連載小説 愛するということ 22

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「こんばんは。何してるの?」

正樹が徒歩よりも大分速いスピードで目的の場所へと到着した時、勉強部屋の窓から外に居る彼に気付いた恵が、始めて会話をしたあの日の様に、逆とも言うべき先に声をかけてきた。恵はもしかしたら前々からこの時が来ることを、毎晩の様に外を眺めては次なる運命として待って居たのかもしれない。正樹は大分後になってそう思った。それほどに、彼女の発見は不思議にとても早かった。

「いや、ちょっとな……。智彦に渡す物があって……。これから戻るところ」

恵と同荘に居る親友の名前を借りて正樹は言った。

「へえ、そうなんだ。あっ! それ、面白そう。ローラースケート? 今度おしえて」

正樹の両足に装着された、ブレーキ部分が大分磨り減り効力を発揮しないローラースケートは、昔からとても親交のある米軍ボランティア団体より施設へプレゼントとして贈られた遊具の一つであった。

「あのさ、序でに話があるんだけど……。少しだけいいかな?」

少し間を空けて正樹は言った。

「なに? またあの話しじゃないよね?」

既に聞き飽きた様にうんざりとした口調で恵はそう返した。恵の言うあの話とは、正樹が彼女に良く言う冗談の事。しかし、それは違う様子だと、彼の真剣な眼差しを見て彼女は後から察した。

「ちょっと耳かせてくれないかな?」

正樹は恵の耳元に唇を近づけた。そして自身の想いを告白しようと非常に小さな声で話しを始めた。が、しかし、どうしても口篭ってしまう。

「なによ、もう。ちゃんと言って」

苛立つ様に恵は言った。

正樹は胸の内にある言葉をとても口に出す事が出来なかった。そこで、窓際にある彼女の机の上にあったノートと鉛筆へ外から手を伸ばし、それを使って全てを告白する事にした。

『――出逢った時から恵の事が好きだ。もし、恵が俺と同じ気持ちならイエス。違うならノーで答えて欲しい』

正樹が書いた字はとても震えている様に見えたが、恵には彼の気持ちがとても理解できた様子。正樹の顔は大分恥ずかしそうにしていたが、それは恵も同じ。

「とりあえず、俺、これから向こうに上がるから、聞こえるように答えて欲しい。それじゃ、待ってる」

恵が正樹に返事しようと口を開こうとした瞬間、正樹は急に、“もしかすれば、弾かれてしまうかも知れない”と言う緊張からその場に居る事に対してとても耐えられなくなり、事務所がある建物へ通ずる階段の方へ直に移動した。彼女から来た返事はとても早かったが、彼からすればとても気の遠くなる位に長く感じた。彼女から来た返事は周囲に聞こえる位にとても大きく喜びある声で「YES!」だった。二人の交際関係は、この夜から始まりを迎えた。

正樹と恵は、施設内で過剰に広がる噂を避けるべく、会う時は人目を避けた場所で寄り添った。お互いのファーストキスは、礼拝堂の外階段から上った場所にある少し広がった場所で交わされた。この建物は荘から見て一つ丘とも言うべき場所にあり、東海岸一帯に広がる街並みを眺望できた。夜ともなれば夜景がとても美しく、二人は限られた夜の一時を、誰も居ないこの場所で共にする事が多かった。

「恵! 恵! 恵は何処行った?」

彼女の居る荘を担当する職員の大きな声が、すぐ下に見えるホームの女子フロア辺りから聞こえてきた。時計など持ち合わせていない二人は、どうやらこの夜も限られた時間を少しばかりオーバーしてしまったようだ。慌てて戻る恵を見送った後、非常に限られた自由なる場所と叩きつける様に襲う強制なる規律正しさを心から恨んだ。

外は、どれだけ自由で幸せなのだろう?

全てにおいて足りないこの世界に最後まで耐えられる子供などまず存在しない。毎週日曜に集団で聞かされる牧師からのキリストの教えなど、酷い体験をしてきた児童らにとっては耳が痒くなるだけ。

この頃、正樹はまだキリスト教の存在価値をとても理解できなかった。長い朝の礼拝は大事な時間を無駄にするだけで、正樹はこの時も恵と二人だけで使いたかった。それほどに、一日の内二人きりになれる時間というものがこの世界ではとても少なすぎた。しかし、この一時の短さが二人の愛へ対する想いというものを大きくさせて行った。

恵と正樹の特別な関係から発生した体験は、初めてだらけ。手を繋いだり、抱き締めあったり、寄り添い語り合ったり、その一つ一つの初々しい出来事をとても大切に、生涯記憶の中へと深く刻んだ。

恵が中学二年となってから、彼女にのみ感じる何か特別なオーラの様な物は更にとても美しく成長していた。恵の噂はこの頃から密かに正樹より年上の男子からも聞こえてきた。それほど可愛く声までもが美しく誰の目にも見えた。明るい性格だけが取柄だった正樹は、とても不釣合いな恵との交際関係に関して、何時の間にか周囲に嫉まれ羨まれた。また、彼自身も、どんどん素晴らしく完成して行くこの目の前に居る女性は、コチラとはとても不似合いで、とにかく彼女は全く違う世界の存在なのではないか? と感じていた。しかし彼女自身はと言うと、確かに周囲では裕福であったプライドや気の強い性格を多少なりとあえてちらつかせ、近づく男子を払う様に遠ざけていたが、正樹の前ではごく一般の女子と同じに、また、誰にも見せない可愛さのある性格を何時も微笑みながらしていた。口に出しては言わなかったが、正樹はそれがとても嬉しかった。

性的な初体験は正樹が中学三年になった頃、夜景がみえるあの場所で。その日の夜の恵はとにかく、まるでもう一つの秘めた存在がこちらへと語っているかの様に正樹は感じていた。

「正樹、あのね……。昨日怖い夢を見たの。とても恐ろしい夢……」

「ああ、それなら俺も見たよ。そっちに負けないくらい凄い夢をな」

「正樹……。お願い、まじめに聞いて」

この言葉を恵が真剣に発した時、一瞬だが彼女の顔が見たこともない女性の顔とぶれる様にしながら見えた。正樹は驚いた表情を露にした。

「これから……。何故か分からないけど、私……。色んな人に犯されちゃうの。でも違う、誤解しないで! 正樹のせいじゃないから。大丈夫……。私、頑張るから」

「何訳の分からない事言ってんだよ。今日のお前、少し変だぞ……。どうしたんだ?」

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