連載小説 愛するということ 61

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「二つの世界が一つに見えた瞬間だとか言う話しを君が私にしていた時の話なんだが」

「あ、はい。初めて此処に来た時の事ですよね?」

恵の言葉に園長は頷いた。

「確か君はあの時正樹君が二つを見たと言ってたね?」

「はい」

「そのことに関してなんだが、君の言う話しが最近何となく分かってきたんだよ」

恵は思わず足を止めた。それに気付いた園長が恵より行き過ぎた位置から振り向いた。

「不思議な事に、私も最近たまに夢で見るんだ。もう一つの世界をね」

園長はそう言ってから恵に対して横に向いた。

「しかし、これがまた奇妙でね。いや、これ以上話すのは止めておこう」

園長はすこし苦笑いな表情を浮かべて足元へと顔を俯かせた。

「園長先生、実は私も見た事があるんです」

園長は横目に微笑んで見せた。彼は再び恵の方へと完全に向いた。

「そうだね。じゃなきゃ君は正樹君の話を信じない」

恵は遠弱ながらも太陽の眩しい光に照らされた目を細めながら訊いた。

「園長先生、気付いていたんですか?」

「夢の中で見ただけです。君たち二人をね」

恵は驚きのあまり返す言葉が見つからなかった。園長は話を少しだけ変えた。

「そう言えば、ずっと前に正樹君が君に会いに施設へ来ていたよ」

「え?」

恵は突然の話に、一瞬、頭の中が真っ白になった。

「彼が来たのはちょうど君がこの島で事件に巻き込まれた直後でね。それで君に話せなかったんだ。精神的に余計辛くなると思ってね」

園長は申し訳なさそうに言った。

「正樹が、正樹が私に会いに来ていたんですか?」

園長は頷いてから恵の視線を逸らすようにまた海の方を向いた。

「最近、養子先へ電話を掛けてみたんだがね。正樹君は転校した学校で卒業した後、すぐに東京の方へ就職に出たそうだ」

「東京?」

この瞬間、恵には正樹が途方もなくずっと遠くに感じた。二人の間に再び沈黙が少しだけ漂った。恵はふと園長の頭上に広がる向こうの空を見つめた。ちぎれた様な幾つもの雲が足早と風に流され、もっと遠くへとこちらから消えてゆく。

彼女はふと母の言葉を思い出した。――それは何時か必ず訪れる。しかしこのままでは、この雲の様に、正樹は知らぬ間にどんどんともっと遠くへと流され、そして遂には完全に見えなくなってしまうのではないだろうか?

恵はこの先行くべき自分の道が見えたような気がした。

「園長先生……」

「ん?」

「私、中学卒業したら東京に行きます」

「そうか……」

園長は深くそう発した。

「私、嫌なんです。これ以上、ずっと遠くに感じたくないんです」

恵は涙目になった。

「正樹君のことだね?」

「はい……」

園長はふと恵の顔を見た。そして恵の瞳に涙が溢れている事に気付いた。すぐに彼女の涙が一つ零れた。園長は再び視線を海の方へと逸らしてから言った。

「行きなさい。そして運命を感じれば良い。大丈夫、光はいつかきっと目の前に見つかるはずです。世の中は全て祈りから現実となる。それを信じて、これからも生きていきなさい」

「はい、園長先生……」

この日の昼過ぎ、恵はプロダクション側と契約を交わした。彼女の東京行きはこれで決定した。

 

プロダクション側と契約を交わしてから三ヵ月後。恵は中学を卒業して直に東京へと旅立った。今回の件に関して東京に行く事以外は誰にも秘密にした。高校卒業までは、家で最初に会って話をしたミツキプロダクションの営業部長である山本俊夫が持つ家族のもとで世話になる事になっていた。

島を離れるこの日、山本俊夫は初日と同じ部下を連れて東京から迎えに来ていた。この日はもちろん園長も来ていた。園長も共に東京まで行き、世話になる家族等へ挨拶をしてからその日の内で本島へ帰る予定でいる。帰りの羽田空港までは部下に車で送らせると俊夫は話した。

園長は恵に正樹の事について話していた。もし直にでも彼に会いたければ、住所などを養子先に訊いておこうと言ったが、しかし恵はあえて東京で落ち着いてから訊きますと返した。そうでなければ、東京の初夜からずっといてもたっても居られなくなり、それが原因で、何もかもに身が入らず、周りに思い切り迷惑をかけながら、仕舞いにはどうにかなりそうな気がしたからだ。

見送りには同級生の聡子の姿もあった。聡子は本島に居る従兄弟の家から高校の方へと通う事が決まっていたが、しかし恵とは島を離れる日が異なる。

聡子は家族を連れて見送りに来ていた。

「そろそろ船、出る時間だね……」

聡子が言った。

「うん、そうだね……」

二人の間に少しだけ沈黙が漂った。聡子が急に笑顔になって恵を見た。

「恵、ちょっと耳かせて」

「え、何?」

恵は聡子に耳を預けた。聡子は恵の耳元で囁いた。

「今だから言えるんだけどさ、実はいうとさ、一つ年下の幸成とウチ付き合ってたってば」

聡子は気を紛らわそうとそんな話を恵にした。すかさず彼女は恵の耳元から離れた。

「知らんかったでしょ!」

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