無料小説 アマチュア時代作品 @川辺にて(11)

その日の夕刻、隆史は甲板上で家族の事を一人ぽつんと考えていた。舞は夕食の支度で、何時もの様に隣には居なかった。辺りは“シン”としていて、一人で何かを考え思いふけるには絶好の機会だった。実は、隆史には父親が居なかった。三ヶ月前、離婚がようやく成立した。それまで母と父は別居生活を送っていた。隆史の父は昔、証券会社に勤めていてディーラーをしていた。しかし、成績が思わしくなく、勤めてから三年ほどで首となった。それからは、何とも怪しげな株式専門の情報提供会社、所謂情報企業に腰を据える事になるのだが、会社側が強力なパイプで取得したインサイダー情報を個人利用し、陰でひっそりと莫大な利益を得ていた。勿論、会社側の規定により情報を個人利用する事は禁止されていたが、隆史の父はそれに構うことなく着実に財産を増やしていた。成金となった父にキャバクラなどの女性達が放っておくはずがなく、金に物を言わせては女遊びに父は毎晩の如く夢中になっていた。別居の理由はそれだった。隆史の母は、離婚をしてから隆史を引き取る条件として、父に財産の半分を譲り渡すよう裁判所に提訴していた。そして、母の訴えは認められた。離婚成立である。離婚成立前から隆史は田舎町である母の実家に居た。そして母は、父から慰謝料を受け取ると実家を出て近くのアパートへ隆史と共に引っ越したのだった。隆史は転校前、転校先であるこの田舎町に不安を抱いていたが、転校先の同級生のみんなは、田舎の子供らしく、とても優しく隆史を迎え入れてくれた。おかげで隆史は学校にすぐに馴染めた。友達も沢山できた。しかし、父親の居ない心に空いた空間が、毎晩隆史を苦しめた。隆史は、ろくでもない父親ではあるが、唯一の存在であるその姿を思い出す度に涙が溢れ出た。隆史はまだ小学5年生。そればかりは仕方のない事だった。どう慰めても、しばらくのあいだ心が癒される事はなかった。そんな家庭の事情があるにも拘わらず、妖精が見えるほど隆史が純粋で居られたのは奇跡に近い事だった。普通ならば、心は大人のように醒めていただろう。そんな状況の中、隆史はミーと偶然出会い、そして舞と遭遇した。これはきっと神様のおかげかな? 隆史がそう考えているときだった。

「隆史」

舞の甘い美声が背後から届いた。

「ん?

哀愁漂う微笑みを浮かべて隆史は顔を振り向かせた。

「夕飯の支度出来たわよ」

言いながら、舞はエプロンを外しながら隆史に近づいてきた。髪はポニーテールにしてある。それはそれで、とても彼女に似合っていた。舞は続けた。

「家族の事でも考えてた?

「うん。考えてた」

少し間が空いてからだった。舞が真剣な面持ちで呟くようにして言った。

「それで、お父さんにはもう会えないの?

やはり心は見透かされていた。それは一体いつからだろうか? 厨房にいるときでさえ隆史の心を果たして舞は読んでいたのだろうか? 隆史はそう思いながらも言葉を口に出した。出せなかった。

「……」

急にふと涙が溢れては頬を伝い下へと零れた。段々と隆史の感情は高ぶった。それは決して怒りではなく、けれども気持ちの良い物ではなかった。隆史は泣いた。誰に見られても構わなかった。

「御免ね。訊いちゃいけない事訊いちゃったね、私」

いや、良いんだ。大丈夫――。と、隆史は言いたかったが、口が上手く回らず舞には理解不能な言葉を口にしていた。しかし、舞には分かった。舞は隆史の感情を思い切りに理解した。舞は困り果てた顔から、まるで隆史の感情が移ったように、段々と泣き顔になっていった。遂には、舞も同情心から泣いた。

「なんだよ。舞まで泣くことないだろ?

少しばかり泣き止んだ隆史が言った。

「ううん。私がいけない事言っちゃったから……御免ね。御免ね」

「謝るなよ。舞は何も悪くないよ。だからほら、泣き止んで」

言って、隆史は舞を力強くいて、かつ、優しく包み込むように抱きしめた。やがて舞は泣き止んだ。舞は言った。

「こうしていると幸せな気分。そうでしょ? 隆史」

「また心を読んだな?

「私もね、同じ気持ちよ。幸せを感じる」

「ほんとに!?

隆史は思わず喜びの表情に変わった。完全に泣き止んだ瞬間だった。

「ええ、本当」

顔を赤らめながら舞は答えた。隆史も顔を熱くした。舞は続けた。

「でもキスは駄目よ」

「あちゃ~!そんな事まで」

参ったと言わんばかりに隆史はぼやいた。

「ウフフ♪ 隆史って、すぐキスしたがるのね」

隆史の胸元から離れた舞は言った。

「仕方ないだろ。一応、男なんだし……」

「純情な隆史にはまだ早すぎるわ。だからキスはお預けよ。ウフフ♪」

「はいはい、お預けね。それより、ほら!

言って、隆史は彼方に見える太陽を指さした。太陽は、今、正に沈もうとしている。ゆらゆらと、ゆらゆらとした赤い光景に隆史と舞は思わず口を噤んだ。

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