散文詩 @「清秋」

「清秋」

いつしか君と海辺を歩いた。
さりさりと砂から聞こえる踏み音は、
どこか遠くの海鳥のようでいて清秋。
嗚呼、冬がきて、春を迎え、そして夏になる。
次の秋ころにはまた一つ年を重ねるね。
そしてまた、時代は新しくなる。
手をつないでいこう。
一緒にだよ。

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無料小説 処女作品@「愛するということ」第二章 =21=

知子が目を覚ました。其処に徹の姿は無い。寝室の南面から突き出した出窓から朝の光が射している。寝間着を身にまとう彼女は、上等なベッドから身を起し窓辺へ歩いた。洋風に片面三つとガラスを区切る木製の窓を開き、外の空気を寝室へ一気に流し込む。実に様々な鳥や虫の囀りと共にそよ風が自身を包み込んだ。知子は目を閉じた。全ての匂いを一杯に鼻から吸い込む。森と緑色の芝生がすぐ目の前に感じ取れた。それから目をゆっくりと開き澄渡る上空を眺めた。ここは、きっと違う世界だわ知子は、そう実感した。彼女は視線を森の大木に移した。太い根が土から顔を覗かせるその側には、沢山の花が咲いているそれを二人の少女が選ぶようにして幾つか摘んでいるのが見えた。自分と恵だ。知子は、驚きを隠せない様子で目を見開らいた。母屋の玄関口へと音を立てる事無く知子は急いだ。上等な扉をすり抜けた瞬間に体は重みを成して通常の状態となった。素足のまま二人に向かって歩いた。踏みつけた葉の一枚一枚がひんやりと冷たくとても気持ち良い。姉妹が女性の存在に気付いた。

「おはよう」

 知子が先に彼女らへ言葉をおくった。

「おはようございます」

 とても明るい挨拶が幼き彼女自身から返ってきた。

「あのおねえさんは、誰?

 やや怪しげに此方の世界の自身が問いかけてきた。

「あ、私ね。倫子おばさんの従姉弟の娘よ」

「あっ! もしかして、恵美おばさんの? ちがうか!

彼女の記憶にはっきりとある懐かしい顔立ちをした少女は、苦笑いを浮かべた。

少し遠くに見える正門が、錆付いた部分を軋ませる様に、音を立てて開いた。大人の男性らしき者が一人、中へ入ってくる。

「みんな、何をしてるのかな?

 男性は一瞬、知子の顔にチラッと視線を向けたあと、直側にいる少女二人に笑顔で話しかけた。

「おとうさん。おかえりなさい」

 男性は「ただいま」と返事を送った後、「お嬢さんは?」と知子へ言った。

「わわたしは……」

知子は思考が吹き飛んだかのように頭の中が真っ白になった。

「知子と恵は、そろそろお家に戻っていなさい」

男性は彼女らがブツブツと話し合いながら母屋へと戻っていくのを確認した後「向こうの世界の知子ちゃんだね?」と、優しく話しかけてきた。

「どうしてそれを……まさか……徹さん」

知子の脳が激しく混乱した。目の前に居る男性は、上村の姓をもつ山田徹であり、彼自身も、実は、もう一つある世界の存在と彼女を知っていた。

「実はね、向こうで自分と交際していた美代子さんが、昨日の晩来ていたんだ。正直驚いたよ。倫子さんと結婚してから心霊現象や色々とね、聞かされては居たんだけど、それでも今まで全く興味が無かったから。いや、本当に今日君とここで出会うまで、あれは夢だと信じて疑わなかった。それにしても、まさかあの世界で自分が君に……」

「いえ、こちらの世界に存在する徹さんの責任じゃないです。気にしないで下さい。でも、あの……ここに居る徹さんは、お母さんと結婚してたんですね。自分も本当に信じられないです」

「ああ……でも、こっちからすれば逆におかしくなりそうだよ。向こうの自分は『上村』となる事無く強制的な愛人となり、君や倫子を苦しめて居たとは……まったく酷いもんだ……本当にすまない」

「ああの、美代子さんは……」

「……残念だけど、君の運命と共に……自分にはどうする事も出来なかった。なんと言えば良いのか……本当に申し訳ない。まさか、恵だけを残して全てが消失してしまうとは……」

 彼は表情をくしゃくしゃにして涙を流し始めた。

「わたし……死んじゃうんですか? 消失? どうして……」

 美代子と自身の死を察した知子は、気が重く動転した。

「“全ては、一人残された恵ちゃんが、この全ての運命と導きにある深い意味に“か。本当に不思議な体験だった。コチラの世界に戻る前に、全く面識の無い紳士的な老人が一人突然訪れてね。その方が最後に色々と話されたんだよ」

「あの……わたしは、これからどうすればいいんですか?

「それは自分にもわからない。自身の最期に行うべき事は、君にしか見えない。只、一つ言える事は、全てには理由があるということ。知子は何故、今、ここへ導かれたのか? 行き着くまでにはとても遠く感じられるが、答えはいつも意外と簡単な所にある」

少しほどばかり沈黙が続いた。朝のそよ風は一旦止んでいたが、再び知子の長い黒髪を靡かせ始めた。徹は、彼女の困惑した表情から顔を逸らし、まるで涙を乾かす様に、太陽が昇るとても青い上空を思い切りに見上げた。一方の知子は、緑色に広がる芝に付着した滴を確認するかのように、やや俯き、そして焦点をぶらつかせた。彼女は、これまで自身に与えられた運命の記憶を辿った。知子はとっさに俯いた顔を起し、ガマ側にあるこの森の深くを見渡した。しかし、異常な物体の気配は何も感じられない。確認を終えた後、気がかりな結界があるであろう先にある向こう側を見てみる。どうやらもう一つの世界とは、少し様子が違っている事が分かった。知子は、徹に何を言う事無く、敷地内にある目的の場所へと急に歩き出した。徹は共に向かうようにして彼女の後を黙って追った。

「ここに何か感じるのかな?

 知子がやっと足を止めた場所で、徹は話しかけた。

「いえ。向こうの世界では、こんな物なかったから……ちょっと気になって」

「ああ、そうか。確かに向こうでこれはまだ存在しないはずだね……知子ちゃん、全ては君が決める事だ。このままこの世界に居る事も、また一つの手段だと思う」

 徹は、確かに全てを知っているかの様に発した。そして知子は、この時、この言葉の意味を瞬時に理解できた。

「わかりました。徹さん、ありがとうございます」

四角い盾の様な慰霊碑。その側にもう一つ建てられた背丈ほどの塔に、大きく刻まれた先祖の名を目視した知子は、全ての答えを見つけ、そう返事した。

「いや、いいんだ……知子の答えは正しいと思うよ。自分はねこれからも、君達二人をこの世界で精一杯に、最後まで大切にしたいと思ってる。それが、あの体験が教えてくれた僕の答えだからね」

知子の瞳は涙で滲んだ。光は、再び彼女を迎えに来た。最後に、どうしても口から出せなかった言葉を徹向けて発する。さよならおとうさん……。と。

恵は廊下の先で倒れていた。除霊所も含む全ては、深夜の冷気を吹き飛ばすほど非常に激しく炎を上げている。除霊所の主柱となりうる箇所が完全と耐久性に欠けた時、屋根はもろくも崩れ、勢いを増した炎が梁を食い尽くした時、全ての壁を倒壊させた。幸いにも母屋は、其処まで至っていない恵の命には、まだ生存の可能性が残されていた。が、しかし、誰一人として救助に向かう事が困難視されるほどに、全ての入り口からは炎が噴出していた。もはや彼女自身が目を覚まし、そして自力で脱出するしか術は無い万事は休した。うつぶせ気味に倒れた恵は、寝言のようにうめき声を繰り返している。出火の原因は、美代子の霊がまだ残った徹による突発的な放火だった。彼は後に、自身の乗用車にて意識が戻る事無い美代子と錬炭自殺しているのが発見された。徹と共に倒れていた知子の物体は、彼女の魂が違う世界へと運ばれた後に、何故か姿を消していた。恐らく彼女の場合、倫子と同様に、五体全て完全とあの世界へ辿り着いたかに思われた。恵は、遮煙される事なくこの区間充満し行く煙によって、とうとう完全に意識を失ってしまった。燃え盛る火の手と建物の崩壊は、どんどんと彼女の周囲にまで及んでいる。     もはやこれまでか? その時だった。一瞬、恵の手の先が何かに反応しピクリと微動した。

「恵――めぐみめぐみ、起きて」

「おねえちゃん……。おねえちゃん……」

 恵の意識は、まだ完全には回復していない。

「しっかりして。ほら目を覚ましてもう大丈夫よ」

知子は、倒れた恵の状態を起し、あたかも空間を浮くようにしてその場から屋外へと移動を始めた。その時、時間の中に発生するであろう周囲から出る様々な音は、完全と無に等しかった。恵は助かった。今、彼女の目に入る光景は、全焼し崩れ落ちる上村家の最期とも言うべき場面だった。

「怖いよ、おねえちゃん……

知子しがみつく恵の両腕に、思わず力がこもった。それに応える様にして姉は頬をすり寄せた。

「恵……おねえちゃんこれからね絶対にやらなきゃいけない事があるの。私達の為だけじゃないここに居る皆の為にやらなきゃ……ちがう。そうじゃなくて、生きなきゃいけないの。そしてね、開放させるの。幸せを見つけて」

知子が発した言葉の理由に関して恵は到底理解出来なかった。ただ彼女は、知子のこの決意こそが、これから自身より去り行く理由なのだと言うことを何故か直感的に察したのだった。

「だめ! そんなの駄目だよ。おねえちゃん、お母さんみたいに何処か行っちゃうの?

恵は思わず涙目になりながら知子の顔を見た。母である倫子と知子が二重に映し出されているように見えた。

「違うのよ……知子お姉ちゃんがこれから行く所は、恵の心勿論、お母さんも一緒よ。だから大丈夫離れたりなんかしないわ」

知子は、母と同じ口調で話している。

「生きて……そしてね、幸せになるの。これから本当に死ぬほど辛い事があっても、そこに隠された答えの意味が分かるまで。大丈夫、全ては報われるわ」

その後続いた知子のある話に対して、今の恵にはとても理解できる様な内容ではなかった。只一つ言える事は、彼女にはこれから進むべき使命があり、これまで関わった全てにある出来事を意味とし生きる事だった。話しの全てが終わった時、二人は突如として発生した光に導かれた。まるで吸い込まれるかの様にガマの中へ消えていく。

 この地域に朝が訪れた。

 毎朝のように聞こえるとても暖かい音色が、今朝もこの地にある全ての魂を、恵の体内にて目覚めさせた。ひんやりと取り残された夜風が彼女の体の上を吹き抜けてい。その冷たい風には、緑だけの匂いがとても色濃く感じはいつの間にかこの土地に広がる芝で青空を見つめてい彼女は息を深く吸い込んだ。

「わかった。お母さん、お姉ちゃん恵、頑張ってみるね」

恵は知子とまったく同じ感情でそう呟き一滴の涙を流した。

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