無料小説 処女作品@「愛するということ」第二章 =14=

 オープン当時から深夜勤で雇っている掃除婦の顔を思い出しながらそう呟いた。

新規開店と同時に雇われた中村真知子は、戦時中にこの局地で起きた出来事全てを、実は最初から知っていた。彼女の生まれは地元で、そしてまた、1945年3月26日から6月23日までの約三ヶ月間、地獄と化した沖縄戦を、実際に肌で体験した人物の一人でもある。当時、中村真知子は十七才だった。108号室――この一室が建つ地上で起きた悲劇を、彼女は何時までも忘れる事は無かった。

1945413日。

あの日の夜、この辺一帯は、昼間に鳴り響き続けた爆音とは打って変わって、夜行性の鳴虫以外の音は聞こえない程に、とても涼しく静かだった。この場所に集まった人数は、中村真知子の家族五人を含む六所帯からなる二十八名。皆、米軍が音を立てて押し寄せるや否や、この近くにあった“ガマ”と呼ばれた小さな洞窟へと一斉に向ったが、『超過』を理由に断固として避難する事が許されず、やむなく丘を降りて東側から南へ向かおうとした所、この丘の周囲を囲う様に四方八方から攻め寄る米軍の猛追に再び丘の中へと戻され、「もはや成す術を失った」とばかりに、失望色強く顔色に窺わせた地元の者達だ。“ガマ”から離れる際、必然的にグループが構成され、そしてその中でも以前から信頼性のあった男性が自然とそのグループの『長』となり、その後、皆を勇気付けながら牽引していた。またその男性は、入り口付近にいた日本兵から集団自決用として九九式手榴弾四つを受け取っており、極限にまで追い込まれた際の『集団自決』に関して、暗黙なる決定権を持っていた。

「もはや死ぬしかない。皆で死のう」

「何か他に、道は無いのかい?」せめて孫だけでも」

 隣にいた老夫婦が、恐々とした様子で言った。

「どうせ奴らに見つかれば銃殺される。掴まれば更に酷い方法で処刑されるって兵隊さんから話は聞いてるしでも、今ならこいつで楽に死ねる。あの兵隊さんも「万一、追い込まれた際は、痛む事無く死ねる手榴弾での『自決』の道を選べ」と言っていた

 男性は最後に決意した口調でやや力み加減にそう言いながら、肩掛け袋から四つのうち一つの手榴弾を取り出して皆に見せた。その瞬間、皆の身震いは頂点に達した。

グループは手榴弾の数に合わせて七人ずつの四つに分かれた。皆、これまで体験したことの無い爆風による痛みと死に怯える様子で、もはや立っている事すら困難なほどに、足の膝上から両手へと伝わる全身の震えが止まらずにいた。四つの各班共に、七人で円を描く様にして並んだ。中村真知子は、当然ながら家族と同じ班だった。隣右には母、そして左には祖父がおり、最後の温もりを与えんとばかりに、強く、強く、彼女の手を握り締めていた。

「九九式手榴弾は、安全装置を抜いてから起爆筒を地面に叩きつけた後、5秒ほど経ってから爆発する」

 と言う事を聞かされていた『長』である男性は、各グループから適当に、『あらかじめ手榴弾の安全装置を抜いておき、そして起爆筒を地面に叩きつけてから円の中央に軽く放る』役を選んでから一旦輪の中に入り、皆にも伝える様にその説明をした。そして最後に、「一瞬で楽に死ぬ為にも、放り込まれたら直に前屈みになって出来るだけ爆発を受け止める様に」と念を押すようにして言った事を、真知子は自身の記憶にはっきりと残した。

 起爆筒を地面に叩きつけるタイミングは、長の号令によって同時に行う事になった。各グループの距離が只でさえ狭い範囲内で別々にどうして出来ようか? 先陣を切った人間のバラバラになるであろう死体をみて、その時、残された誰もが自決に対して躊躇する事は違いない。辺りは再度、静まり返った。

「この世に心残りは、もはや無し」

 と言えば嘘に聞こえるが、この時、誰もが絶望の極みにより無量となりて、自決による安楽死を自身の運命として素直に受け止めていた。

「皆、あの世でまた逢いましょう」

 長は、最後のメッセージとして周囲力強く残した。そして一秒刻みに、「八」で全てとなるカウントダウンは発令された。

「いち」……に」……さん」

 長の教え通り『三』のタイミングで四つの手榴弾の起爆筒は、ほぼ同時に地面に叩きつけられた。およそ『四』となるであろうタイミングには、円の中央に転がっていた。…………ろく……なな。そして、時が『八』となったとき、円の中央に向かって前屈みになった目線の焦点から、極めて破壊的な閃光が、囲う人々を襲い掛かる様に直撃し、そして、後から来る凄まじい爆音と共に、魂は遠くへと去り行き全ては終わった。

「うぅ……」中村真知子は、現実か夢なのか良く分からない空気の中で唸った。強制的に仰向けの状態となった自分の体の上に、何かが重石として乗り掛かっている。夜風が吹いてきた。彼女の顔に、何処から来たのか分からない長い髪の毛がくすぐる様にして覆い被さって来た。全身は完全にショック状態から立ち直れず微動すら出来ない。彼女は、呂律の回らない目で上空を瞬きする事無く見つめたまま息を吸った。そこからは、上に圧し掛かる皮膚の一部が焦げ付いた母の匂いが感じ取れた。

「御母さん……

 彼女はそして目を閉じた。

中村真知子は、母の愛によって、この『集団自決』と言う惨劇から唯一救われた。爆発の一歩手前で、母が真知子を爆発から回避させるように抱き付き、そして彼女の命を救ったのだ。彼女があれから目を覚ましたのは翌朝の事だった。日系人の米兵に頬を軽く何度か叩かれながら「ダイジョウブデスカ?」と発せられ、夏とは思えぬとても寒い悪夢から、命を宝として生きる現実に起こされた時の事を、彼女は生涯大切に感謝した。

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散文詩 @「おしまいはない」

「おしまいはない」

おしまいは
死ぬってのはね
さいごに取っておくものだ。
私だって小説家をやめる時に死ぬことを決めている。
君も最後に夢を追ったらどうだ?
順風満帆な奴に夢はいらない。
君は地獄だからこそ夢を見ている。
そうだろ?
死ぬのは最後だ。
夢を追ってみろ。

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