視(もう一つの世界では警部補でもある)と言った構成ではなくて、彼の得意なジャンルは”ハードボイルド”であると確信しているのだが、それを今回の作品で見事に覆されたと言った感じ。”もはや、あっぱれ!” その一言に尽きる。
当作品「帰去来」の冒頭は、詳しく述べられないのだが、主人公である女性警部補(刑事)のおとり捜査から入る。小雨のちらつく光景の描写が見事で唸るのだが、それだけではない。実に巧妙でシンプルに物語を組み立てているといった具合なのだ。それから彼(大沢在昌さん)の持ち味である筆力のある文体。もうそれだけで読みはじめから世界へ誘われてしまう。酔いしれてしまう。
しかしながら、この冒頭を裏切るようにして、東野圭吾さんばりのサスペンスが一風異なったものへと変貌してゆく。それが装丁にも記されているとおりの、”タイムパドックス”と”パラレルワールド”の融合体なのだ。手前味噌なのだけれども、私はそれをちょうど十年前(2008年)に執筆したことがあって、「愛するということ」という処女作品なのだが、この手の作品は執筆に時間を要する。おそらく大沢在昌さんも相当苦労して脱稿したに違いない。そう思うと、”お疲れ様です。” と、一言添えて上げたくなる。
それから主人公の女性警部補(刑事)が”タイムパドックス”と”パラレルワールド”の融合体にて異なる世界へと誘われると、そこは違う日本社会であったと言うのが味噌でもある。日本は太平洋戦争を敗戦後、民主主義ではなく、共産主義へとなり、地方分権さながらの連邦国となっていた。と言うのが、自然と読者へ飲み込ませる仕組みになっている。これに関しても見事だと感じた。
勿論、土台はサスペンスであるからして、実に様々な仕掛けが施されていることは言うまでもないことなのだけれども、主人公である女性警部補(刑事)の父親と、冒頭に登場するこの世に存在しないはずの殺人鬼が、今後どのようにして再登場するのか? どう密接に絡んでくるのか? 私はそこを注視して読んだ。
作品が良作なのか愚作なのかといった話は大沢在昌さんに失礼であると思う。彼の作品群に間違いはないのだから。私個人的には三回読んで良さが分かった「流れ星の冬(https://amzn.to/2QBxnw8)」ではなくて、最初から面白く読める、感じる、当作品を推したい。「帰去来」は大変すばらしい作品である。この作品へ費やした九年の構想は、伊達ではないなと読めばすぐにわかるはずだ。悟るはずだ。何故なら、全てが完璧なのだから。私は当作品を読んで自信を無くしてしまっただとかそんなことはなく、まだまだ自分の可能性に伸びしろがあるな。と、やる気がわいたのは言うまでもない。

大沢在昌「帰去来」

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